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233・世界の動き4

マレッサピエー王都の大通りをなんとも奇妙な者たちが城に向かって移動していた。

その異様さに道行く人たちは驚いて立ち止まりその光景に絶句する。

異様、異形、異質、はたから見れば一般人には見えない彼らは魔法ギルド魔議会が誇る最強の集団である『十一指イレブン』と呼ばれる規格外の魔法使いたちである。


「にー、オラシオちゃんの要請だからって魔議会のおじいちゃんたちは『十一指イレブン』を全員招集するとか各派閥の均衡が乱れまくりですにー、後々揉めますにー。何考えてるんですかにー、正直魔王とか人類とかどうでもいいですにー」


二メートルはあろうかという粘液塗れで蠢く青い触手の塊の中から顔だけを出した状態の少女が周りにいる人物たちにそう愚痴をこぼす。

触手の塊はうねうねと移動しながら大通りに敷き詰められた石畳を軽く溶かし、有毒なガスを周囲に撒き散らしている。


「げぇええっぷ、魔法議会もギルドゆえ、運営には金がいるんだえ。その点はオラシオ君は非常に優秀だえ、お歴々も無視は出来ないって事だえ。それはそれとして新人が招集無視したって話しだえ。『十一指』をなんだと思っているのかえ。嘆かわしい限りだえ、ぐぇええっぷ」


骸骨兵十名が担ぐ豪奢な神輿の上で横になり、骨付き肉をクッチャクッチャと食い散らすかなり太り気味の大男がゲップをしてポイと骨を投げ捨てる。

投げ捨てられた骨が空中で停止して一瞬光り、新たな骸骨兵となり神輿の担ぎ手に加わる。


「あぁまったく、同じ『十一指』だからと、このように品の無い下々の者どもと同列に扱われるのは我慢が出来ませんのよ。高貴なあてくしにその品の無さをひけらかす愚を自覚してほしいですわよ。何故オラシオ様はこのような者どもを含め『十一指』全員の助力を要請したのか、甚だ疑問ですわよ、あてくし一人で十分だと言うのに」


四つん這いで移動する全身タイツの筋骨隆々な男に腰かけるシックなドレスを身に纏う老婆が扇子で口元を隠しながら嫌悪感を隠す事なくそう言い放つ。


「フゴ、フゴ」


顔まで覆う隠す全身タイツを着込んでいる男の息は荒いが、どこか恍惚とした雰囲気を醸し出し周囲をドン引きさせている。

そんな四人の様子を見て大きくため息を吐き、共に歩く男が口を開く。


「触手嬢も骨豚殿も扇子ババアも人間椅子殿も似たり寄ったりって言葉ご存じ? ほら、マレッサピエーの民たちのこの奇異の者を見る視線、やだねぇ。おじさんちょっとチクチク刺さるこの手の視線は苦手でさ、仲間と思われるのをちょっと嫌だから離れてもらいたいんだけど?」


右手で複数のサイコロを弄る無精ひげでボサボサ頭のネクタイだけ身に付けた男が至極真面目な顔でそう言い放つ。

その瞬間、その場に居た全員がお前が言うなと心が一つになる。


「全裸の変態に言われたらおしまいですにー。で、他の人はまだ到着してないんですかにー? 初めから来る気のない新人と年中行方不明の序列一位は別として、時間厳守すら出来ない社会不適合者共はこれだからダメですにー」


触手の中から顔だけを出す少女がこの場に居ない残る『十一指』のメンバーに対して悪態をついていると、どこからか舌打ちする音が聞こえて来た。


「チッ、くせぇのが居ると思ったら『十一指』の連中じゃあねぇか。年中研究室に引きこもってる変人共が良くもまぁ穴倉から出てこれたもんだぜ」


唐突に『十一指』の面々を罵倒する言葉が往来に響く、その言葉に周囲の者たちはギョッとして声のした方に顔を動かした。

視線の先にはレストランのオープンテラス席に腰かける二人組、一人は小さなスプーンでパフェを口に運ぶがたいの良い壮年の男、もう一人は分厚いステーキ肉にフォークを乱暴に突き刺して切り分ける事なくそのまま一口で平らげる幼さ残る少女。

歩みを止めた『十一指』たちはその二人にゆっくりと視線を向ける。


「はいはい扇子ババア、たかが軽口叩かれた程度で呪いを飛ばさないの。とは言え、わぁしらを『十一指』と分かった上でのさっきの言葉、そこらへんの人間とは違うねぇ、おたくらどちらさんで? 返答次第じゃ、ちょっと面倒事になっちゃうかなぁ」


扇子を持つ老婆の前に軽く手をやって視線を遮りつつ、にこやかに笑いながら二人組に話しかける全裸にネクタイのみの男。

空気がピリつきはじめ、緊張感が増す中で周辺の者たちは身動き一つ取れずにいた。

一歩でも動けば、何をされるのか分からない恐怖、一触即発の雰囲気の中でステーキを一口で平らげた少女が乱暴に代金をテーブルに置いて席を立った、パフェを食べていた男はその様子を見てハァと小さく息を吐く。


「どちらさんだぁ? オレを前によくもまぁそんな舐めた口が叩けたもんだぜ。オレはドラゴンナイン序列五位の大竜殺しのスサ様だ!! よく覚えとけ!!」


スサと名乗った少女は何もない虚空から刀身から柄まで全てが金属で出来た剣を取り出して、その切っ先を全裸にネクタイの男に向ける。


「ドラゴンナインのスサ……、あぁ国を荒らしまくって追放された東国ヤマトの元王族、ドラゴンナインの恥晒しと言われるあの暴れん坊。まさかまさかこんな幼い子供だったとは驚きだねぇ」


「あぁん!? オレを馬鹿にしてんなてめぇ、ぶち殺すぞ」


「あれぇ、先に喧嘩を吹っ掛けて来たのはそちらさんでしょうに。その気ならこちらも相応の対応をするしかないなぁ」


怒気をまき散らすスサに対し、静かな殺意を漂わせる全裸ネクタイの男。

スサの向かいの席に座っていたがたいの良い男は大きく息を吐いて、テーブルにスプーンを置いてゆっくりと立ち上がった。

異常な雰囲気の中、ガタガタと震えている店主に頭を下げつつ札束を無理矢理手渡して、スサの肩に手を置いた。


「おやめくださいスサさん。僕らは魔法ギルドといざこざを起こす為にマレッサピエーに来た訳ではないのですから剣を収めてください。『十一指』の方々もスサさんが大変失礼しました。スサさんはまだこちらの国の文化に慣れていないので多少失礼な物言いになってしまうのです。どうかご容赦ください」


がたいの良い男はゆっくりと頭を下げてスサの言葉を謝罪した。


「その柔らかな物腰、物言い、なるほどあんたが冒険者ギルド最強の九人であるドラゴンナインの中でもっとも話の通じる者と名高いヨルゴス・アスカロンその人か。いやはや、大変な同僚を持つとお互い苦労しますなぁ、ハハハハ」


ケラケラと笑う全裸ネクタイの男をなんとも言えない表情で睨む他の『十一指』たちを見て、ヨルゴスは苦笑いするのだった。


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