214・ミイラ取りがミイラになったって話
「クカカカカッ!! 足腰立たぬ程度には痛めつけるつもりであったというに、上手くかわすではないか!! よいぞよいぞ、人間どもッ!! 勇者などという業を負っているだけの事はある!!」
「チッ、急に何かと思えば竜種と得たいの知れぬ者が強襲してこようとはな。しかもあの竜、人語を介する上になんだこの圧は、我が戦った『十一指』の末席であった学長ジャンパオロをもしのぐ魔力、我を以てしても底が見えんとは、もう一人の方も人の姿でありながら人外の気配を纏っている何者だあやつらは?」
「これの程の規模の封印術の展開は見事というほかなし、さらにその封印術に完全にはまっておきながら膂力のみで封印を無理やり破壊しかけていたかの者もまた見事。少し、評価を改める必要があるやもしれぬ」
「あーもービックリしたー。なんなのよ一体!! クソガキにしてやられたと思ったら急に上から来るぞ、気をつけろ!! 的な感じでどっかーんと大爆発、死んだらどうすんのよまったく!! 誰か知らないけど、敵ならぶっ飛ばすだけよ!!」
四人がそれぞれの思いを口に出し、何故か四人ともが戦闘態勢に入った。
違う、そうじゃない、俺は二人の戦いを止めてくれと言ったんだ、二人の戦いは止まって四人で戦うからセーフ、とかなんだそのトンチみたいな達成方法、一休さんも脱帽だよ、ダメだ自分で自分が何言ってるのか分からなくなった。
「マレッサ、パルカ、あの四人どうにか出来ない!? 二人を止めに入った二人がなんでプラスされて四人で戦おうとしてるの!? このままじゃさっきの比じゃないほどの被害がでる、ジャヌーラに凄く申し訳ないんだけど!?」
『気安く呼び捨てにするな下等生物!! あと、混乱してるのか分からないけど頭を勝手に撫でるな、不敬が過ぎるんだぞ!!』
「あぁ、すまないジャヌーラ、そこに頭があったからつい」
ジャヌーラが俺の足元にいて、ちょうどいい場所に頭があったものだからついつい撫でてしまった、それはそれとしてプナナの方がもう少しモフモフしてて気持ちよかったな。
『しかもなんか超失礼な事考えてるな、顔に出てるんだぞ下等生物!!』
おっと、しまった。
『じゃれ合いはあとになさい、私様を撫でるのは今になさい』
『あーもー、ボケだらけだとツッコミが死ぬもん、せめてパルカは真面目にするもん。残念ながら今のわっちやパルカ、ジャヌーラにあの四人を止めるのは無理もんね。ヒイロの信仰があれば容易いもんけど、今はやめといた方がいいもん。ヒイロがまた昏倒しても嫌もんからね、もう少し間を開けた方がいいもん』
一応、パルカの頭を撫でながらマレッサの言葉を頭の中で反芻する。
確かに俺がマレッサ、パルカにナルカ、あとジャヌーラを褒めに褒めれば信仰の力でそれなりの力になるだろう、でもエスピリトゥ山での一件で信仰を捧げすぎる事が危険であると分かった以上、マレッサの言う通りもう少し間を開けた方がいいというのはもっともだ、だが、そうするとこの現状を打開するにはどうすればいいのかって事になる。
「デイジー叔父さんを呼ぶのが多分一番手っ取り早いんだろうけど、無理をさせたくないしなぁ」
『世界の修正をねじ伏せた反動で本人曰く全身ズタボロでえげつなく消耗してるらしいもんね。次の日には地盤沈下した地区の瓦礫撤去とか一時避難用の簡易住宅作ってたみたいもんけど。いや、普通死ぬ、いやいや肉体と魂が消滅しててもおかしくなかったはずもん。なんで大怪我(自称)で済んでるもんかねデイジーは……』
「デイジー叔父さんだからな」
『あー、それ言われたらもう何も言えないもん……』
「デイジー叔父さん以外であの四人を止めれそうな人……、フィーニスはたぶん無理だろうなぁ、下手したら五人目になりそうだし』
「わかるーすっぽんぽん子はそういう子だしー」
「ナルカ、そのすっぽんぽん子って言うのはちょっと色々アレだから、ちゃんとフィーニスって名前で呼んであげた方がいいぞ」
「えーでもすっぽんぽんなんだよー」
「名前ってのは大事な物なんだ、相手の嫌がる名前で呼ぶのは良くない事だ、ナルカも変な呼び方されるのは嫌だろう?」
