222・謝るだけでは済まない事もあるって話
『あぁ、ジャヌーラ気にしなくていいもん。たまにヒイロはおかしい事言うもんから』
『突飛な事をするし言うのよ、この人間。そういうものだと理解なさい』
マレッサとパルカが俺への攻撃の手を休める事なくジャヌーラにそう言い放つ、なんだか酷い事を言われている気がするがあまり否定できない。
『えぇ……下等生物、というよりコイツ自体が怖いんだぞ……』
何故か若干恐怖と警戒の色が見えるジャヌーラ、一体何が恐ろしく、そして警戒しているのだろうか、謎である。
『報告自体は前にあげてるから知っているとは思うけれど、これがヒイロの信仰の力よ。神や精霊にも作用する上にその信仰力は桁違いどころか次元が違うわ、神力の上昇に幅はあるけれど対象を褒める事でその存在を一段上の階位に匹敵する神力を与える力と考えてもらっていいわよ。私様やマレッサを神体顕現をさせるほどですもの、凄かったでしょう?』
『ま、まぁいきなりだったしビックリしたけど、確かに凄かったんだぞ。で、何でいきなりこんな事をしたんだぞ?』
ギクッ、誓いの首輪を壊してしまったのをごまかす為、だなんてホントの事は言えない……、いやしかし、結果として壊したのは俺の様なものだし、真実を言って謝った方がいいのでは? ここでごまかしてもいつかは分かる事だ、ならば、悲しませるかもしれない怒られるかもしれないけれど、全力で謝らねば。
少し挙動不審な俺を怪訝な目で見ているジャヌーラ、悩む俺に業を煮やしたのかデイジー叔父さんが頭を下げて、ジャヌーラに謝ろうとしたのが見えた。
「ごめんなさいねぇん、ジャヌーラちゃん。実は――」
「違うんだジャヌーラ!! 悪いのは俺だデイジー叔父さんじゃあないんだぁあああ!!」
『い、いきなり大きな声を出すんじゃないんだぞ、ビックリするんだぞ』
困惑するジャヌーラに俺はスライディング土下座をし、額を地面に打ち付けた。
「ごめぇえええええん、誓いの首輪、俺のせいでちぎれちゃったんだぁああああ!! さっきのはそのつまりあのあれ、そうごまかす為になんか勢いでやっちゃったんだぁあああああ、ほんとごめぇええええん!!」
俺は心からの謝罪をしつつ、頭を地面に打ち付けたまま、ちぎれた誓いの首輪をジャヌーラに
差し出した。
ジャヌーラがそっと俺の手からちぎれた誓いの首輪を取ったのが分かった、許してくれるか分からないが、この場をごまかしてうやむやにしてしまうよりはいいはずだ。
『わちきの……誓いの首輪が、ちぎれて? え? な、なんで? わ、わち、きの誓の首輪……う、うわぁあああああああああああ、わちきのぉ誓いの首輪がぁあああああああああ!!』
ジャヌーラは子供のようにとてつもない大声で泣き始めてしまった、やばいどうしよう。
というか、声凄くない? 地響きというか地震が起きてるんだが?
