204・敵地襲撃って話
クライングオーガのねぐらがある酒場『鋼のドラゴン』の扉を吹き飛ばした晴流弥は破壊した入り口から堂々と中に入っていく、晴流弥に続いて中に入ると数人の男が倒れているのが見えた。
おそらくさっきの爆発の影響なのは間違いないのだが、そんな事は意に介さず晴流弥は倒れている男たちを無視してカウンターを飛び越えてその内側に入る。
見た所、倒れている男たちに大怪我をしている様子はない、少し心が痛むが今は放置する事にした。
「確か、この辺りのはず……。うむ、ここだな」
「そのお酒のボトルを置いてる棚の後ろか?」
「うむ、これが横にスライドする造りのようだ。その裏に地下に続く階段がある」
棚を思い切り押すと、棚がゆっくりとスライドし隠し扉が姿を現した。
晴流弥は躊躇なくその扉を開けて中へと足を運ぶ、その様子を見てもう少し警戒とかした方がいいんじゃないかなと思ったが、言った所で聞き入れてはくれないだろう。
気付くと酒場の外が少し騒がしくなってきている、ちらりと外を見るとどうにも柄の悪い男連中が集まってきているのがわかった、見つかっては大変だと俺は急いで晴流弥を追いかけて隠し扉の中に進む。
「外の騒ぎにはきゃつらも気づいていよう。なに、案ずるな凡夫ヒイロ、我とて待ち伏せや罠程度は想定済みである」
「そうだったのか、とりあえず力でゴリ押すって感じじゃないんだな。それなら良かった」
「ふむ、凡夫ヒイロよ、何事も力でゴリ押すのが最短最速であるのだぞ?」
「は?」
唐突にとんでもない事を言い放った晴流弥は何やら指を高速で動かした後、指を複雑に絡み合わせて、漫画やアニメの忍者がするような印を結んだ。
「来たれ我が下僕、十二天将が一つ太陰ッ!!」
晴流弥の声に呼応するように地面に光る五芒星が浮かび上がり、そこから岩の肌を持つ右半身だけの存在が姿を現した、肌が岩で出来てはいるがその体付きから女性である事がうかがえる。
「ふん、いまだ我を完全には認めぬか。致し方あるまい半身であるとは言え、十分であろう」
「晴流弥、この人……何て言えばいいんだ、この方は?」
「うむ、我が一族の悲願たる十二天将が一人、太陰である。とは言え、いまだ我を認めぬ頑固者よ、半身した我の呼びかけに応えなんだ。完全調伏などまだまだ先と言う事だ、嘆かわしい事だがな」
太陰か、プレッシャーと言うか圧が並みじゃあない、半身だけというのに竜と同じかそれ以上だ、全身が現れていたらどれほどの物だろうか、軽く身震いしてしまう。
「ふむ、太陰の力を感じる程度には鋭いか。太陰は、というか他の十二天将もそうだが、みな気位が高い、ぞんざいに扱えば相応の呪いが飛んでくると思うがよい。まぁ、我には効かぬがな!!」
ケラケラと笑う晴流弥だが太陰が微妙にイラついている様な気配を感じる、もしかして晴流弥って嫌われてたりしないかこれ?
『半身だけなのにこいつはとんでもないもんね、強い神性を感じるもんけど、わっち達とはちょっと違うもん。神を素体に作られた存在? 人造の神? どうにも人の手が加わった感じがするもん』
『厳重な防護結界を組み込んでるみたいね、奥まで見えないわ。ふぅん、千年以上は生きてるみたいね、魔力とは違うけど内包してる力はかなりの物ね。全身だったなら神に匹敵するかもしれないわ』
マレッサとパルカが興味深く太陰を見ている、言っている事はよく分からないが凄い存在だと言う事は分かった。
晴流弥は半身だけの太陰を先行させて待ち伏せや罠を強引にねじ伏せる、斧や剣、魔法を使う者も居たが太陰には大した脅威になり得ず、その圧だけでことごとくを制圧し沈黙させていった。
たぶん、殺そうと思えば紙を破るよりも簡単に出来るはずだ、太陰自体からは何故かヤル気を感じられないし、かなり手加減しているのが分かる。
「凄いな太陰さんって。ここまで強いのに力加減まで出来るなんて」
「当然だ、我が従える式神の中でも最上位の存在だからな。この我をして全力で戦っても完全勝利を収められぬ強者よ。いずれは十二天将全てを我が元に下らせてみせるなが」
そんなこんなでぞくぞくと現れる柄の悪い男たちを制圧しつつ、進んでいると妙にゴージャスな広間に辿り着いた。
広間の奥にあるいかにも高級そうなソファーに三人の女性を侍らせて座っている男が目に付いた。
その男はサングラスをかけており中々のガタイの良さだ、サングラスの男は口に咥えている葉巻をペッと床に吐き捨て、高級そうな革靴で踏み潰した。
「たくよぉ、シノギを邪魔されたって話をスーキンから聞いてたが、まさかその当人が用心棒つれて乗り込んでくるたぁな、うちも舐められたもんだ」
サングラスの男はゆっくりと立ち上がり、周りの女を下がらせた。
「オレ様が誰か位は知ってるよなぁ、ガキども」
「申し訳ないんですが存じません」
「知らぬわ、たわけが」
俺と晴流弥の言葉にサングラスの男は一瞬ポカンとしていたが、すぐに青筋を立てて怒り出した、怒りっぽい人だな。
「ガキどもがぁあああああ!! このオレ様を、クライングオーガのヘッドであるサングラー様を知らねぇだとッ!? 舐めてんじゃあねぇぞコラァアアアッ!!」
サングラーの怒声が広間に響く、こっちに来る前の俺ならビビり散らかしていただろうが、こっちに来てから色んな騒動に巻き込まれてきたせいか、この程度ではもう何も感じない。
「おら、お前ら、こいつらを可愛がってやれや!! 殺すんじゃあねぇぞ、じっくり拷問して殺してくれっていうまで遊ぶんだからなぁ!!」
サングラーの声を合図に広間に柄の悪い男たちがぞろぞろと入ってくる、まだこんなに居たのか。
広間に入ってくる男たちの中にあの時のスキンヘッドの男の姿もあった、かなりキレているようで俺を見ながら青筋を立てて笑っている、なんとも怖い顔である。
「ふん、有象無象如きが我の相手になるとでも? 三大組織だなんだと言うから相当な物だろうと思っていたのだが、期待外れもいい所であるな。彼我の力量すら測れぬとは、嘆かわしい」
周囲を見回した後、晴流弥は大きくため息をついて肩をすくめてみせた。
こいつ、人をイラつかせる天才なのでは?
「凡夫ヒイロ、自分の身くらい守れるであろうな?」
「俺は弱いけどマレッサ、パルカ、ナルカが居るから問題ない。気にせず暴れてくれ」
「ぬかしよる。なに、死にそうになったら助けを呼べ、片手間で援護くらいはしてやろう」
「それはどうも」
大勢に囲まれているはずの俺と晴流弥の態度が気に食わなかったのかサングラーは更に青筋を立てて、叫んだ。
「おめぇら、やっちまえ!! このガキどもに立場ってもんを教えてやれやぁアアアア!!」
その声と同時に周りの何十人もの男たちが一斉に俺たちに襲いかかってきた。