「……そうだね、わかったー。これからはフィーニスって呼ぶー」
「分かってくれてありがとう、偉いなナルカは」
「わーい、ナルカえらいー」
どうにもスライム状態の時のナルカは子供っぽさが増している気がする、人型とスライム形態で頭の構造に違いでもあるのかもしれない。
それはさておき、フィーニスでは恐らくあの四人を止めるのは無理として他に誰かいるだろうか、マレッサとパルカ、それにナルカなら俺が全力で誉めそやし崇め奉れば何とか出来るかもしれないが、俺は今、信仰を禁じられているので除外。
今のままの状態ではいかに神様の分神体と原初の呪いから転生した精霊とは言ってもあの四人を相手取るのは厳しいだろう。
俺がうーむと唸っていると地上の方から先程よりも更に大きな爆発音が響きだした、とうとうおっぱじめてしまったようだ。
足元を見ると、ジャヌーラが今にも泣き出しそうな顔で地上を見ているのに気付いた。
『わ、わちきが守護する国なのにぃ……』
半分くらいは俺のせいでもあるのだし、俺がなんとかしなけれ目覚めが悪い。
多少の無茶はいつもの事だ、なんとかなるだろう、うん。
「マレッサ、パルカ、ちょっと無茶する。説教は後で聞――」
俺がそう言った瞬間、マレッサに頬を引っ叩かれ、パルカに思いきり頭をつつかれた。
『パラライズ。マレッサ、お願い』
『分かってるもん。おら、バインドぉッ!!』
(な、なにをいきなりッ!?)
唐突にマレッサとパルカが俺に連携して魔法を喰らわせてきた、パルカの魔法で全身が痺れて声が出なくなった所にマレッサが鉄の様に硬い蔦で俺を縛り上げた。
その光景にナルカは呆れ気味にあーあと漏らし、ジャヌーラは困惑気味にオロオロとしている。
『ま、ヒイロが神の言う事聞かないのは分かってたもんからね。ちょっと拘束させてもらうもん』
『無茶はいつもの事だけれど、今回はさすがに止めるわ。それほどに危険な状態だと理解なさい。とは言え、このままだとジャヌーラが可哀想だから、無理してでもデイジーちゃんにどうにかしてもらうわ』
『デイジーならアイツらと言えど片手間でどうにか出来るもん。ここ数日は一応休んでたもんから多少は大丈夫だと思うもんよヒイロ。デイジーを心配する気持ちは分かるもんけど、心配し過ぎるのもどうかと思うもんよ?』
確かに相手はデイジー叔父さんなのだから、俺が心配した所で何かが劇的に変わる訳ではないだろう。
しかし、デイジー叔父さん本人が大怪我だと全身ズタボロだと言った以上、俺なんかには想像できないレベルで酷い状態のはずだ、やはり無理はさせたくない、でもジャヌーラの為にも地上の四人は止めたい。
俺がもっと強かったら自分でなんとかするんだが、そう言えば俺の勇者特権って何なんだろう、前にパルカに変と言われた覚えがあるけれど。
身動きが取れない状態でそんな事を考えていると、マレッサとパルカはデイジー叔父さんに魔法で連絡を取り始めていた、マレッサとパルカには心配させて、デイジー叔父さんには無理させて、何やってんだろうなぁ俺。
数秒と経たないうちに近くの空間がひび割れ始めた、これはデイジー叔父さんが空間をこじ開けて移動してこようとしているのだろう、そう思っていた。
砕けた空間の先から現れたのは二人の人物だった。
「マーチがお世話になったと聞いたのだけれど、サンドラ、こちらの方の事かしら?」
「はい、左様でございます。ヒイロ様、私の主人がマーチ様の件で直接会ってお礼を伝えたいと仰られましたので失礼とは思いましたが現在地をお伝えいたしました。ご無礼の程お許しください」
一人は城門で晴流弥と一緒に居たメイドのサンドラさん、もう一人は白を基調としたロリータ衣装に身を包む金髪金眼の少女だった。
「初めましてヒイロ、わたしはアリス、アリス・ゴアよ。今、とっても嬉しいの、マーチを助けた王子様に会えたんですもの、素敵だわ!! まるでお母様が読んでくださった絵本みたい、ねぇヒイロ、わたし貴方とお話がしたいわ、だからお友達になりましょう」
アリスと名乗った少女は人とは思えない爛々と輝く金の瞳で俺を見つめていた。




