218・参加者の多いお茶会ではあるけれどって話
「まぁ、デイジーちゃんったらヒイロの叔父様なのね!! しかもヒイロを助ける為に自力でlこの世界に渡ってきたなんて!! 愛のパゥワーって凄いのね、素敵だわ!! ね、サンドラ!!」
「はい、その通りでございます」
「うふふ、今夜のお茶会はとっても楽しいわ!! こんなに素敵なお話が聞けるなんて、無理して出て来た甲斐があったというものだわ、でもハートには悪い事をしたわね、後でお菓子でも差し入れなくちゃ、あの子暴れちゃうわね。そうだ、デイジーちゃん、アナタの作ったこのクッキー少し持って帰ってもいいかしら? こんなに美味しいクッキーだもの、きっとハートやマーチ、他のみんなも気にいると思うの!!」
アリスはデイジー叔父さんが持参したクッキーを一枚口に運びながら、満面の笑顔でそう言った。
アリスの後ろにはメイドのサンドラさんが控えており、はたから見ればいい所のお嬢様に見えるだろうし、俺にはそう見えた。
ただ、このお茶会の状況は少々異常だ、このお茶会に参加しているのはアリスと六枚羽根のお淑やかなマレッサとサンドラさん、そしてほんの少し前まで殺し合いにまでなるんじゃないかってくらいにガチめに戦おうとしていた四人、ゴッデス大蝦蟇斎さん、晴流弥、ルクレール、シグルズさん、更に俺とマレッサ、パルカとジャヌーラにナルカ、最後にデイジー叔父さんと眠そうなフィーニスの計十四人、かなりの人数だがアリスとデイジー叔父さん以外はあまり会話をしていなかった。
恐らく、俺とマレッサとパルカにジャヌーラ、それとデイジー叔父さん以外は何が起こってこうなったのか理解出来ていないだろう。
俺だってアリスが時間を止めた上でこのメルヘンなお城を作り、戦っていた四人をお茶会の席につかせたなんて、実際に止まった時間の中に居たにも関わらず、信じきれずにいるのだから。
「えぇ、いいわよぉん、みんなで食べてちょうだぁい。あたくしもアリスちゃんとお話出来てよかったわぁん、空間破壊友達が出来るなんて思ってもみなかったからあたくし嬉しいわぁん」
アリスの言葉にデイジー叔父さんは同じく笑顔で返す、いや空間破壊友達って何とも物騒だな。
空間破壊、世界でそんな事が出来るのはデイジー叔父さんくらいだと思っていたのだが、勇者特権があるからとはいえ、同じ事が出来るアリスは恐らくとんでもない存在なのだろう。
こうなると、勇者特権という物自体がなんなのかと改めて不思議になってくる。
実に今更なのだが、俺の勇者特権って何なんだろう、前にパルカが変なスキルと言っていた様な気もする。
「アリスちゃんはお友達に会いに来たって聞いたのだけれどぉん、どういう子か聞いてもいいかしらぁん?」
「えぇえぇ、構わないわデイジーちゃん。わたしのお友達はね、とってもシャイな子で人に顔を見せるのが恥ずかしい子なの、ジャヌーラカベッサに元々いた子は動物が好きな子とちょっと暑がりな子と眼鏡をかけた子なのだけれど、大変なお仕事をしてるって聞いてわたしちょっと心配になってしまったの、こっそりおうちを出てここまで来たのだけれど、残念な事に四人とも帰ってしまったみたい、わたしが顔を見せたらきっとビックリすると思ったのに」
「そうなのねぇん、でもアリスちゃん、おうちの人に黙って出て来たのは良くないわぁん。貴女がどれほど凄くてもおうちの人は心配したはずよぉん、ちゃんとお友達に会ったら心配かけてごめんさないって謝らないとねぇん」
デイジー叔父さんに言われアリスは少しうなだれる。
「そうよね、わたしったら自分の事ばかりだったわ。どうしようかしら、あの子たちに嫌われたりしないかしら、わたし、お友達があまりいなかったからどう謝ったらいいのかよく分からないの、教えてくださる?」
「そんなに心配しなくても大丈夫よぉん、アリスちゃんが心からちゃんと反省して謝ればきっと許してくれるわぁん、ね、サンドラちゃん」
サンドラさんにウィンクで目配せをするデイジー叔父さん、サンドラさんはそのウィンクで生じた風圧に少しだけよろめいたが、デイジー叔父さんの意を察したのかコクリと頷いた。
