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228・それは俺の出来る範疇を遥かに越えているけれどって話

時間が経つのも忘れ、俺はじっとモートソグニルの作業をじっと見ていた。

魔法文字とやらが刻まれた打刻印と呼ばれるハンコの様な物で制御用の魔法を誓いの首輪の裏地部分にハンマーで叩いて打刻していく、カンカンと小気味よい音が響く中、一文字ずつ刻まれていく魔法文字。

数文字打ち込むとほんのりと魔法文字が淡く光り、魔法が刻まれた事が見てわかった。


「魔法ってこんな風に物に刻むんだな、初めてみたよ」


『ヒイロ、これを普通の基準点にすると他の付与術師とかがへっぽく見えるもんから言っておくもん。モートソグニルのこの作業、えげつない事やってるもんからね? パパっとやってのけてるから簡単そうに見えるもんけど、髪の毛一本分でもずれたら打刻印による魔法文字の刻印は正しく機能しないもん、恐ろしい程に精密な技術もんよ』


「マジか!? はー、見てる分には簡単そうに見えるのにやってみたらすごく難しいって事はよくあるって聞くがマレッサが言うなら余程凄い事なんだな」


モートソグニルはあっという間にポンポンと魔法文字を刻んでいるから、そう難しいようには見えないのだが髪の毛一本分でもずれたら正しく機能しないなんて驚きだ。


「髪の毛一本もずれたらおいどんもう引退するくらい耄碌したって事ンゴ。髪の毛一本分もずらす奴はゴミンゴ。付与術師としても加工師としても素人同然ンゴ、もし弟子にそんなへぼがいたら百年は鍛え直せってぶん殴るンゴ」


「百年も!? 髪の毛一本分のずれも許せないなんてなぁ、匠ってやつか。面倒くさがりの俺にはきっと無理だな」


たまに話に参加しながらもモートソグニルの手はまったく止まらず、その動きには迷いが一切感じられない。

どんどん進んでく作業だが、見ている内にまぶたが重くなってきてまばたきを数回数が増えた気がする、そう言えばと思い出す、徹夜をして今に至るのだから眠気が襲ってきてもなんら不思議ではなかった。

こういった作業は見ていて面白いのでもう少し見ていたくはあるが、どうにも眠気には勝てそうにない、どうしたものかと思っているとデイジー叔父さんが声をかけてきた。


「緋色ちゃん、まだ作業は数時間かかるらしいし、無理せずに寝た方がいいわぁん。きっと夜通し動き回って疲れが溜まってたのねぇん、モートソグニルちゃんの作業はまた今度機会に見せてもらった方がいいわよぉん」


「あぁ、うん、そうだね。ふわぁ……さすがに限界かも……」


うつらうつらとしつつある頭でをなんとか返事をして、あくびを一つ。

ベッドのある拠点まで歩いて帰るのもちょっと無理かもしれない、少しくらいなら外で寝ても問題ないだろう、幸い暖かくはあるのだし。

ただまぁ、モートソグニルの誓いの首輪の修繕作業を最後まで見れないのは残念と言えば残念だ、普通の装飾品ではなく魔法が込められている魔法道具の修繕なんて初めてみたのだから出来れば見ていたかった。

今度、時間が出来たら魔法道具を作っている工房にでも行ってみようか、そんな事を考えつつ俺はマレッサが作ってくれた草を柔らかくまとめて作られているベッドにジャヌーラを寝かせ、地面に横になって目を閉じる。


「おやすみ、緋色ちゃん。ゆっくり寝て体を休ませてねぇん」


「うん、お休みデイジー叔父さん」


『私様もちょっと寝ようかしら。神位魔法を使ってちょっと疲れたわ、デイジーちゃん、フィーニス悪いけど、後は任せたわ』


『わっちも寝るもん、ジャヌーラには伝言を残しておくもんけど、何かあったら起こしてほしいもん』


意識が遠のいていく中、マレッサとパルカの声が聞こえた。

どうやら二人も寝るようだ、俺の頭の上にパルカらしき重みがのしかかったが特に気にせずそのまま俺は眠りに落ちていった。


『なんとも厄介な相手と縁を繋いだものよな。おれが言うのもなんだが、あれはなかなかの難物だ、せいぜい気を付けて置くことだ小さき者』


「あれ、アロガンシア? 何でこんな所にって、また夢の中かここ?」


気付くと俺は何とも言えないあやふやな空間の中、白い丸テーブルを前に椅子に腰かけており、俺の向かいの席にはティーカップを片手に傲慢の大罪神アロガンシアが圧倒的存在感を持って座っていた。

アロガンシアはテーブルに置かれたお茶菓子を無造作に掴んで口に放り込み、モグモグと咀嚼してティーカップを一気にあおって飲み干した、優雅さの欠片もないなと思ったが口にはしない、口にしたらな何をされるか分からないからな。


