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227・物作りは見ている分には簡単そうに見えるって話

モートソグニルがオロロロオロチとやらの牙を加工した針に神位魔法を物質化し糸状にした物を通して、誓いの首輪のちぎれた部分をあっと言う間に縫い上げていく。

誓いの首輪はものの数分で元の形に戻り修繕されたように見えるが、どうにもそんな単純な物ではないらしい。


『誓いの首輪がちぎれた事で付与されていた神位魔法自体も破壊されてぐちゃぐちゃになってるもん。見た目は元に戻っても魔法具としての効果は消えたままもん』


『これから私様とマレッサが使った神位魔法を物質化した物を編み込んで神位魔法を付与していくのよ。こういった魔法具を作るのが得意な神もいるけど、ドワーフやドヴェルグにはさすがに劣るわね。少しでも扱いをしくじれば暴発しかねない物質化した神位魔法を別の物に編み込むなんて命知らずもいい所よ、よほど自分の腕に自信がないと無理ね』


マレッサとパルカがモートソグニルの手元を見ながら感嘆の声をあげる、見惚る程の技を前にパルカはモートソグニルの臭いが気にならなくなっているようだ。

確かに俺が見てもその手際の良さは凄いの一言だ、あっと言う間にちぎれた誓いの首輪を縫い上げ、見た目は何処がちぎれたのか分からないくらいだった。


「ごちゃごちゃうるさいンゴねぇ、まぁいいンゴ、その程度で手元がおろそかになるほど耄碌はしてないンゴ。軽く説明しながらやってやるンゴ、次はそっちの死の神が言った様に神位魔法の付与ンゴ。今の縫合は神位魔法の結晶繊維の神力を不活性化して縫い合わせたンゴ、だから縫った部分に神位魔法は付与されてないンゴ。神すら殺す効果を誓約で押し付ける神位魔法自体は首輪に残ってたけど、千切れた事で魔法の発動経路が寸断されて奇麗に発動できなくなってるンゴ、これから発動経路の修復に入るンゴ」


そう言ってモートソグニルはよりスピーディに手を動かし、瞬く間に誓いの首輪に刺繍を施していく。

複雑な模様の刺繍が見る間に誓いの首輪に縫われていき、誓いの首輪が淡く光を放つ。


「この光は神位魔法が首輪に正しく織り込まれ、繋がった証拠ンゴ。ただ、このままだと誓約と首切りの神位魔法が独立したままンゴ。この状態でこの首輪を付けると誓約の有無にかかわらず付けた瞬間、対象の首が飛ぶンゴ」


「そのままだと、ただ二つの神位魔法が付与されただけの首輪って事か」


「その通りンゴ。今度は相互に作用する経路を繋ぐンゴ、これ少しでもズレると上手く誓約と首切りが関連付けされなくて、いつ首切りが発動するか分からない欠陥品になるンゴ」


普通に喋りながらもモートソグニルの手元は微塵も止まらない、まるで機械のような正確さと速さで首輪に刺繍で絵が描かれ、煌びやかで美しい装飾品になっていく。

これ、元の誓いの首輪と見た目かなり変わってるけど大丈夫か? そんな俺の心配を感じ取ったのかモートソグニルはケラケラと笑った。


「ケヒャヒャ、あくまでこれは内側ンゴ、外側は元の通りに仕立てるから気にしなくていいンゴ」


「こんなに奇麗なのに内側なのか? もったいないな」


「褒め言葉として受け取って置くンゴ。誓いの首輪はあくまで誓約を破った者の首を人であろうと神であろうと落とす神殺しの呪具、求められているのは機能美ンゴよ。装飾美も求めるならもう少し素材に凝りたい所ンゴ」


『装飾美を求めだしたら世界樹の実とか七色水晶とか百眼怪鳥の尾羽とかアホみたいなの揃えろとか言うつもりじゃないかもん? 神域でもドヴェルグの凝り性くらいは噂で聞いてるもんよ』


「ふん、そんな貴重なだけのありきたりな素材、もう飽きたンゴ。美しさというモノを永劫不変な物と思っとる奴らがいるンゴが、愚かとしか言いようがないンゴ。美しいと評価される作品を見る側が変化していく以上、美しさの基準もまた変化していくンゴ。しかし、美は常に変化しながらも、それでいて絶対不変でなければならない要素があるンゴ、分かるンゴ?」


美にとって絶対不変でなければならないモノ、残念ながら俺にはよく分からない、奇麗な物は奇麗でいいと思うんだが……?

ここまで黙ってモートソグニルの作業を見守っていたデイジー叔父さんが何やらポーズを決めながら、決め顔で声を発した。


「あはぁん、分かるわぁん!! 美にとって必要不可欠で絶対的な要素、それはいかに心を打ち震わせるかよぉん!! 言葉で言い表せない感覚を覚えた時、人は感動に打ち震え美にひれ伏すの、そうあたくしの美しさに誰しもが目を奪われるようにねぇん!!」


デイジー叔父さんのポーズに美が宿っているかは評価の別れる所ではあるだろうが、言わんとしている事はなんとなく理解出来た。


「あー、まぁそんな感じンゴ。美とは心で感じる物ンゴ、歴史だの技法だのクソ喰らえ、圧倒的な美の前には人はそんな物全部ぶっ飛ぶンゴ」


一瞬、デイジー叔父さんのポーズに圧倒され手が止まりそうになっていたモートソグニルだが、なんとか踏みとどまり作業を継続していた。

あらかた刺繍を終えたのか、モートソグニルは神位魔法で出来た糸をパチンと糸切りバサミで切り、余っている糸の端をテーブルの上に置いてある蝋燭の火であぶって少し溶かして、目立たないように処理した。

そして、縫い終わった誓いの首輪をテーブルの上に敷いた小さなマットの上に置いた。

まだ時間にして十五分と言った所だ、モートソグニルは内側だと言っていた、これから外側を仕立てていくのだろう。

モートソグニルは先程取り出してテーブルの端に置いていた数種類の皮の中から黒々とした皮を選び、誓いの首輪と同じ形に切り抜き始めた。

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