211・喧嘩する程仲が良いって話
気付くと俺たちは星空の下に居た。
どうやらここはジャヌーラトーロから少し離れた野原のようだ、遠くにジャヌーラトーロの街明かりが見える。
突然の瞬間移動に晴流弥とゴッデス大蝦蟇斎さんは立ち止まり、キョロキョロと周囲を見回していた、突然夜の闇の中に放り込まれたのだから周囲を把握しようと努めるのは当たり前か。
かくいう俺もなんとなくでしか二人の様子が見えない。
しかし、いきなり神位魔法とやらを使うのは勘弁してほしかったな、少しだが目の前がチカチカする、前にも神位魔法の影響がどうのと言われた気もするが、あの時程酷い物ではないので多少慣れたのだろうか。
「ほう、分け身とは言えさすがは神か。我らをまとめて地上に瞬間移動させるとはな。上位や極位ですらない……絶位、いや更に上の魔法か」
「あぁあああああああ、私のお宝が全部なくなってる!? なんでッ!?」
冷静に現状を分析している晴流弥と違ってゴッデス大蝦蟇斎さんは身に着けていたアクセサリー類やポケットに詰め込んでいた金貨が全て消えている事に気付いて大いに困惑していた。
『それらは瞬間移動の対象から外したもん。まぁ、当たり前もんね、犯罪組織とは言え他人の資産もん、勝手に盗むのはダメもん、勇者として自覚もてもん』
「よし、即効でこのクソガキ叩きのめしてすぐに取りに行けば、警備兵が辿り着く前に少しは盗……コホン、少しはパクれるかもしれないわね!!」
『意味合い変わってねぇもん!? ていうか神の話はちゃんと聞けもん、クズ勇者!!』
ゴッデス大蝦蟇斎さんにくっついているマレッサが至極まっとうな事を言っているのだが、ゴッデス大蝦蟇斎さんは聞いていないようだった。
「ふむ、即効で我を叩きのめす、だと? 口だけは達者だな女囚ゴッデス。呪術で強化した我と同等の動きが出来るとは驚きだが、動きは素人のそれだ。それでは我を叩きのめすなど夢のまた夢と知れ」
「ははーん、言ってくれるわねクソガキ。動きは素人? 上等じゃない、素人の怖さ教えてやるわよ」
なんでこの二人は妙に喧嘩腰なのだろうか、同じ勇者召喚でこの世界に来たのだから仲良くすればいいと思うのだが。
「光栄に思うがよい、我の奥の手の一つを見せてやろう。疾く来たりて我が身に宿れ、四聖武装!!」
呼び出された四聖獣は晴流弥に向かって行き、ぶつかったと思った瞬間、眩い閃光を放った。
閃光が収まった後、そこには四聖獣の意匠が施された武装を身に纏った晴流弥が立っていた。玄武は鎧、朱雀は兜、青龍は剣、白虎はマントに、武具へと変化した四聖獣を纏う晴流弥の威圧感は先程までの比ではない、恐らく俺が今まで見た人たちの中でも上位に食い込むレベルだろう。
そんな晴流弥を見て、ゴッデス大蝦蟇斎さんはフンと鼻を鳴らしニヤリと笑う。
「いいわよ面白いじゃない、魔剣射出準備!! 死なない程度には加減してあげる、私って大人だからね感謝なさいクソガキッ!!」
瞬間、ゴッデス大蝦蟇斎さんの背後にゆうに百は越える数の魔剣が姿を現した、一本一本の魔剣から感じる禍々しさはそこらの魔物とは比べ物にならない、いや、これ当たったら絶対ヤバイやつやん、あかんて。
止めようかどうか悩んでいたが、二人ともなんとも凶悪な笑顔を浮かべているのに気付いた、なんだか楽しそうだな二人とも、もしかしたら喧嘩する程仲が良いって事なのかもしれない。
そう思うと、止めるのも野暮と言うやつだろうという気にもなってくる、というか正直、無理に止めに入ると巻き込まれそうで怖い。
「ふ、二人とも怪我しない程度で!! 俺もう回復のスクロール持ってないから!!」
俺の言葉がきっかけになったのか俺がそう言った次の瞬間、二人は動き出した。
「はあああああああッ、四聖剣抜刀ッ!!」
「全魔剣射出ッ!! ぶっ飛べぇええええッ!!」
