22・買い過ぎるとかさばって大変だからって話
商隊のキャンプを後にして、報告も兼ねて盗賊ギルド『エルドラド』へと向かう。
ザハールさんに護衛任務の報告がてらテントや食料、デイジー叔父さん御所望の品々を売っているお店を聞き、市場の場所を教えてもらった。
その市場は偽物や盗品はもちろん詐欺にぼったくり等、なかなかにリベルタ―らしい場所であるそうなので、セヴェリーノさんに同行してもらう事にした。
「あっはっはっはっ、デイジーは奇麗好きなオシャレさんなんだな! おいらは風呂なんか週に一回入るかどうかだ。たまに香水は付けるが、女を口説く時くらいだな」
「あらやだぁん、身だしなみと清潔さはモテの基本、きっちりしなきゃだめだめよぉん」
「別に女に困った事はないんだがなぁ。デイジーが言うならそう言うものなんだろうな。今度からは気を付けて見るよ。ほら、ここがリベルタ―の強欲通りだ。大通りの両脇に色んな店が出てるだろ、日によって店が変わるから、見つけた品はすぐに買わないと二度と手に入らない事もざらだ。あとで買おうなんて呑気してたら、何も買えないぞ。強欲になんでもその場で買わないと目当ての物を手に入れられないから強欲通りって呼ばれてる」
「あらあらぁん、とっても盛況ねぇ。お祭りみたい」
デイジー叔父さんの言う通り、強欲通りはお祭りのように人でごった返していた。
そこかしこで威勢のいい声で客引きをしていたり、喧嘩をしていたりととても賑やかだ。
お店に並んでいる品々も多種多様で武器だったり防具だったり、肉や野菜、食器や本の類も売っている。
見慣れない道具類も多くあり、何に使うのかも分からない頭が三つある人形なんかもあったが、呪いの人形らしい、なんか目が合った気がするので、スッと目をそらしてセヴェリーノの後に続いた。
「魔法具も結構な数が売られているが腕のいい職人の物じゃなきゃ一回使えればいい方だ。魔王国なんかの既製品の横流しもあるんだが、ちょっと割高だ。その分、質は十分だぞ。ああ、そうだマジックバックは持ってるか? 収納の魔法を使えるなら持つ必要もないんだが、魔法の方は個人個人で収納量がまちまちだからな、一定量を収納できるマジックバックは旅の必需品だからな」
「マジックバック、そんなのがあるんだ。俺は持ってないよ。デイジー叔父さんは?」
俺の問いかけにデイジー叔父さんは首を振る。
既にいくつかの食糧と水の他に沢山の花と大きめの植物の種なんかを買っていた。
食料と水はともかく花と植物の種は何に使うのだろう。
「あたくしも持ってないわぁん。そんな便利な物があるのねぇん。大きな荷物を背負わなくても済みそうで助かるわぁん」
ショッピングでウキウキなデイジー叔父さんは体をくねらせながら答えた。
ちょっと周りの人たちが引いてる気がするけど、気にしない。
「大型のマジックバックはそれなりに値は張るが、護衛任務の前金が金貨十枚だったか? なら小型の物なら買えるだろう。それでも容量は十分だ。大樽ニ個分は入るからそれなりに詰め込めるぞ」
「おお、魔法って感じだ。出来れば節約もしたい所だけど、必要な物はケチると後で痛い目を見そうだからなぁ」
「節制も悪くないが、生きてるうちに金は使わないとな、死んだ後に金を使う事は出来ないからな」
さらっと怖い事を言わないでほしい。
俺にとってリベルタ―の街はこの二人がいなかったら、部屋に籠っていないと命が幾つあっても足りないような場所なのだから。
『まぁ、部屋に閉じこもってたところで、押し込み強盗とか来たらどうしようもないもんけどねぇ。ヒイロみたいな弱っちぃやつが部屋に籠ってるとか、豚と牛が肉屋で寝てるような物もん』
「嫌な例えをしないでくれマレッサ。安住の地がどこにもないって言ってるのと同じじゃないか」
『もん? 気づいてなかったもん? 昨日、酔いどれドラゴン亭でも狙われてたもんよ? セヴェリーノが牽制してたから、襲われなかったもんけどねぇ』