『たわけが、ここは夢の中であるぞ。何を思い考えたかを把握するなど権能の欠片であるとは言えおれには造作もない事。だがおれは傲慢なるがゆえに寛大だ、一度は許す、二度は無いと知れ、その時は自ら首をねじ切って詫びとする事を許す』


「わー相変わらずの傲慢さだー。思う事すら禁じられたら無我の境地にでもならないと何回首をねじ切る羽目になるか分からないんですけど??」


『相変わらず冗談の通じぬ面白みのない奴よな。くだらぬ冗談はしまいだ、今回もまた本物のおれからの伝言である。大罪の権能の欠片を通して本体は貴様周辺の出来事を把握しておるゆえ、そちらの説明は不要と知れ。まず、貴様が出会ったアリスと名乗ったあの娘、勇者としてこちらに召喚されたモノではあるが、もはや勇者という枠には収まっておらん。神に近しいと言っていい、おれを除けば、デイジー以外に対処できる者はおらぬと考えよ』


「アリスがそんな凄い存在なのは、まぁなんとなく分かってたよ。いきなり時間停止したりファンシーなお城を出現させたりしてたから。しかし、アロガンシアが言うんだからよっぽどなんだな」


『然り。そしてそれゆえに、他の者の対処はデイジー以外の者がせねばならん、どうにかせよ』


「いや、どうにかせよって、アリスの対処をデイジー叔父さんにってどういう事だ、他の者の対処って言うのもなんだかよく分からないんだが?」


『黙れ腑抜けが。貴様がちんたらとしていたせいで嫉妬なる姉君をきゃつらに奪取されたのを忘れたか。それにきゃつらは既に嫉妬を始め、色欲と怠惰、それに暴食の権能の欠片を有している、既に半分はきゃつらの手の中であるのだぞ』


「え、きゃつらって勇者同盟の事だよね、半分も大罪の権能を持ってるなんて初耳なんですけど!?」

 

『きゃつらの始動が早かった事とそれらを集めるに適した勇者特権が存在した事が不運であったと嘆くがよい。小さき者よ、大罪の権能と大罪神は共になければならぬ、共になければ完全なる復活は望めぬ。まぁ、貴様の信仰があれば多少起動はするだろうが今はよい。きゃつらの手に権能の半分があるならば、貴様は大罪神たる我が姉君たち本人を抑えるのも手であろう。疾く行動を開始する事だ、手遅れにならぬうちにな』


「無茶ぶりするなぁ。ところでその手遅れにならぬうちってどういう意味?」


『あぁ、きゃつらの有する我が姉君たちの権能から把握した情報ではあるが、至極単純でこれ以上にないくらいに説明してやろう。このままでは世界が滅ぶという事だ。勇者同盟の最終目的は世界の救済であり、それは世界そのものを改変するという形で成し遂げられる。そしてそれは必ず失敗する。世界の修正の力は知っているな、あれが世界全てで同時に起こった場合どうなるかを考えるがよい。小さき者よ心せよ、はからずも貴様らの肩には世界が乗っているのだとな』


「はぁああああああ!? いきなり過ぎて思考が追い付かないんですけど!? 責任重大過ぎません!?!?」


とんでもない事をさらりと言ってのけたアロガンシアはクツクツと笑い、席を立った。


『貴様らの世界ではこういう時に賽は投げられた、と言うようだな。諦めるがよいわ。さて、そろそろ目覚めの時だ、おれの言った事をはべらしている神の端末にも伝えるがよい。とは言え、ただの凡俗たる貴様には荷が重いのも事実、なんなら全てをデイジーに放り投げても良い、恐らくそれが最も堅実で手早い方法だ。まぁ、デイジーはただではすまんだろうがな』


「いや、俺も頑張るよ。デイジー叔父さんにばかり何もかもしてもらう訳にはいかないしさ、せいぜい足掻いてみるよ」


『よくぬかしたぞ小さき者、その足掻く様を見届けてやるゆえ、励むがよい』


夢の世界が揺らぎ始める、アロガンシアの言うようにそろそろ目覚めるようだ、しかし、世界が滅ぶ、か。

なんとも、とんでもない事になってきた、俺はただ元の世界に帰りたいだけなんだがなぁ、でもこの世界が滅ぶのは嫌だ、恩人がいる、友達もいる、それがなくなるなんて俺は絶対に嫌だ。

だから、せいぜい全力で足掻こう、俺だけじゃあ何にも出来はしないが、俺にはマレッサやパルカ、ナルカが居る、あぁ今はフィーニスも居るんだった、何よりデイジー叔父さんがいるんだ、きっとなんとかなるさ。

ゆっくりと目を開き、俺は立ち上がって思い切り伸びをした、そして、食事の準備をしているみんなを見て夢の中の事を何と説明しようかと悩むのだった。

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