244・マレッサピエー連合軍進軍
「広範囲魔力観測所より緊急報告、魔王軍本陣より国境地帯に向かって異常な速度で進行する部隊が四!! 数は合わせて五百程度ですが進行上にあった結界や罠の大半が破壊されています、このままの進行速度だと最前線部隊との接触まで二十分もありません!!」
「前線に敷設していた結界はAランクの魔物では傷一つ付けられぬ強度の物、罠にしてもSランクの魔物に手傷を負わせるのに十分な威力を有している物ばかりだった。それらを意に介さぬか。十中八九、貴族級であろう、しかも相当に高位の。生半可な者では食い止める所か餌にしかならんな。兵站は各国からの援助もあり万全、補給については全面的にマレッサピエーが受け持つ、『十一指』『ドラゴンナイン』『星罰隊』はそれぞれ一部隊ずつを担当、残る一つはマレッサピエーの勇者が相手取る。全力で迫る四部隊を止めねば、前線は壊滅すると思え!! 陽動の可能性もある、魔力を隠した別動隊を警戒せよ、まっとうな魔族ならば奇襲などせぬがあやつなら、バルディーニめならばその程度の策は弄しよう」
本陣にて通信兵の一報を受けたマレッサピエー宰相オラシオが『十一指』、『ドラゴンナイン』、『星罰隊』、勇者たちに通信魔法で指示を飛ばす、オラシオの隣に座るマレッサピエー国王セレスティオはそれらの様子を緊張した面持ちで眺めていた。
指示を受けた勇者の一人、凍晴六花は本陣前の開けた場所に移動し、戦支度を整えた者たちの前に歩みでた。
「あ、あの大人数の移動はわ、わたしが行いますので。みなさん、出来るだけ一か所に集まっていただければ……」
「勇者組として私がでるわ、六花ちゃんの護衛も兼ねてるから移動後も安心してねー」
「は、はい。ゴッデスさん感謝します」
「貴族級ってのがどのくらいか分からないけど、ま、なんとかなるでしょ。さーみんな、準備出来てるー? 戦争の時間だぞー」
どこか軽いノリのゴッデス大蝦蟇斎を見て、マレッサピエーの兵士の中には不安げな表情を浮かべる者がいた、これはゴッデス大蝦蟇斎がこの戦争直前にマレッサピエーに戻ってきた勇者であり、その実力を知る者は少ない事が要因である。
「おい、魔剣女」
そんなゴッデス大蝦蟇斎に話しかけたのは『ドラゴンナイン』の一人、スサであった。
話しかけて来たのが自分の魔剣をへし折って破壊した少女であると気づいたゴッデス大蝦蟇斎は何事かと首を傾げた。
「はいはい、魔剣の女、ゴッデス大蝦蟇斎ですが、何か?」
「チッ、調子狂う奴だな。まぁいい、てめぇの力がそれなりなのは確かだ。あとで勝負しろ、勇者であろうとオレの一撃を受け止められたのは腹立たしい、改めて叩き潰してやる」
「ふむ、ツンデレってやつか? 仲良くしたいなら素直に言えばいいのに」
「てめぇの耳は腐ってんのか? オレは叩き潰すって言ったんだぞ、なんでそうなる」
「またまたー、今まで出会った事のないタイプの人間に出会って、興味津々ってやつでしょー? でもどうやって接していいか分からないからとりあえず力を示して、仕方ねぇなお前を認めてやるぜ、的な?」
「よーし、今この場で叩き潰してやらぁ魔剣女」
青筋を立てて怒りを露わにするスサに対し、ゴッデス大蝦蟇斎はケラケラと笑っていた。
その態度に余計に腹を立てたスサが虚空から剣を取り出した所でがたいの良い男性、スサと同じ『ドラゴンナイン』の一人であるヨルゴス・アスカロンがスサの肩を掴み、その動きを制する。
「あぁん!? 離せヨルゴス!! この魔剣女、一回叩き潰さねぇと気が治まらねぇ!!」
「はぁ、時と場合を考えてくださいスサさん、そして貴女も。御覧の通りスサさんは多少冗談が通じない面があります。どうか、その所ご理解いただければ助かります」
今にもゴッデス大蝦蟇斎に襲いかかろうとするスサを抑えたまま、ヨルゴスは軽く頭を下げた。
「あー、こっちもごめんねー。反応がいいもんだから、ついからかいたくなっちゃって。まぁ、スサちゃんの気持ちも分かるし、今度遊ぼ。その時はとっておきの魔剣だすから」
「理解していただき感謝します。ひとまず、この件はこれで終わりと言う事でいいですねスサさん。戦うならこの戦争を終わらせてからにしてください、無駄に消耗する事ほど愚かな事はありませんから」
そう言ってヨルゴスはスサの怒りが多少収まったの見て、肩から手を離した。
ふてくされた様子で舌打ちをして、スサは柄から刀身まで金属で出来ている剣を肩に担いだ。
「ヨルゴスに免じて、ここは抑えてやる。この戦争が終わったら覚悟しとけよ」
「はいはい、覚悟しておきまーす」
「やっぱてめぇ、今潰すか?」
ゴッデス大蝦蟇斎とスサのやり取りを見て、ヨルゴスは額に手を当てて大きく息を吐いた。
迫る四大公爵の部隊を止める為、『十一指』『ドラゴンナイン』『星罰隊』そして勇者が最前線へと送り出される、それに合わせマレッサピエー連合軍は部隊の展開、国境付近の大きく開けた平原へと進軍を開始し始めた。




