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219・お茶会の終わりにって話

「なぁ、アリス。もう日の出だ、そろそろお開きにした方がよくないか。子供が徹夜なんて悪い子過ぎるからな」


「あら、ほんとだわ、もうこんな時間。楽しい時間ってあっという間、矢のように飛んでいくなんてよく言ったものね。そろそろおいとましなくちゃ、おうちのみんなもきっと心配してるわ。サンドラ帰りましょ」


「はい、アリス様」


席を立ち、スカートの裾を軽くつまんでアリスは優雅に一礼した。


「それでは皆様、ごきげんよう。今夜はとっても楽しいお茶会だったわ、またの機会にお会いしましょう。デイジーちゃん、ヒイロ、バイバイ」


そう言ってアリスはまるでドアを開けるように空間を押し開け、その中に消えた。


「ハレルヤ様もどうぞこちらへ、旦那様方も歓迎なさるでしょう」


「うむ」


サンドラさんに言われ、晴流弥が立ち上がりアリスの開けた空間に進む。


「凡夫ヒイロ、今日はそれなりに楽しめた。それにこれ程の強者たちに出会えるとは思いもしなかった、しかし、これで我は更に強くなってしまったぞ。魔剣女、光の竜、宝石鎧の女、今日が我に勝てる最後の機だったと思うがよい、今後はもはや我に勝つ事など不可能としれ」


アリスのお茶会中、あまり喋らないと思っていたらこれである、その物言いに腹を立てたであろう三人が口々に文句を言い始めた。


「よく言うわね、クソガキ。いっとくけど私まだ本気だしてないから!! 一パーセントくらいの全力しか出してないから!! まだまだ超余裕あったし!! あんたみたいなガキンチョ、本気の本気ならワンパンだから、ポンポンポーンで秒殺なんだから、覚えとけクソガキ!!」


「ほざきよるわ、小生意気な小僧めが。次は初手から殺すつもりで遊んでやるゆえ、覚悟しておけ。貴様の泣き叫ぶ様はさぞかし滑稽であろうな、その泣き声は次の楽しみにとっておいてやろうぞ、せいぜい精進するがよいわ、クカカカ!!」


「多少見どころがあると判断したが、その高慢な態度は減点だ。品行方正であってこそ力とは正しく使えるもの、正しく無い力に意味などない。強者とは常に心静かに正しくあらねばならぬ、それを忘れるな」


三人の言葉に晴流弥はフンと鼻を鳴らし、あぁそうだと言ってデイジー叔父さんに目を向けた。


「デイジーと言ったか貴殿は一体何者だ? 只者ではあるまい、もしかしたら我すらをも凌駕しているやもしれん、その力の源泉は何処から来ているのか興味は尽きぬが、わざわざ藪をつついて蛇どころか、八岐大蛇なぞ出て来てはかなわんからな、できれば敵対したくはないものだ。凡夫ヒイロ、さらばだ、また縁があればまた会おう」


「あぁ、元気でな晴流弥。今日は色々あって目の回る思いだったけど、そうだな、うん、楽しかったよ。またな」


「緋色ちゃんが色々お世話になったみたいねぇん、ちゃんとしたお礼が出来てないのが心残りだわぁん、だ・か・ら、今はこれで我慢してねぇん、ん~~~チュッ!!」


晴流弥はデイジー叔父さんの投げキッスに対して全力で防御態勢をとったが、そのあまりの衝撃と風圧でほんの少し体が宙に浮いてしまう、デイジー叔父さんの投げキッスで中庭に植えられていた花が全て舞い飛び、中庭は花びらの舞う散る何とも幻想的な風景となった。