放たれる一閃、降り注ぐ魔剣の雨、それらがぶつかり合った刹那、凄まじい閃光と爆発が巻き起こり、その衝撃は俺を吹き飛ばした後、周囲の大地を大きく抉り飛ばして野原に十メートルはあろうかという大きなクレーターを出現させた。
吹き飛ばされ地面にしたたかに打ち付けた体のあちこちが痛い、更に先程の爆発音で俺の耳はキーンという音以外何も聞こえない状態になっていた。
「いっつぅ、ちょっとは俺の事も考えて戦ってほしいんですけど!!」
そう愚痴をこぼしつつ、顔をあげた俺の前には砕けて塵となっていく数十本もの魔剣と籠手の部分が吹き飛んだ晴流弥の姿が映った
だが、籠手は瞬時に復元され、更なる一撃を叩き込む為に晴流弥は剣の柄を強く握りしめ、ゴッデス大蝦蟇斎さんも次弾となる魔剣を既に空中に作り出している、そして互いに良い笑顔だった。
その時、俺は死の視線を感じた、あ、これヤバい、二人とも次はもっと強い攻撃出す気だ、離れないと巻き込まれて死ぬ。
「マレッサ、パルカ!! ごめん、ちょっと助けて、ヤバイのが来るッ!!」
『あーもう、もう少し周囲への配慮をするもん、あほんだら共!! これを下水道でやってたら間違いなく竜の胎の二の舞だったもんよ!!』
『まぁ、さすが勇者って所ね。あ、人間にはもう回復魔法もかけてるからもう痛みはないでしょ、感謝なさい』
マレッサとパルカはそう言いながら、俺の回復を行いつつ空中に素早く避難させてくれた。
ありがとう、二人共、ホントにありがとう、まさか勇者同士の戦いの中で死の視線を感じる日が来るとは思わなかった……。
「はぁ、助かったよ。ありがとう二人共。しかし、凄いな。ゴッデス大蝦蟇斎さんが凄いのは竜の胎の一件で知ってたけど、晴流弥も負けてないな。十一指の末席ってのは伊達じゃないって事か」
眼下では爆発で巻き上がる砂煙の中、幾筋もの閃光が走り、激しい火花を散らしているのが見て取れた、時折、地響きと共に衝撃波がそれなりの高さに居る俺にまでやってきた。
これ本気になってないよな、二人共。
「なぁ、マレッサ。これってこの国の守護神から怒られない?」
『既に文句言われてるもん。どうにか止めたいもんけど、二人共聞く耳持ってないもん、念話に返信しようともしないとか、失礼もんねぇまったく』
『これじゃ、さすがにジャヌーラが可哀想ね。若い神だから、まだそこまで影響力強くないのよねあの子。人間が竜の方を重用してる事も要因ではあるんだけれど』
「どういう事だパルカ?」
『民草の信仰が竜に向いてるからジャヌーラは守護神としての力をあまり振るえないのよ。それにジャヌーラは戦闘系の神じゃないからね。魔王国と人間が戦争している現状でマレッサピエーが落ちれば次は我が身、だからこそ、より分かりやすい強い力を求めるのは自然でしょう?』
『その戦争を吹っ掛けてきてる国の守護神の言う事じゃあないもんけどね』
『うっさいわね』
なんだか複雑なんだなぁと思っていると、俺の足元に誰かがうずくまっている事に気付いた、誰だ?
『あら、ジャヌーラじゃない。良く分神体を地上に顕現出来たわね』
『あぁ、そうもんか。竜の胎が一時的に封鎖された事でドラコースパティムとの繋がりが遮断されて竜の影響が薄まったから来れたもんね。しかし、なんでまたこんな所に出てきたもん?』
どうやら、俺の足元にうずくまっているこの小学生くらいの子供はジャヌーラカベッサの守護神であるジャヌーラであるらしい。
なるほど、竜の胎での騒動の時全く出てこなかったのは竜の影響が強かったからかと、ジャヌーラに目を落とす。
雪の様に白くウェーブがかった長い髪にピンクの花の髪留め、半袖半ズボンのラフな恰好で少し寒そうだ、背格好は小学生くらいだろうか、幼いというのもあるが細いと言うかなんとも薄い体つきをしている。
そんな事を思っているとジャヌーラが顔をあげ、黄色と赤が混ざりあった瞳でキッと俺を睨みつけてきた。
『わちきは神なんだぞ、偉いんだぞ!! 崇めたてまちゅれ下等生物!!』




