221・やってしまった事の責任は誰かが取らないとって話
「で、どうしたんだジャヌーラ。別れを惜しむって感じでもないし、俺たちに付いてきたいなら部屋はちゃんと一人部屋を用意するぞ、とは言ってもあともう何日かしたらマレッサピエーに移動する予定ではあるんだけれど」
『誰が下等生物の巣になど行くものか、見ろわちきの国の有様を!!』
ジャヌーラが若干怒りながら日の光に照らされるジャヌーラカベッサの大地を指差した。
「うん朝日が奇麗だな、大地はまるでジャヌーラの様に平だな。それの何が問題なん――ぐぇッ!?」
唐突にジャヌーラが光の消えた目で俺の首を絞めて来た、どうした事だろうか、誰かに操られてるのかもしれない。
やば、意識が飛ぶ……。
『ジャヌーラ、そこまでになさい。でも、さすがに今のは人間が悪いわ、いくら本当の事でも言っていい事と悪い事があるわよ』
『パルカー、貴様もかー!! 同じくらいの癖にー!!』
『はぁ!? 失礼ね、私様は少なくともアンタよりはあるわよ!!』
ジャヌーラとパルカがもの凄い顔で喧嘩を始めそうな勢いだ、なんとか止めたいのだが何故か体が動かない。
『はいはい、ヒイロは体に戻るもん。魂がはみ出てるもん』
グイっとマレッサに押され、ぐったりと横たわる自分の体に押し込まれていく。
「ふぅ死ぬかと思った」
『ちょっと死んでたもんよ。ほっといたらたぶん冥域に落ちてたもん』
本気の神様の首絞めって怖いな、今度からは気を付けよう。
ジャヌーラとパルカの小競り合いを止めつつ、俺はジャヌーラにとりあえず謝った。
「すまんジャヌーラ、一体何がジャヌーラの怒りに触れたのか微塵も、全く、見当がつかないが怒らせてしまったのは確かだ、本当にすまない」
『この下等生物、謝る気あるなら頭を撫でるのやめるんだぞ!! こいつほんとになんなんだぞ!? ってもう、そんなのはどうでもいいんだぞ、この光景を見てなんの罪悪感も感じないのかって言いたいんだぞ!!』
はて、罪悪感? 何のことだろうと改めてちゃんとジャヌーラカベッサの大地に目を向けると、見える範囲に大小の違いは有れど数多くのクレーターが出来ており、野原は見るも無残な様相を呈していた。
あぁ、あの四人が戦ったせいで荒れてしまったのだろう、どうやらジャヌーラはこの事を言いたかったらしい。
「いやぁ、凄かったな、あの四人の大暴れ。アリスが止めてくれたから良かったものの、もしかしたら死人が出てたかもしれないよな」
『そう言う事じゃないんだぞ!! あれらを此処に集めたのは貴様だ、下等生物!! 責任を取るんだぞ!!』
「えぇ、俺のせいなの!? 全部が全部俺のせいって事でもないと思うんだが、まぁ確かに結果としてルクレールとシグルズさんが来たのは俺のせいかもしれないが」
ジャヌーラの言葉に理不尽に責め立てられている気分になるが、多少は俺の責任な所もあるかもしれない、しかし責任を取れと言われてもなぁ。
「まぁ分かったよ。それで責任を取れって何をすればいいんだ?」
『もちろん、全部元に戻すんだぞ!! 元に戻せるまで国外には出られないと思うんだぞ!!』
ジャヌーラがそう言った瞬間、俺の首元が一瞬光って、気づくと俺の首には革製のチョーカーの様な物が装着されていた。
『それは誓いの首輪だぞ、誓いを破ったら縮まって窒息どころか首の骨へし折って首チョンパすらしちゃう代物だぞ!! 神位魔法で生み出された物だから、普通の下等生物は愚か、絶位の魔法使いでもS級の冒険者でもぜっーーーたいに壊せない、凄い物なんだぞ!!』