「凄まじいの一言よな、デイジー。あのアリスという娘もそうだったが、貴殿はそれ以上だ。つくづく我が未熟であると思い知らされる、改めてさらばだ」


そう言って、晴流弥はアリスの開いた空間の中へと消えた、サンドラさんが優雅にペコリと頭を下げこう言った。


「では、ヒイロ様、デイジー様、マレッサ様、パルカ様、ナルカ様、フィーニス様、ジャヌーラ様、ルクレール様、シグルズ様、ゴッデス大蝦蟇斎様、これにてアリス様のお茶会はお開きとさせていただきたく。ヒイロ様、デイジー様方に置かれましてはアリス様は元より旦那様方ともいずれお会いする事もございましょう。その時は、どうぞよしなに」


よしなに、ただの偶然ではあるのだろうけれど、その言葉はあの仮面の男を思い起こさせた。

クギョウ・ジョウジと名乗ったあの勇者を。

俺がサンドラさんに声をかけようと思ったその時にはもう空間は閉じており、サンドラさんも、そしてメルヘンなお城も、舞い散っていた花びらも何もかも全てが消え失せていた。

まるでアリスとのお茶会が夢であったかのようにその痕跡は何一つ残っていない。

だが、少しずつ昇る太陽の光で照らされる野原の至る所にはゴッデス大蝦蟇斎さん、晴流弥、ルクレール、シグルズさんの四人が無駄に戦った跡がしっかりと残っている。

何が何やら分からない事だらけではあるが、とりあえず終わった、という何とも言えない疲労感が体を支配した。


「ふぁ~、なんだかどっと疲れた感じ」


「んふ、お疲れ様ねぇん緋色ちゃん。でもあたくしに黙って悪い事しちゃだめよぉん、いくらあたくしに負担をかけない為とはいえ、一人で色々背負い込もうとするのはよろしくないわぁん」


デイジー叔父さんは少しだけ困った様に笑いながら、小さな子供をあやすように俺の頭を優しく撫でなでた。


「ごめん、デイジー叔父さん。どうしてもデイジー叔父さんに無理をしてほしくなかったんだ、でもかえって心配させてしまってごめんなさい」


デイジー叔父さんを思っての事ではあったが、俺はデイジー叔父さんの意思は無視していた、酷い事をしてしまったと心から反省した。


「ちゃんと謝ったのならあたくしは許すわぁん、でも、あたくしに黙って犯罪組織を壊滅に行くだなんて、さすがのあたくしでも怒っちゃうわよぉん、あたくしはそんなにか弱く見えるかしらぁん?」


「それは全然」


「それは即答しちゃうのねぇん。まぁいいわぁん、今夜の事は一旦帰ってひと眠りしてからにしましょ、一晩中動き回って疲れてるんでしょ? ふかふかのベッドでゆっくり寝てリフレッシュしないとねぇん」


俺とデイジー叔父さんが話しているとゴッデス大蝦蟇斎さんが話しかけてきた。

そう言えばこの人、取っ捕まってたんだよな、どうしたものか。


「緋色君とデイジーちゃんはこれからジャヌーラトーロに戻るんですか? 私は改めてマレッサピエーに向かおうかと思ってます。ちょっとまぁ色々あるんで……」


『オラシオに色々と手を回してもらうようにちょっと神託してたもん。あのアリスとかいう勇者、噂には聞いてたもんけど、とんでもないもんねぇ。正直関わり合いたくない類の人間もん。じゃ、追手がかからない内に出発するもんよ。ジャヌーラうちの勇者たちが迷惑かけたもん、後で何か送るから、勘弁もん』


「と言う事で、また会いましょ、じゃあね!!」


そう言い放ち、ゴッデス大蝦蟇斎さんは一振りの魔剣を生み出して、一気に空へと駆け上っていった。


『なんか夜逃げでもするみたいな勢いね』


『まぁ、実際色々やらかして牢屋にぶち込まれてたもんからね』


『なんでわちきの国にこんな変なのばっかり来たんだぞ……』


嘆くジャヌーラの頭を撫で、そして払いのけられる、うん恥ずかしがり屋だな。


『こいつが一番変なんだぞ……』


ジャヌーラと俺がじゃれていると、今度はルクレールとシグルズさんがやってきた。

この二人もアリスのお茶会の時は妙に静かだったっけ、何か思う所があったのだろうか。

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