というか、サンドラさん、両目を縫い付けてるから今のデイジー叔父さんのウィンクは見えなかったと思うのだが、まぁウィンクの風圧と言葉で察してくれたみたいだし、気にしない事にした。
「はい、デイジー様の仰る通りでございます。アリス様を嫌う者などおりません、ましてアリス様が頭を下げてそれを受け入れない者はおりません。ご安心ください」
デイジー叔父さんとサンドラさんの言葉を受けて、アリスは顔をあげて嬉しそうに笑う。
「本当!? よかった、サンドラが言うならきっとそうなのね。デイジーちゃんも謝り方を教えてくれてありがとう、とっても嬉しいわ!! さ、他のみんなもお茶菓子を食べてちょうだいな、サンドラの作るお菓子はとっても甘くて美味しいのよ!!」
マレッサとナルカ、ジャヌーラは既にテーブルの上のお茶菓子を貪り食っているが、アリスの方の六枚羽根のマレッサはお淑やかに紅茶を飲んでいる、何だろうこの違い、くっついてる勇者によってこうも品性に違いが出るのか。
「ごめんな、マレッサ、そんな風にしてしまって」
マレッサがこうも行儀が悪いのきっと俺のせいなのだろうと思い、俺はマレッサに謝った。
何故かマレッサが急に怒りだして俺にクッキーを手裏剣の様に投げてきた、食べ物で遊ぶなんて良くないぞマレッサ。
『モッチャモッチャ、マレッふぁ、食べ物で遊ぶのはクッチャクッチャ、良くないんだぞ。グビグビグビ、プッハー。お代わりなんだぞ』
クッキーやマドレーヌを一気にいくつも口に運び、くちゃくちゃと食べこぼしながら紅茶で流し込むジャヌーラ、口元をハンカチでぬぐい、頭を撫でた。
「うんうん、もっとお食べ」
『頭撫でるなだぞ!! 不敬だぞ、あとなんか気持ち悪いんだぞ!!』
ジャヌーラが俺に対してこんなひどい事を言うなんて……。
「これが反抗期か……」
『何言ってるんだぞ、この下等生物……』
『ジャヌーラ、気にしなくていいわ。この人間はセルバの神和にも似たような感じだったから』
「プナナは気持ち悪いなんて言わないッ!!」
『はいはい、分かってるわよ』
『ホント何なんだぞ、この下等生物……」
どうした事だろう、ジャヌーラだけじゃなくて周りの人の視線もなんだか冷たい気がする。
何故だ?
「うふふ、ヒイロって本当に面白い方なのね、女神様たちが相手だと言うのに全然畏まってないなんて、まるでお友達同士みたいだわ、とっても素敵ね」
「コホン、失礼だが、貴殿がアリス、つまりは侍女サンドラが我に会わせたかった主と言う事でいいのか。何故、こうなっているかは置いておく、そちらの望みであった我の力を示す事は出来たはずである、まぁ消化不良ではあるのだがな」
軽く咳払いをして晴流弥がアリスとサンドラさんに向けて話しかけた、しかしどういう事だ、力を示すというのは?
「あぁ、そうだったわね、すっかり忘れていたわ!! わたしはよく分からなかったのだけれど、サンドラ、この子はどうだったのかしら? みんなのお友達になれそう?」
「はい、十二分に力をお示しいただきました。オンミョウジという特殊なジョブのスキルの数々は魔法と似て非なる物ではありますが、見ていた限り、絶位の魔法使いにも引けは取らないかと。何より末席とは言え『十一指』のお一人、問題はないかと」
「そう、サンドラが言うなら間違いないわ!! よろしくお願いするわね、えっとお名前、何だったかしら?」
「芦屋晴流弥である。これで契約は成った、ゆめ我との契約を破るでないぞ」
契約って何なのだろう、晴流弥とアリスとの間の契約だろうか、どんな契約なのかは気になるが、人と人との間の事だ無理に知ろうとするのは良くない事だ。
ふと気付けば日が昇りかけている事に気付いた、そこまで長くお茶会に参加した覚えはないのだが、時間の流れとは早いものだ。
デイジー叔父さんの隣でフィーニスは既にスヤスヤと寝息を立てているし、俺も正直少し眠い、そろそろお茶会を解散した方がいいかもしれない。