『あら、さすがに守護神たる神の精神が揺らぐと、守護する国との繋がりからかなり影響が出るわね』
『ジャヌーラはまだ若いもんから、ショックな事があるとかなり精神が揺らぐもんねぇ。まだまだもん』
「いや、そんな事言ってる場合か!? これ、このままだとヤバくないか!?」
『当然ヤバイもん、さっきまでの姿なら大した影響なかっただろうもんけど、ヒイロの信仰の力が入ってるもんから、守護する国に対する影響力も跳ね上がってるもん』
「じゃあなんでそんなに落ち着いてるんだ!?」
『それはデイジーちゃんが止めるからよ』
「え?」
ジャヌーラの精神が揺らいだ事で引き起こされた大地震、マレッサとパルカが妙に落ち着いているのを見て、俺は大いに慌てふためいたが、その理由を聞いてついきょとんとしてしまった。
俺がデイジー叔父さんの方を見ると、既にデイジー叔父さんは行動を開始していた。
「デイジィイイイイイアースクェイクゥウウウウウ!!」
デイジー叔父さんは大地に両手を当てて、凄まじい勢いで振動を始めた、一体何を? と困惑したが、途端に地震が弱くなった気がした。
まさか、デイジー叔父さんの振動と地震が相殺されて、地震が治まっていると言う事なのだろうか? 自分で言ってて良く分からないが、たぶんノイズキャンセルみたいな感じでジャヌーラの引き起こしている地震と逆位相の振動を当てる事で地震を相殺、消し去っているのだろう。
なんで人間にそんな事が、と一瞬思ったがやってのけているのはデイジー叔父さんだ、このくらいは当然、マレッサとパルカが妙に落ち着いていたのも納得だ。
『ひっく、ひっく……わちきの、わちきの誓いの首輪ぁ……あーー、秘蔵の魔法道具だったんだぞ、大切にとっておいたのにぃー、あーーー』
ペタンとその場にへたり込んでしまったジャヌーラ、地震はデイジー叔父さんの振動で収まってはいるがいまだに誓いの首輪がちぎれた事がショックで泣きじゃくっている、どうにかしてあげたいが壊す事になった当人の俺が何を言ってもダメだろう、しかし……。
「デイジィイイイイイトントォオオオオオオンッ!!」
俺が思い悩んでいると、デイジー叔父さんは泣きじゃくるジャヌーラに近づき、慈愛に満ちた女神が如き親愛のオーラをかもし出しながら優しくその体を包み込み、背中を優しくトントンし始めた。
「ごめんなさぁい、ジャヌーラちゃん。ジャヌーラちゃんの大切にしてた誓いの首輪をちぎっちゃったのはあたくしなのよぉん、ジャヌーラちゃんがとっても自慢していたから、ついどのくらい凄いのか確かめたくなっちゃたの、本当にごめんなさい。許さなくたっていいわ、ジャヌーラちゃんの大切な物を壊しちゃったんだもの、でもね、必ずこれは直してジャヌーラちゃんにお返しするわぁん、はい小指」
『ひっく……小指?』
あれ程泣きじゃくっていたジャヌーラがデイジー叔父さんのデイジートントンによって泣き止んできた、さすがデイジー叔父さんだ。
そしてデイジー叔父さんはおずおずと小指を出したジャヌーラの小指に自分の小指を絡め、指切りをした。
「指切り拳万、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った」
『な、なんなんだぞ今の?』
「今のはね、あたくしや緋色ちゃんが居た世界での嘘偽りなく約束を必ず守ると誓う儀式よぉん、指切りをした上で嘘を付いたら拳骨一万発の上に針を千本飲むのよぉん」
『異世界の下等生物たちは蛮族の極みなのか??』
「それだけ約束と言う物を重く大切にしているって事よぉん、元々は実際に指を切って相手に渡したりする事もあったらしいんだけれど、あたくしの小指いる?」
『さすがにそれはいらないんだぞ。でも直して返すって言っても誓いの首輪を直したり、作ったりできる者は現在いないとされてるんだぞ。神位魔法を物質化させて織りあげる神業技巧がある事が前提のとんでもない代物、それが誓いの首輪だぞ。神すら逃れられない誓いの呪いは原初の呪いに匹敵する神代の産物、今の世界にそんな物は存在しないんだぞ、だから誓いの首輪を直すなんて奇跡もいいとこなんだぞ……』
そう言って再びジャヌーラの目が潤んできた、デイジー叔父さんは零れ落ちそうな涙を指で優しくぬぐい、聖母の如く微笑んだ。
「安心なさぁい、原初の呪いなら緋色ちゃんのお友達の一人よぉん。だからきっとなんとかなるわぁん、そう人間にだって奇跡は起こせるのよぉん。まずはこの荒れた大地を癒さなきゃねぇん」
デイジー叔父さんが優しくジャヌーラの頭を撫でて、ゆっくりと立ち上がって両手を大きく広げた。
「デイジィイイイイイヒィイイイイイリングッッ!!」
そう叫んだ瞬間、デイジー叔父さんの身体が神々しさすら感じる程の光が放出され、辺り一面を真っ白に染め上げてしまった、どこか暖かで懐かしさすら感じるような優しい光の濁流に俺は飲み込まれた。