衝撃の事実をそんなあっけらかんと告げないでくれ、頼むから。
心が、心が持たないじゃないか。
デイジー叔父さんがいるからとは言え、四六時中一緒にいる訳にもいかないし、自衛出来る方法を考えないとなぁ。
『多少ならわっちが守ってやるもん。あと、生半可な攻撃はヒイロには通らないもんよ? デイジーのバリアの効果はいまだに健在もんから』
「マジで? あの落下の衝撃でバリアは無くなったとばかり思ってたよ」
『デイジーのバリアが無かったら、昨日のセヴァリーノの雷神大槌撃の余波でぶっ飛んでるもん。感謝しとくもん、わっちの守りよりよっぽど強力もんから』
「ありがとうデイジー叔父さん、マレッサも多少でも守ってくれるって言ってくれてありがとう。やっぱりマレッサは最高の女神だな」
『うっひょっひょ、いいもんよ、いいもんよ、もっと褒め称え崇め奉って平伏するも~ん』
毛玉から生えた腕をうねうねさせて、喜んでいるマレッサ。
その指をわきわきさせるのはやめてくれ、ちょっとキモい。
そんな話をマレッサとしているとセヴェリーノが立ち止まった。
立ち止まった先に何とも怪しげでボロボロは店が一件建っているのだが、突風が吹けばたちまち吹き飛ばされてしまいそうなボロさに一抹の不安がよぎる。
「よし、ここだ。デイジー、ヒイロここがおいらのなじみの店でもある何でも屋ボタクリだぞ。無い物は無いが自慢だが、置いてない物はねぇんだからしつこく聞くなぶっ殺すぞって意味だから気を付けろ」
「うわ、名前が胡散臭い上に自慢が自慢でもなんでもなく野蛮だ」
「あっはっはっはっ、その通りだ。だが腕は確かだ。ここなら質のいいマジックバッグを売ってる。邪魔するぞ、ボタクリ」
そう言ってセヴェリーノは店の戸を開けて中に入っていった。
俺とデイジー叔父さんもその後を追って店の中へ。
「金ならねぇっつってんだろボケが!! ぶっ殺すぞ!!」
突然の怒号と共に店の奥から飛んできたナイフの切っ先が俺の目の前で止まる。
デイジー叔父さんが小指でナイフを止めてくれたようだ。
心臓に悪すぎる、いきなりナイフ投げてくるとかどういう神経しているんだろうか。
セヴェリーノも飛んできたナイフを叩き落としており、笑いながら店の奥に向かって声をかける。
「あっはっはっはっ、ボタクリ、また賭場で負け込んだのか? おいらだよおいら、セヴェリーノだ」
「ああん? セヴェリーノだぁ? 」
しわがれた声と共に髭面でずんぐりむっくりな体型の老人が店の奥から暖簾をかき分けてのっそりと現れた。
その髭面の老人は付けていたゴーグルを外し、眉間にしわを寄せながらジッとこちらを見つめる。
「なんだ、セヴェリーノの坊主じゃねぇか。てっきり借金取りかと思ってナイフ投げちまったじゃねぇか、先に言え馬鹿野郎。で何の用だ? おめぇさんは武器とかいらねぇだろ。それとも魔法具でも買いに来たか?」
「今日はおいらは客じゃないんだ、客はこっちの二人だ」
「ほう、珍しいなおめぇさんが人を連れてくるなんざ。おう、よろしくな人間。ワシはドワーフのレギンスール・ボタクリだ。ボタクリでいいぞ」
ボタクリさんはドワーフという事だが、やはり鍛冶なんかが得意なのだろう。
なんだかずんぐりむっくりしててかなり小さい見た目だとは思ったがまさかドワーフだとは思わなかった。
「初めまして、ヒイロと言います。こっちはデイジー叔父さんです」
「うふぅん、よろしくねぇんボタクリさん」
ボタクリさんは手を軽く振った後、俺の頭の上の方に目をやって髭を撫でながらほうと呟いた。
「神宿りたぁ珍しい。その色は風の神プラテリアの流れの神か? なかなかの神格だが、その小ささは分神体あたりか、それでも十分すげぇな」
「マレッサが見えるんですか?」
「色が分かるだけさ。マレッサっていやぁ、魔王国とドンパチやってる国の守護神だったか。なんでおめぇさんにその神の分神体が付いてるかは気になるが、今はどうでもいいか。お客人、何でも屋ボタクリにようこそ、無い物は無い店だ、何がお望みだい?」