208・穴の奥から来たモノはって話
下水道の奥へ進んでいると妙な穴を見つけた、それは人が一人通れるくらいには大きくかなり奥深くまで続いているようだった。
「ふむ、この穴、壁の壊れ方や土の乾き具合を見るに、つい最近、恐らく昨日今日くらい出来た物のようだな。この穴の先に何があるかは知らぬがかなりの距離を掘りぬいてきたようだな」
「晴流弥の呪符の火の粉が穴の前でパチンと一回散ったけど、そのまま穴の前を通過してるから問題ないんじゃないのか? 」
「ナイトクローとやらのねぐらに続いている可能性もあるかもしれんが、人の気配は感じないし、この穴を使用している形跡もない、結界や罠が仕掛けられている様子もない……。ただ、我の術に多少反応はしている事から、我の白虎と玄武を倒した存在はこの穴からこの下水道にやって来たのだろう」
「この穴からやってきたって、晴流弥の言う通りならこの穴はつい最近出来た物なんだろ? 白虎と玄武を倒した奴がこの穴を掘ったって言うのか?」
「可能性としてはあり得るが魔力の残滓は感じない、つまり魔法を使ってはいない。自分の肉体でこの穴を掘り抜いたと言う事になる。クフフ、なかなかの膂力のようだな、まぁ白虎と玄武を倒すような奴だ、そのくらいは出来て当然であろうがな」
どこか楽しそうな晴流弥、まだ見ぬ強敵に心が躍っているのだろうがその感覚はたぶん普通の生活をしたい奴の感覚じゃないと思うぞ?
とは言え、本当に晴流弥の言う通り白虎と玄武を倒した存在がこの穴を掘ったのだとしたら、とんでもない存在だと言うのは確かだろう、マレッサが軽く魔法で穴の先を見ていたが数百メートル以上は続いているとの事、一体この穴は何処に繋がっているのだろう。
「凡夫ヒイロ、気にしても仕方あるまい。今は捨て置け、先を急ぐぞ」
「あぁ、分かった。それでも一応塞ぐくらいはしておくか、万が一この穴の先が街中だったりしたら、下水道から魔物が地上に出て大変な事になるからな」
俺は魔法のスクロールを一枚破って、土の魔法を発動させ穴を塞いだ。
晴流弥がこの穴を使用した形跡がないと言っていたから、下水道に潜んでる野生の魔物がこの穴を通ってないとは思うが念には念を、だ。
「つくづくお人好しだな、長生きするタイプではないな」
「性分ってやつだよ、何もしなかったと後悔するよりはいいだろ」
晴流弥は俺の言葉の何処が面白かったのか、なるほどと言ってクフフ笑っていた。
何か変な事でも言ったか俺?
『後悔したくないからって無茶するのはやめてほしいものだけれどね、その悪癖治した方がいいわよ、なによりも自分の命を大事になさい人間』
『パルカの言う通りもん、今までも迂闊に色んな奴を助けようと無茶して死にかけてる事を忘れちゃあ駄目もんよヒイロ。馬鹿みたいに誰彼構わず助けるのはやめて、助ける相手はちゃんと選んだ方がいいもん』
「まぁ人間さんだしねー、どうしようもないとあちし思うなー」
いきなりマレッサ、パルカ、ナルカが俺に対してグチグチと言い始めた、なんだ悪癖とか馬鹿みたいとかどうしようもないって、俺が何かしたって言うのか??
「何故、俺がこんなに色々言われなければならないんだ……」
「それが分かっていないからであろうよ。短い付き合いだが、多少その人となりは掴めた、人の性根はそうそう変わらぬ、凡夫ヒイロに憑く者たちよ、諦めるがよいクフフ」
「なんなんだよ晴流弥まで……」
ちくしょう、なんだか居心地が妙に悪いぞこの野郎、等と思っていると真っ暗な下水道の奥の方がわずかに明るくなっているのに気付いた、下水道の出口か何かだろうか。
「あの明かりは外の明かりかな?」
「いや、そうではないな、微かにだが争う音が聞こえる。恐らくあそこがナイトクローのねぐらだろうな。そして、戦っている相手は我の白虎と玄武を倒した存在であろう、であるならば繰り広げられているのは一方的な殺戮か」
「ッ!? じゃあ早く助けないと!!」
「たわけ、今戦っているのは犯罪者と我の白虎と玄武を倒した未確認の存在だ、言うなればどちらも敵であるぞ。なにより状況も分からないのに突入する馬鹿が何処に――って、えぇいたわけがッ!!」
晴流弥が何やら怒っているような声が背後から聞こえたが今は無視した。
急げばまだ助けられる人がいるかもしれない、いくら犯罪者だからと言っても見殺しには出来ない。
『さっき言った事もう忘れたもんかねぇ……、まったく困ったものもん』
『人間がそういう人間だって事はよく分かってるけれど、少しは私様たちの言葉を胸に刻んでほしいのね』
「きひひ、やっぱり人間さんは人間さんだからねー」
マレッサたちの言う通り俺は俺だと言う事を再認識し苦笑いする。
明かりに近づくにつれて戦闘音が大きくなってきたのに気付く、かなり激しい戦闘が行われているようで爆発音や衝撃、複数の男の叫び声が聞こえる。
明かりは切り裂かれた鉄製の門から漏れていた物だったらしい、切られた跡がかなり滑らかで恐ろしい程に切れ味のいい刃物で切られた事が素人である俺でも理解出来た。
俺の防御力は守護のお守りやイマジナリーデイジー叔父さんのバリアが少し残っているくらい、この鉄の門すら切り裂く攻撃を防げるかは分からないが、死の視線は感じないからまだ大丈夫なはず。
俺は切り裂かれた鉄の門をくぐり、戦闘が行われているだろう場所へと急いだ、残る魔法のスクロールでどれだけ戦闘を止められるかは分からないがやれるだけやってみよう。