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207・普通の生活を望む理由って話

真っ暗な下水道の中をしばらく進むと少し開けた場所に出た、あちこちにある下水道が合流し大きな川の様になっている。

そのせいか、かなり臭く鼻が曲がりそうになる、どうにか気を紛らわせていないと臭いが気になってしょうがない。

俺はなんとなしに気になっていた事を晴流弥に聞く事にした。


「そう言えば、晴流弥は勇者として召喚された後、こっちで暮らす事に決めたってマレッサに聞いたんだけど、何か理由とかあるの?」


「ふむ、唐突だな凡夫ヒイロ。だが、別段隠し立てするような事柄でもなし、よかろう教えてやろう。まずは我がどのような世界に身を置いていたかを語ってやろう。我は元の世界では陰陽師として表沙汰に出来ない事件の解決や現実を蝕む悪鬼悪霊の類の調伏などを行ってきた」


俺の突然の問い掛けに晴流弥は振り返る事なく答えてくれた、どうやら元の世界でも陰陽師として活躍していたようだが、だとすると晴流弥は陰陽師の力の他に勇者特権を持っていると言う事なのだろうか。

それはそれで驚くべき事だが、もっと気になる事を言っていた。


「元の世界ってそんな妖怪だの悪霊だの普通にいたのか……ビックリだな」


「表沙汰になれば混乱は必須だからな、記憶の改竄に情報操作は当たり前の世界だ。そして、強大な力を持つ存在との戦いの中で命を落とす者も少なくはなかった。そんな日々が死ぬまで続くと思っていたある日、我の属していた陰陽師で構成された組織『超陰陽連』は千年来の怨敵であった『呪神』を滅ぼす事に成功した」


「俺が普通に暮らしてた裏でなんか壮大な戦いが繰り広げられてたんだな」


「この呪神との決戦ではかなりの衝撃が結界の外に漏れ出て自然災害と言う形で報道はされていた、台風や地震なんかの形でな。千年間、人間という存在を恨んでいた古代の禍津神の残滓であった呪神が滅んだ事で、ある程度世界は平和になった。そして呪神の討伐に命を賭けていた『超陰陽連』はその存在意義を失い、解散となった訳だ」


「まぁ、それはそれで良かったんじゃないか? 命がけの戦いが終わったって事だろ?」


目的を果たしての解散なら悪い事じゃあないはずだし、もう命がけで戦う必要もないのだ。

悪い事ではないはずだが、晴流弥は首を横に振った。


「特別に強力な存在であった呪神が滅んだ事で一種の空白地帯となった禁足地は外から入り込んだ無数の魑魅魍魎の坩堝と化して、まさに蟲毒の様相を呈しそれなりに後始末が大変だったがな。『超陰陽連』が解散していた事もあって対応がお粗末だったのも痛かったな。それが去年の事だ」


「去年ってホントについ最近じゃないか。はぁ、世界って広いと言うかなんと言うか、知らない事だらけだなぁ」


俺がそう言うと、晴流弥は立ち止まり俺の方を振り返った、その顔はどこか嬉しそうに見えた。


「そうだ、それだ凡夫ヒイロ。世界は広く、知らない事ばかりなのだ」


「どうしたいきなり」


「詰まる所、我は陰陽師としての生き方しか知らなかったのだ。ゆえに我は知りたくなったのだ普通の生活と言う物をな。ただ、元の世界ではどうにも顔が知られ過ぎていてな、中々に難しかったのだ普通の生活とやらを送るのがな」


「だからこっちに召喚されたのをきっかけに勇者ではなく普通の一般人として生活しようと思ったのか」


「その通りだ、まぁ色々とあって『十一指イレブン』の末席に座り、こうして犯罪組織を潰すような事になってはいるがな。仕方あるまいな、才ある者は普通の生活を簡単には送る事は出来ぬという事よ」


「うーん、そういうもんかなぁ……」


俺が晴流弥の言葉に首をかしげていると、晴流弥の顔色が急に真面目な物に変わった。


「さて、くだらぬお喋りはこの辺りでしまいだ。そろそろ、我の白虎と玄武が倒された場所だ、そこに残滓が残っていれば我の術で相手を追える。気を付けておけ凡夫ヒイロ、我の式を二体も倒した存在だ、並みの使い手ではないぞ。元の世界であってもそれが出来る者は稀有であった。とは言え、我が戦った『十一指』の末席に居た者は四聖獣どころか十二天将の一部とも互角に渡り合った怪物であったがな」


少し歩くと、何やら激しい戦闘の痕跡が残る場所に出た、どうやらここが白虎と玄武が何者かと戦った場所なのだろう、下水道の壁には幾筋もの線、これは恐らく刃物の切り傷だろうか、石の壁を容易く切り裂いている所を見るに相手はかなりの剣士なのだろう。

晴流弥は懐から呪符を取り出して何やらぶつぶつと呟き始めた、すると、呪符が突然燃えだして飛び散った火の粉が下水道の奥へと飛んでいった。


「どうやら、更に奥らしい。クフフフ、実に楽しみであるな」


「うーん、その性格じゃあ普通の生活送るのは難しんじゃあないかなか……」


つい口から出た言葉であったが晴流弥は気にした様子もなく、笑みを浮かべたまま下水道の奥に向かって更に進むのであった。

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