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241・ほかの勇者はどうしているのかって話19

「いよいよ始まっちゃうんだね戦争。正直、ブルっちゃうな」


スマホを弄る手を止めて、周りの様子を見ながら小麦色に焼けた肌、長い茶髪の毛先を軽くカールさせ、着ている制服に似合わない無駄にゴテゴテとしたデコサングラスをかけた少女リタが呟く。


『勇者として召喚した以上、こういった事に参加してもらうのは仕方ないもん。もちろん、ガチめに悪いとは思ってるもんけど』


リタの持つスマホの中に封じ込められているマレッサの言葉にリタは首を振る。


「んーんー、そこはさ、まぁいいよ別に。召喚された物はしょうがないし、勇者特権とかいう面白いものもらって、あっちこっちお出かけして、割とエンジョイ出来たし、なんていうか、リアルみがなかったんだよね。でもさ、なーんかあっちもこっちもピリついてて最近やっと殺し合いが始まるんだなーって」


慌ただしく動き回る兵士たちをぼうっと見ながらリタは座っていた椅子の上で膝を抱える。


『オラシオにはリタを後方支援にするように伝えてるもん。強力な勇者特権を持っててもリタはまだ子供もん。最悪、リタなら一人でも逃げれるもんからそこまで気負わなくていいもんよ』


「それやっちゃうと、ちょっと罪悪感でプチってつぶれちゃうかな。マレッサピエーってマーちゃんの守る国なんでしょ? だったらあーしもやれるだけやるよ。ま、乙るのはマジ勘弁だし、どうしようもなくなったら……んー、その時考えればいいっしょ」


力なくヘラヘラと笑うリタを見て、スマホの中のマレッサは少しだけ悲し気にうつむく。

そこにジャージ姿の女性がやって来て、リタの様子を見てどうしたのかと声をかけて来た。


「あらあら、リタちゃんどうしたの? お腹でも痛くなった? お薬か治癒魔法使える人連れて来ようか?」


「あ、ゴッさん」


「その呼び方、やめないリタちゃん?」


ゴッさんと呼ばれたジャージ姿の女性、ゴッデス大蝦蟇斎は黒々とした大振りの剣を片手にリタの隣に座る。


「あーしは全然平気だから大丈夫。でも、なんかこの場のフインキが合わないっていうか、何て言うか」


「ふぅーん、緊張してる感じかしら? それとも怖い? まぁいいんじゃない、それってリタちゃんにまだ普通の感性が残ってるって事の証明でしょ。いいのよ、戦争の空気に慣れる必要なんて花の女子高生にはないんだから」


リタの背中をポンと叩きながらゴッデス大蝦蟇斎はケラケラと笑った、そんなゴッデス大蝦蟇斎を見てリタは怪訝そうな顏を浮かべる。


「ゴッさんはどうなの? もうすぐ戦争が始まるっていうのに全然変わった様子がないけど」


「私? まぁ私は人間やめちゃったし、そこまで緊張してるとか怖いってのはないわねぇ、魔剣化の影響かしら? 死への恐怖も殺す恐怖も全くないとは言わないけど、それ以上に自分の力を思う存分振るえる事の方が大きいわね。私は単純だから、魔王は敵、敵を倒して世界は平和になりました、それでハッピーエンド。まぁ、実際はもっと色々面倒事はあるんでしょうけど、そこまで複雑に考えない方が楽でいいわよ」


「そっか、あーしは自分はもっと単純で馬鹿だと思ってたけど、割とナイーブだったんだなぁって」


「そうねぇ、こういう時はこの戦争が終わった後の事を考えるのよ、美味しいもの食べるとかいい男とデートするとか、思いっきり遊ぶとか。あ、でもこの戦いが終わったらオレ結婚するんだ、ってのはダメよ、フラグだから」


「たまにゴッさん訳分かんない事言うよね」


「そこはほら、属してる界隈の違いって言うか、なんて言うか……」


ごにょごにょと口ごもるゴッデス大蝦蟇斎を見て、リタは少しだけ笑顔になり、勢いよく椅子から立ち上がった。


「ありがとゴッさん、ちょっと元気でた。ちょっと手伝える事ないか聞いて来るね、じゃバイバイ」


「元気でたなら何よりだわ。あまり無茶しちゃダメよ」


駆けだしたリタにひらひらと手を振って見送るゴッデス大蝦蟇斎。


「さて、私も作戦会議に行かなきゃねぇ。あぁそうそう、マレッサちゃん、召喚された勇者としての責務は果たすけど、命まではかけないわよ私?」


ゴッデス大蝦蟇斎の周りを漂う毛玉状態のマレッサはその言葉を受けて大きなため息を吐く。


『はぁ~、こっちの手札の中でもお前は切り札足りえるもん。出来れば命がけで戦ってほしい所もんね。ま、あっちのわっちと同じで無理強いはしないもん、よほどの相手でもない限り、お前なら離脱は出来るはずもん。どうしようもないと判断したら、まぁ好きにすればいいもん』


