220・それぞれの帰路って話
「なんとも騒がしい奴よのう、まぁよい、それなりに楽しめたわクカカカ。あの小生意気な小僧も魔剣女もまだ伸びしろがありそうで、これからも楽しみじゃな。で、小僧、あの異様な小娘だが……いや、妾が言うまでもないであろうが油断なぞするな。アレは異常が服を着て歩いておる、貴様の叔父と同類の埒外の生き物ぞ、なんの気まぐれかは知らんがよくもまぁ、会話の様な物が出来たものじゃ、本来ならまっとうな対話なぞ期待できん類の存在、妾であってももう二度とまみえたくはない程じゃ」
金色の鱗を持つルクレールがこの場から去った者たちの事を口にする、晴流弥とゴッデス大蝦蟇斎さんに関しては今後を期待するような上から目線の内容ではあるが、アリスに関してはデイジー叔父さん並みという評価らしい。
アリスがデイジー叔父さんと同類というのは俺にはいまいちピンと来ないが、マレッサやパルカは思い当たる節があるのかないのか、なんとも微妙な様子だ。
「デイジーはともかく、ヒイロは対峙した相手の力量を正しく測れるようになるといい。ルクレールも言ったがアレは、アリスと名乗ったあの少女は拙者らの手にすら余る埒外の存在、もはや神に近しいと言っていい、ドラゴンナインという冒険者ギルド最強の九人に名を連ねていながらこの泣き事、嘆かわしいが事実は事実として受け入れねばならん。あの者もマレッサピエーが召喚した勇者と聞く、もはや戦うであろう魔王国の者が憐れにすら感じるほどだ」
ルクレールやシグルズさんがここまで言うのだアリスという少女の異常性は確かなものなのだろう、俺としても『全知全能』なんていう勇者特権はチートもいい所だとは思う。
他にも色んな勇者特権があるんだろうが、字面からしてもう駄目だろ、反則中の反則なんじゃあないか? などと思ったがデイジー叔父さんという例外中の例外が居る以上何も言えない。
「あぁ、そうだ。なんか俺二人に失礼な事言ったみたいなんだ、ごめんなさい。つい馴れ馴れしい感じになるんだ、決して二人を軽んじてる訳じゃない、それは誓って言える」
そう言って俺は頭を下げたが当のルクレールとシグルズはうん? と何の事か分かっていないようだった。
「いや、俺がゴッデス大蝦蟇斎さんと晴流弥の戦いを止める事は出来ますか? って聞いた時なんか二人とも怒ってたんじゃ?」
「あぁ、その事か。妾ってばどこぞの断罪馬鹿と違って大人の淑女じゃし? そんなどうでもいい事なんぞ気になどしてはおらぬわ」
「ルクレールはともかく、拙者がその様な事に激昂するなどありえません。気のせいです」
また二人が喧嘩しそうなオーラを醸し出しつつにらみ合っている、ほんとに仲がいいな。
俺がそんな事を思いつつ生暖かい視線を二人に送っていると、ルクレールがポンと手を叩いた。
「おお、そうじゃった、そうじゃった。こんな断罪馬鹿なんぞ気にしとる場合ではなかった、おい小僧、羊太はどうしておる? 恐らく妾恋しさに毎日涙で枕を濡らしておるであろう、うむうむ実に愛い奴よなクカカカ」
「いや、復興現場で炊き出しの手伝いとかしてくれてて、とても助かってる。フィーニスやナルカとも仲良く遊んでるし、泣いてる所は見た事な――」
「いやいやいや!! みなまで言わんでよいぞ、羊太は妾にぞっこんじゃからな。うん、きっと寂しくて体がうずいて仕方ないはずじゃ。そろそろ帰ってやらぬとなー」
「いやだから泣いてなんかいな――」
「だから、言わずともよいって!! 羊太は寂しい思いをしとるに違いあるまい」
ルクレールは何故か俺の言葉を遮ってまで羊太が寂しい思いをしていると豪語する、何故か目が潤んで見えるが気のせいだろうか。
その様子を見てシグルズさんが少し驚いた様子を見せた。
「これは意外な、まさか貴様にその様な感情があったとはな。たぶんに色ボケではあるが、母性に似た物も感じる、これはこれは、貴様とは長い付き合いだが初めて見た気さえする。よかろう、今日の所はそのヨウタという者に免じ、貴様を見逃してやろう。しかし、凶事を為すというならば即座に拙者が貴様を断罪する事を忘れるな」
「ええい、鬱陶しい。実に興が削がれた、見逃すのは妾の方じゃ。いい加減戻るか、断罪馬鹿の相手ばかりで放っておき過ぎたかのぉ……。妾、羊太の所に帰るゆえ、さらばじゃ」
大きなため息をついてルクレールが背中の羽根を大きく羽ばたかせて宙に浮き、ジャヌーラトーロに向かって飛び立った。
そして、シグルズさんもルクレールを追いかけるように飛んでいく、何でついてくんじゃ、とか貴様が良からぬ事をせぬ為に見張るのだ、とかギャーギャー騒いでいた、やっぱり仲がいいなあの二人。
「じゃ、帰りましょっかヒイロちゃん。フィーニスちゃんはぐっすりだし、ナルカちゃんも疲れちゃったのかしらねぇん、マジックバッグの中で寝てるわねぇん」
『色々考えたい事があるもんけど、一回寝た後でいいもん、どっと疲れたもん』
『ん~、そうね、ただの犯罪組織潰しかと思ったら変に張り合って喧嘩して、仲裁に来たのも混ざって暴れて、極めつけにあの異様な勇者、気になる事がないでもないけれど、今日はもういいわ、帰って寝ましょ』
「じゃあ、帰ろう、デイジー叔父さん」
俺たちはジャヌーラトーロの拠点に帰る為、デイジー叔父さんが当たり前のように破壊した空間の中に入ろうとした、その時ジャヌーラが叫んだ。
『ちょっと待つんだぞ!! このまま帰って終わりな訳ないんだぞ!!』
はて、一体どうしたのだろうか? もしかしたら俺たちと一緒に帰りたいのかもしれない、それなら仕方ない俺のベッドを譲る事にしよう。
「ジャヌーラの為なら、俺は床で寝ても構わないよ」
『いきなり何を言ってるんぞこの下等生物』
『普通に訳が分からないもん』
『ごめん人間、ちょっと何言ってるか分かんない』
神様たちには俺の優しさは伝わりにくいようだ、実に悲しい。




