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230・世界の動き1

「やぁ、諸君ご機嫌はいかがかな? 新たな朝が来た、実に喜ばしい事だ。さ、サンドラが朝食の準備をしてくれている、食堂に向かうといい」


黒いスーツに身を包み、仮面で顔を隠した男クギョウ・ジョウジが大広間に複数用意されたベッドで眠っている幾人かの男女に声をかける。

ジョウジに声をかけられ、ベッドから立ち上がった人物たちの顔には不安と恐怖の感情がないまぜになっていた、ジョウジを先頭にぞろぞろと食堂へと移動を始め、各々の席に座っていく。

長机の上座の位置で立った状態で、席に座って押し黙っている男女にジョウジは声をかける。


「さて、おはよう諸君、昨晩はよく眠れただろうか。幾人かは既に自己紹介を済ませてあるが改めて名乗らせてもらおう、私はクギョウ・ジョウジ、勇者同盟を立ち上げた七人の勇者の一人であり、勇者同盟の中では便宜上、七勇者という幹部のような役割を担っている。君たちには昨夜、大広間で眠ってもらったが今日からはそれぞれに個室を用意してある。なにか必要な物があれば言ってほしい、すぐに準備させよう。さぁ、せっかくサンドラが用意してくれた食事が冷めてしまってはもったいない、遠慮せずに食べるといい」


ジョウジはそう言って席に着き、ゆっくりと手を合わせていただきますと言ってから仮面の口部分を取り外して食事を始めた、その様子を見て他の男女は困惑しつつも食事をし始めた。

数人が食事を始めたが、食事に一切を手を付けていない男が立ち上がり、黙々と食事をするジョウジを指差して大声をあげる。


「お、お前らは何の目的で私をここに連れて来たんだ!! せっかくフエーゴポッレクスから離れて新天地で商売が軌道に乗ってきて、貴族とも繋がりが出来ていたのにッ!!」


「おやおや、食事の際の歓談を否定する気はないが、そのような大きな声は出さない方がいい。特に貴族も参加しているような舞踏会などではひんしゅくを買いかねない行為だ、控えたまえ天麻てんま


天麻と呼ばれた男はギョッとした顔になって後ずさる。


「な、なんで私の名前を!? まだ名乗ってなんかいないはずなのに!?」


「天麻、君は自分がこの世界に来て、どのように行動したかを覚えているかね? フエーゴポッレクスで君は相場を無視した商売を行い多くの富を手にした、だがそれは商人ギルドとの軋轢を生み、そして排斥される事になった。商人界隈で君の名を知らない者はいない、情報とはどこにでも転がっているものだ、そして情報もまた商品に成り得ると知りたまえ」


「わ、私の情報が商品として売られていたって言うのか!?」


「更に付け加えておこう、フエーゴポッレクスを出た君に近づき支援すると言ってきたあの貴族だが、あれはマレッサピエー宰相オラシオ・エスピナルの息がかかった子飼いの貴族だ。それともう一つ、君だけではなく、他の勇者全てにオラシオは諜報員をつけ、その動向を常に探っていた、それはこの世界で暮らすと決めた君たちを脅威ととらえていたからに他ならない」


ジョウジの言葉にその場がざわつき始める、マレッサピエーにより唐突にこの世界に召喚され、更には魔法と薬による洗脳を行い戦争に利用されようとしていたのはどうしようもない事実である、それは自分たちを守る為についてきた草の女神マレッサの分神体から全勇者が聞かされていた。

この世界で暮らすと決めた時、マレッサの分神体は去っていった、それでもうマレッサピエーとの縁が切れ、新たな世界で自由に生きて行くのだと、生きて来たのだと勇者たちは思っていた、だがそれをジョウジは否定する。


「おかしいとは思わなかったかね? この世界で生きて行くと決め、数日も経たぬうちに自分を信用してくれる支援者が現れた事、無条件で信頼してくれる仲間が出来た事、この世界の常識を知らぬ自分を排斥する事なく受け入れてくれた村、あまりに出だしがよかったと、出来過ぎていたとは感じなかったかね? 全てオラシオの策略だったのだよ」


その場に居る者全員が食事の手を止めてジョウジの言葉に耳を傾け、そして飲み込まれていく、全員がジョウジの言葉に思い当たる節があった、仲間を信じたい気持ちに疑念というシミが広がっていく。

ジョウジはワインを一口飲み、口元をナプキンでぬぐい更に続ける。


「マレッサピエー宰相オラシオは実に有能だ、君たちがマレッサピエーに敵対しないように、いずれ利用出来るようにと誘導していた。マレッサピエーと魔王国との戦争が激化していく中で君らの仲間はこんな事を言わなかったかね? 戦わなくても出来る事がある、人類の為にマレッサピエーを支援しよう、その力があれば魔王なんて敵じゃない、と。君たちが自分で築き作り上げたと思っている、思いたがっている繋がりも成果も、何もかもはオラシオが手配し、そうなるように仕組んだ物ばかりだ。悲しいかな君たちが自身で築き、作り上げた物などこの世界には何一つない」


ジョウジは一切感情の籠らない声で淡々と告げる、ジョウジの言葉は全て真実という訳でも全て虚偽という訳でもない、事実にジョウジの主観を多少交えた言葉でしかない。

それでもこの場に居る天麻を始めとした元勇者たちの心を大いに揺さぶり、置き去りにせざるを得なかった仲間とそしてマレッサピエーへの疑心を植え付けるには十分だった。

オラシオが過剰に元勇者たちを監視し支援させていたのはジョウジの言う通りマレッサピエーに敵対させない事も理由の一つではあったが、最大の要因はデイジーに召喚した責任は取るべきだと、お願いという名の脅しを受けていたからである。

オラシオにしてみれば結果として元勇者がマレッサピエーに利益となる存在になれば、との下心もあったがこの場においてはそれが裏目に出てしまっていた。


「……う、嘘だ、カナエラが私を監視していたなんて、し、信じられない!! 私の勇者特権を利用する為に嘘をついて騙そうとしているんだ!!」


天麻が絞り出すような声で自分を当初から慕い支えてくれた仲間の名をあげて、ジョウジの言葉を否定する、ジョウジは天麻の声など気にするそぶりも見せずサンドラの作った料理を口に運びながら、とある情報を口にする。


「勇者特権は死体から摘出する事が可能だ。勇者特権のみが目的ならその場で殺しているよ」


「は……?」


天麻を含む元勇者たちはジョウジの言葉に絶句する、この世界に召喚され付与された勇者特権、自分だけの特別な力だと思っていた物が摘出する事が可能であると言われたその衝撃は計り知れない。

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