「その時はマレッサちゃんも一緒だからね。マレッサちゃんって色々物知りだから、いてくれると助かるって言うか便利っていうか。一家に一柱って感じよね」


『わっちをそんな便利道具みたいに考えるなもん!! 不敬が過ぎるもんよ!?』


「まぁそこは親愛の情があるって事でお一つご勘弁を」


プンプンと怒るマレッサにゴッデス大蝦蟇斎はケラケラと笑って返し、魔剣を肩に担いで作戦会議の行われる幕舎へと向かった。

幕舎の中にはマレッサピエー連合軍の主力となる者たちが集められており、その中の幾人かが最後に入ってきたゴッデス大蝦蟇斎をジロリと睨みつける。


「あは、重役出勤しちゃって申し訳ない。で、どんな感じ?」


「てめぇ、オレたちを待たせておいてなんだその態度はぁッ!? 女だからって容赦しねぇ、ぶち殺すぞッ!!」


全く悪びれた様子の無いゴッデス大蝦蟇斎に向かって、『ドラゴンナイン』の一人である幼さの残る少女スサが声を荒げて食ってかかる。


「いやぁ、めんごめんご。許してちゃぶだい」


しかし、ゴッデス大蝦蟇斎はヘラヘラと笑いながら軽く頭を下げるだけだった。

その態度に怒りを露わにしたスサは何もない虚空から刀身から柄まで全てが金属で出来た剣を取り出し、唐突にゴッデス大蝦蟇斎に切りかかった。


「わお、過激ねぇ」


ガキィンッと金属音が響き、激しい火花が幕舎の中に散る、スサの一撃を難なく受け止めたゴッデス大蝦蟇斎だったが自身の持つ魔剣がスサの剣を受け止めた事でひび割れ、砕けそうになっている事に気付き、感嘆の声をあげる。


「あー私の魔剣にヒビ入ってるじゃない。凄いのね貴女のその剣」


一方、スサは自分の一撃を難なく受け止められた事、何より、自分の剣を受け止めてひび割れる程度で済んだゴッデス大蝦蟇斎の魔剣に面喰っていた。


「ッ!? なんだ、なんなんだ、その剣は!? このスサ様の剣を一撃でも耐えただと!? ツムカリはヒヒイロノカネ製の神剣だぞ!? 並みの剣どころか聖剣、魔剣の類だろうと容易く砕けるはずなのにッ!?」


「お、なんか実に厨二っぽい。まぁ、これ何個も魔剣重ねて作ったからちょっと頑丈なのよねー。あ、遅れた私が悪いのは確かだし、怒らせてごめんなさいね」


改めて遅れた事を謝罪し、驚くスサをよそにゴッデス大蝦蟇斎は自分の席と思しき椅子に腰かけた。

ため息交じりにゴッデス大蝦蟇斎とスサのやり取りを見ていたマレッサピエー宰相オラシオはゴホンと咳をして、幕舎に集めた主力たる存在たちに向かってゴッデス大蝦蟇斎の紹介を始めた。


「今のやり取りで多少は分かったとは思うが、この者は我がマレッサピエーが召喚した勇者の中でも特筆すべき勇者特権を所持する者、ゴッデス大蝦蟇斎だ。この者の実力を疑う者はもうおらぬとは思うが、この者が成し遂げた偉業を一つ紹介しておこう。この者はSランク指定のダンジョン『ラビリンス』を単独で踏破し、かつ破壊し尽くておる。信じられぬと言うなら鑑定でもすればよい、ラビリンス踏破者の称号を確認できるはず」


「てへ、壊しちゃった」


まったく悪びれた様子の無いゴッデス大蝦蟇斎に多少呆れつつ、オラシオは空中に地図を映し出した。


「では、改めて盤面を確認するとしようか。諸君らに連携など期待してはおらん、各々がやりたいようにやってもらって構わんがこちらに被害だけは出さないように。あと勇者同盟への牽制も兼ねて、既に数人はマレッサピエー城に待機してもらっておるが、こちらの状況次第では戦闘に参加してもらう事になる、移動はこちらで行う。他に兵站についてだが――」


マレッサピエーと魔王国の決戦まであと僅か。

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