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243・魔王軍四大公爵の進軍

「魔王軍、人間どもの軍、双方の周辺にあの者たちの姿は無し……か。実に重畳ではあるが、あの男に距離などと言う概念はあまり意味はないか。一方的な虐殺を好むたちではない、降りかかる火の粉は払う程度と考えてまず間違いないだろう。あれがこの戦争に介入したならば、必ず戦況が動く。吾輩ですらまったく相手にならない埒外の存在、申し訳ございませんがあれが、デイジーと名乗る巨漢が現れた際は魔王軍の全戦力を以て相対する以外に勝ちの目はないと断言いたします」


魔王国の双璧と謳われ、極炎の二つ名を持つ男、魔王軍元帥バルディーニが大勢の将官の集まる軍議の場にて、魔王サタナスにそう告げた。

元帥という立場であるバルディーニの口から出た言葉にその周囲に座っていた四人の異形の魔族がゲラゲラと馬鹿笑いを始める。


「ゲギャギャギャッ!! 元帥とは思えない弱腰な言葉!! ええと、そのデイジーとかいう者は何者かご説明願えますかな!? 我らの同類たる魔族? それとも神か? もしや人間などと言われる事はなかろうな!! ゲギャギャギャッ!!」


「ヒュポポポポ、そう言わずとも良いではありませぬか、少しばかし前にバルディーニ元帥はオークの森で人間如きにしてやられたと聞き及んでおりましたが、まさかその人間とやらの名がデイジーなのでは? 元帥権限で魔王国の者はそのデイジーとやらには手を出さぬようにと申し伝えておりましたが、はたしてそれは人間が強かったのか、はたまた……、ヒュポポポポポッ!!」


「ヌチョチョチョチョ、バルディーニ元帥は元々前魔王であるリリシュの執事長であったルキフめに育てられた凡俗な魔族の出ヌチョ、生まれながらに貴族階級である我らと比べれば咄嗟の対応に差が出ても致し方ないヌチョ」


「クプププププ、まぁまぁ元帥殿に悪いではないかプ。そのくらいにしておくプ。バルディーニ元帥、自身を容易く倒してのけた人間に気おくれするのは理解するプ。とは言え、たかが人間一匹にかような及び腰では魔族の沽券にもかかわるプ。あまり公言なさらぬ方がよいプ」


バルディーニを暗に侮辱する四人の魔族は魔王国内にて四大公爵と呼ばれ、絶大な力を以て君臨する上位魔族である。

魔王軍の階級的にはバルディーニの方が上なのだが、数百年前から公爵位を持つこの四人はまだ比較的若いバルディーニが魔王の側近となっているのが気に食わず、ことある事にバルディーニに辛辣にあたっていた。


「フォカロル公、ベリト公、サレオス公、アガレス公、貴公らの言は最もであります。しかし、かの人間デイジーはオークの森で吾輩、セルバブラッソで原初の呪いにより発生した黒い巨人、その原初の呪いへの対処に神域から降り立った神兵、更には精霊王に大罪神など、その戦歴は常軌を逸しており、そのいずれにおいても致命的な負傷をしていない。それが如何にすさまじい事はご理解いただけるかと」


フォカロル、ベリト、サレオス、アガレスら四人の上位魔族は薄ら笑いを浮かべたまま席を立ち、軍議の行われている幕舎の出口へと歩き始めた。


「どこへ行かれるのか。まだ軍議は終わっておりませんが」


語気を強めてバルディーニが四人を引き留めたが、四人は立ち止まる事はなかった。


「軍議など、弱き者がやる事!! 四大公爵と呼ばれる我らには不要であれば!!」


「左様。なにより、バルディーニ元帥の傍らに座るその人間の臭いが我慢なりませぬ。なぜ魔族の軍に人間如きがいるのか。傭兵なども雇っているとか、ヒュポポポ、無駄な事を」


「生まれが下賤であるがゆえ仕方あるまいヌチョ。魔族は力こそが正義、他者の力を借り受けるとは魔族の恥晒しも良い所ヌチョ。ゆえに我ら四大公爵が栄えある魔族としての本来の姿を示さねばならないヌチョ」


「人間どもの軍は我ら四大公爵が平らげてやるプ。取りこぼしの刈り取りは他の者に譲ってやるプ。のんびり人間のような軍議を続けていればいいプ」


ゲラゲラと大笑いしながら、四人は軍議の行われていた幕舎から出ていった。

その後に続き、一人、また一人と幕舎を後にしていく。

その様子を見ていた一人の人間、前魔王リリシュとその執事長ルキフと行動を共にしていた青年トシユキはゾロゾロと去っていく魔族たちを見て不思議そうな表情を浮かべていた。


「ふぅん、魔族さん側も一枚岩じゃあないのね。魔王サタナスの元、一丸となって人間を殲滅するーみたいなノリかと思ってたんよ。で、バル殿良いの? あの人ら、勝手に出陣するっぽいんよ。なんかごちゃごちゃ言ってたけど、あの程度ならぶっちゃけデイジー殿どころか小生でも問題ないんよ」


「黙れ人間、誰がバル殿か、元帥と呼べ。貴様の実力の程は知らんが、サタナス様の客分ならばその言葉は嘘でもなかろう。だが、奴らが永らく四大公爵と呼ばれ魔王国に君臨していたのは伊達ではない。単純な戦闘能力ではない異能が奴らにはあるのだ」


「へぇ、異能ねぇ。ま、小生には関係ないんよ。客分として魔王サタナスの側にはべってますんで、何か用があったら言ってほしいんよ。それとも、人間の手が必要だったり~?」


「ふん、不要だ。サタナス様が客分として貴様が側に居る事を許可しておられる、ならば吾輩から何か言う事などない。だが、貴様がサタナス様に何かをしようものならば、我が獄炎は必ずや貴様を焼き尽くすとしれ」


「ひぇーおっかない。何かしようなんて気は小生にはまったくないのでご安心なんよ、ではでは」


おちゃらけた様子でトシユキはその場を後にし、バルディーニは残った魔族たちと共に軍議を続ける。

少し歩いてから、トシユキは軍議の行われている幕舎に顔を向けた。


「いやはや、バル殿はちょっと上から目線な所もあるけど、真面目な人なんよ。なんというか騙してるみたいで気は引けるんよ。ま、人間と魔族の未来の為ってやつなんよ。だから、まだ大人しくしててほしいんよ」


そう言って、トシユキは軽くジーパンのポケット辺りをポンと叩く、それからほどなくして四大公爵の率いる魔族の一団がマレッサピエーとの国境に向けて進軍を開始した。

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