ジャヌーラが無い胸を張ってそこまで言うものだから、試しにとデイジー叔父さんに誓いの首輪を引っ張ってもらった。
すると、ブチッと軽くちぎれてしまった、やべ、デイジー叔父さんも凄く困った顔をしている、まさかここま簡単にちぎれるとは思わなかったのだろう、だが、幸いジャヌーラはまだ気づいていない、結び直せばワンチャン。
マレッサとパルカがあーあって顔と態度してる、ちくしょう他人事だと思って。
『その誓いの首輪はなーホントに凄いんだぞ!! わちきたち神であってもその誓いの首輪からは逃れられないとても強力な呪いが込められてて、それはかつて神すらも殺すと恐れられた原初の呪いに匹敵する神殺しの呪具として有名なんだぞ!! わちきの秘蔵中の秘蔵、もはや同じ物を作る事は現存する神たちであってもほぼ不可能とされてるんだぞ!! そんな貴重な物を下等生物に使うなんてホントは嫌だけど、わちきの国をこんなにした責任から絶対逃さない為に特別に使ってやったんだぞ、ありがたく思うんだぞ!!』
特別な玩具を自慢する子供の様な満面の笑みで俺の方を見るジャヌーラの目に俺の首に蝶々結びで結ばれている誓いの首輪が目に入る。
ちぎれた物を戻す時間がなかったので苦し紛れにちょっと引き伸ばしてほどけないように結んだのだが、どうだ、誤魔化せたか?
「そ、そうなのかー、凄い首輪なんだなーこれ」
『……え? あれ? そんな結び目……あれ?』
いけない、これは気づいてしまう、どうにかしなくては。
「許せマレッサ、パルカ!!」
『え?』
『は?』
俺は大きく深呼吸して空気を肺一杯に吸い込み、そして、叫んだ。
「ジャヌーラはとても可愛らしい見た目で髪の毛は美しく艶やかで素敵な触り心地だ、竜に恐れを抱いていたり、怖がったりしている様子は庇護欲を凄くくすぐってくる、そのくせ俺の事は下等生物と見下して自分は偉いんだぞって自分を鼓舞してる所は頑張れって応援したくなる、しかし自分の守護する国が危ないと姿を現して何とかしようと頑張ってるのは凄く立派だ、何割か俺のせいで野原がめちゃくちゃになった事に怒りを覚えるなんて国を愛している証拠に他ならない、守護神としてあるべき姿を体現するまさに守護神の中の守護神、可愛らしさと健気さとひたむきさを持つ無限の可能性の権化、平な胸を気にしている所もお年頃って感じで微笑ましいぞ、あとさっきのお茶会でお菓子を頬張っている姿が凄く凄く可愛かった、可愛いと可愛いが合わさって無敵に見えるくらい凄かった、いつまでもそのままのジャヌーラでいてくれぇええええええッッ!!」
『い、いきなり何をッ――みゃああああああああああああッ!?』
誓いの首輪の件を誤魔化す為に心からの信仰をジャヌーラに捧げると、ジャヌーラの全身から光が溢れ出し、光の柱となって天に昇っていく。
マレッサとパルカには信仰を禁じられていたが、緊急事態だったので致し方なし、だからマレッサ俺の頭をチョップするのはやめてくれ、パルカも額をキツツキみたいにつつくのをやめてくれ、痛い。
言いつけを守らなかったの悪かったと思っているんだ、だがやむを得ない事情が。
『こ、これは、一体? どういう事か説明するんだぞ下等生物!!』
光の柱が霧散した後には身長が伸び、スレンダーな体型で足元まで伸びたウェーブのかかった雪の様に白く長い髪、ピンクの花の髪留めはそのままで子供サイズだった半袖半ズボンの服が少しきつくなっているジャヌーラがそこに居た。
「なんで成長してるんだよぉおおおおおお、ちくしょおおおおおおおおッ!!」
『ぴぃッ!?』
俺の突然の魂からの慟哭を聞き、ジャヌーラはビクッと体をこわばらせていた。