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239・世界の動き10

魔王軍にとって、魔王サタナスが軍を率いて進軍中であると言う情報がマレッサピエーに漏洩しているだろう事は想定済みであるが、魔王軍の大半の者はその事を問題視していない。

生まれながらに強大な魔力を有する魔族には魔力の低い人類を下に見る傾向が強く、貴族級ともなればその傾向はより顕著になる。

大雑把に魔王軍二万、マレッサピエーと周辺各国の連合軍五万、兵数に倍以上の差はあれどその程度は自身の力でひっくり返せると本気で思っている魔族の数は多く、人間の中にも強力な存在が居る事は知識としては知っているがそれでも自分より明確に格上であると認識している者は稀である。

魔族の中でも最上位に位置するバルディーニやヘンリエッテは自身と同格の人間が居る事を正しく理解し、本来格下と見ている人間に対して策を用いて戦う事を厭わないが、その他大勢の貴族級魔族たちは人間如きに策を弄する事は恥であるという考え方が主流だ。

事実、膨大な魔力と手下でごり押し、圧倒し、殲滅するという単純な戦い方でもほとんどの人間には十分過ぎる脅威であり、冒険者ギルドや魔法使いギルドに所属する者たちはどのような階級の者であっても貴族級魔族と出会った際の最も適切な対応は撤退であると教え込まれている程だ。

つまり貴族級魔族とは人間にとって出会えば確実な死をもたらす最悪の存在であり、撃退した記録はあれど討伐した公式記録の存在しない恐ろしい怪物なのである。


「不味いな魔族は。魔力は濃いが味がてんでダメだ、何より千年の空腹を埋めるにはまるで量が足りぬ」


人間を幾百、幾千と戯れに壊し、殺し、喰らってきた歴戦の貴族級魔族が捕食され、不味いと吐き捨てれらていた。

魔王軍本隊とは別の経路で移動していた別動隊を指揮していた貴族級魔族とその部下たちを食い散らしたのは、赤黒い鱗と数十メートルを越える巨体を誇る一体のドラゴンだった。

このドラゴンは千年前に暴力の権能に魂も肉体も喰われ変質し、エレメンタル・イーターという精霊を好んで喰らう実体無き悪喰の竜に成り果てていた過去があり、とある騒動後に受肉してからは当時の名は恥であると悪喰竜神ゴッゾヴィーリアを名乗っていた。

ゴッゾヴィーリアは気の向くままに世界各地を飛び回り、その地に住む名のある主を叩き伏せて傘下に収めるという暇つぶしをして過ごしていたが、その途中で魔王軍別動隊とかちあい襲って来た貴族級魔族たちを返り討ちにし、小腹を満たす為に喰い殺したのだ。


「我を襲ってきておきながらその程度とは笑止な、身の程を知れ矮小な魔族風情が」


「おのれぇ、このダンシャック様とその配下がドラゴン如きに後れを取るとは……。男爵の位を頂くこのダンシャック様に手を出して、魔王様が黙っていると思うな!! 貴族級の魔族を敵に回した事、後悔させてやるからな!!」


「それでいいのか魔族よ」


ゴッゾヴィーリアの、それでいいのか、という言葉にダンシャックその真意が分からずに困惑していた。

その困惑した表情を見て、ゴッゾヴィーリアは呆れながら言葉の意味を丁寧に優しく教える。


「末期に残す言葉がそれでいいのかと聞いているのだ、魔族」


「は?」


最期までゴッゾヴィーリアの言葉の意味を理解出来ないまま、グシャリと無惨にも上半身を喰われた魔族だった物が地面にゴトリと転がる。

恐ろしく長い寿命を持つ魔族にとって死という概念は希薄な物であった、だからこそ死の神パルカへの信仰が薄くなり、その名を国名から排除したという経緯があるのだがそんな事はゴッゾヴィーリアの知った事ではない。


「死を恐れぬのとは違う、自分が死なないと訳もなく思い込んでいるのか。単純に死から遠ざかり過ぎたが故の無知、いっそ憐れではあるな」


のそりとゴッゾヴィーリアがまだ健在の魔族兵たちへと顔を向ける。

自分たちの主である貴族級魔族が目の前でなすすべなくあっけなく喰い殺されたというのに、死への恐怖が薄く、強者であるという自負を持つ百を越える魔族たちは武器を構え、ゴッゾヴィーリアに襲いかかる。

憐れだとゴッゾヴィーリアは魔族をそう評した、だがしかし、だからと言って、降りかかる火の粉を憐れんで無抵抗でいてやる理由も必要も意味もない。


「カハハハッ、よかろう、腹の足しにもならぬ憐れな者どもよ!! 我が腹に収まり我が血肉となるがいい!! 憐れなる貴様らへのせめてもの情けだ、痛みもなく喰い殺してくれる!!」


あとはただの一方的な殺戮であり食事、魔族の武器や魔法はゴッゾヴィーリアの鱗に傷一つ付ける事が出来ずに破壊され霧散する。

目の前に迫る死を拒絶する事も受け入れる事もなく、ただただ訳も分からずに喰い殺されていく魔族たち、それは魔族が人間たちにしていた事と同じ、圧倒的強者による一方的な虐殺であった。

この魔王軍別動隊の全滅により、魔王軍本隊はマレッサピエーへの進行速度をわずかに遅らせる事になる。

それがどんな影響を及ぼすのか、今はまだ誰も知らない。

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