234・世界の動き5
「『十一指』第三席『嵐』マリリアンヌ・ド・エゼッラ、嵐の二つ名を持つ最高峰の風魔法の使い手。風の断章の魔法を受け継ぐエゼッラ家の現当主であり、単身で断章の魔法を扱える数少ない人間の一人。その無駄に高い気位ゆえに性格に難あり」
突如として白いローブを着た張り付けたような笑顔の男が『十一指』と『ドラゴンナイン』が相対する場に現れ、『十一指』の第三席であるマリリアンヌの情報を口にする。
周囲の人々は殺意と怒気の入り混じる押し潰されそうな雰囲気の中で意識を保つのがやっとの状態だと言うのに、白いローブの男はニコニコと笑顔を崩さず、その声はこの場に似つかわしくない程に実に朗らかで緊張感の欠片もなかった。
「『十一指』第四席『獣神』ポチ・ブランドストロム、人間性を損なわずに完全獣化を魔法によって実現した変身魔法の使い手。単純な戦闘能力なら『十一指』でも一、二を争うほどの実力者。少々捻じ曲がった性癖に難あり」
軽やかに語られる『十一指』の情報、魔法使いギルド魔議会の看板でもある『十一指』の情報はある程度は開示されているが、白いローブの男がわざわざ付け足す言葉にはどこか小馬鹿にしているような印象が残る。
「『十一指』第六席『触腕』ヌラー・ヌラ・アイアン、第七席『骨』スカル・ミート、自らを触媒に触手を召喚、使役する独自の魔法を生み出した天才と骨に特化した魔法を扱う死霊魔法の達人、双方共に自ら動く事を億劫がる堕落した在り方に難あり」
本来なら自分たちを馬鹿にしたような物言いをする存在など許すはずのない『十一指』たちではあるが、白いローブの男の不思議な声のせいか戦う意欲を失っていた。
「『十一指』第十席『紳士』ゼン・ラー、存在自体に難あり。この場にはいませんが『十一指』第二席『光輝』オラシオ・エスピナル、光の断章の魔法を単独で扱い、あらゆる属性魔法に精通し、しかも各属性魔法の絶位級の魔法使い以上に自在に使いこなす老練なる傑物。しかし、その腹黒さは大いに難あり。全員がまだ集まってはいませんが、我が強く一匹狼ばかりの『十一指』が一堂に会するとはなんとも素晴らしい」
張り付いた笑顔のまま、パチパチと拍手をする白いローブの男は次にスサとヨルゴスに顔を向けた。
ヨルゴスは白いローブの男に怪訝そうな目を向け、スサは青筋を立てて怒りに満ちた目で睨みつけている。
しかし、二人の視線など意に介さず白いローブの男は先程と同じように言葉を紡ぎ始めた。
「ドラゴンナイン序列二位ヨルゴス・アスカロン、あらゆる物を切断する聖剣アスカロンの持ち主、邪竜殺しの二つ名を持ち見た目に寄らず平々凡々なる性格、戦いを嫌うその優しさは評価できますが、倒すべき敵にすら情けをかけるその甘さは難あり。ドラゴンナイン序列五位スサ、東国ヤマトを追放された王族であり、名も無き神剣を振るう大竜殺しの幼い少女、その強さは目を見張るものがあるが、その苛烈な性格は他者とのいざこざばかりを起こす問題児であり品位の欠片がなく実に難あり。世界各地に散っているドラゴンナインゆえに集結に時間がかかるのは致し方ないとは言え、人類の存亡の危機に際してなんとも悠長な物です。時間厳守は人として最低限守るべき礼儀だというのに、実に難あり」
『十一指』そして『ドラゴンナイン』双方を難ありと小馬鹿にする白いローブの男に怒気と殺意が集まっていくが一切気にする様子もなく白いローブの男はゆっくりと両手を広げて空を仰ぎ見る。
「数多の難がある事は悲しい事ですが、それは我らが埋めれば良いだけの事、実に些細な事です。ステルラ様に仇成す大逆の徒である魔王を滅ぼす為に人々が力を合わせる、これもまたステルラ様の御威光の賜物に相違無し!! あぁ、星よ、星よ、星よ、全能なりし、いと高き星の神よ!! 常に我らに光を与えそして導いてくださる大いなる神よ、今この場に貴方様の子が集い魔王を討つ為にその力を合わせるのです、なんと素晴らしい事かッッ!!」
段々とヒートアップしていくその物言いと星の神ステルラへの言及、そして首から下げている星の様な飾りがついたネックレスを見た周囲の者たちはこの男が星神教の人間である事を理解した。
「あぁ星狂いの連中ならばその物言いも納得ですにー。対魔王としてここに来てるなら異端審問機関『星罰隊』ってやつですにー。『大星堂』、『ステラズ会』、『星の家』、星神教を構成する三つの組織内から選抜され、星装具と呼ばれる意思ある武具に選ばれた十三人。まぁ、色々と言ってくれましたが、やらかしに関しては『十一指』や『ドラゴンナイン』以上ですにー」
身を包む触手をうねらせてヌラーが何かを思い出すようにそうつぶやく、ヌラーの言葉に続いてゼンがネクタイを揺らして口を開く。
「おやおや、わぁしら『十一指』に『ドラゴンナイン』、さらには星神教の『星罰隊』まで招集していたとはマレッサピエー宰相オラシオ殿は魔王軍を殲滅させたいようだねぇ。ところで、見た所『星罰隊』の方は貴方お一人みたいですがぁ、もしかしてぇ、他の方々はお寝坊さんだったりするんですかなぁ?」
「まさか、御冗談を。我ら星神教徒は星の巡りと同じように時に正確なのです。寝坊など、あり得ません。他の者は既にマレッサピエー城に到着し、来るべき時を待っているのですよ。えぇ、私はまだ王城に到着していない時間を守れない実に難ありな方がいるとの事でわざわざ探しに来たのですよ、つまりは貴方がたを、ね」
白いローブの男がパンと手を叩いた瞬間、周囲の景色が唐突にぶれて全く別物に切り替わり、
今まで街中であったはずの景色が石造りの広間の景色に変わっていた。
その広間には先程まで居なかった『十一指』と『ドラゴンナイン』の面々、そして『星罰隊』のメンバーがそろって整列しており、更に玉座に座るマレッサピエー王セレスティオと宰相オラシオの姿があった。
一瞬の出来事に困惑するスサやゼンたちをよそに白いローブの男はフードを外して、セレスティオに向かって恭しく頭を下げる。
「マレッサピエー国王、セレスティオ・セスト・デ・マレッサピエー、きっちり時間通りに『星罰隊』、『十一指』、『ドラゴンナイン』揃いましてございます。まずは儀礼として名乗りをば」
ゆっくりと頭を上げた男の頭部にはヤギの如き角を生えており、一目で人ではないだろう事が見て取れた。
「星神教『星の家』所属、十番目の星装具『カプリコーン』に選ばれし者にして異端審問機関『星罰隊』隊長、アイギパーン・ディ・エルマン、星神教教主エトワール・ドゥ・ステッラ様の命により配下十二名と共に参上いたしました」
仰々しく膝を付いて、アイギパーンは改めてセレスティオに向かって頭を下げる、それを合図にアイギパーンの後方に並んでいた他の『星罰隊』の面々も膝を付き、アイギパーンと同じように頭を下げた。