201・縁を繋ぐって話
なんともテンション高いなこいつ、それが芦屋晴流弥と名乗った少年への第一印象だった。
『こいつ、勇者召喚された内の一人もん。こっちの世界で暮らす事を選んだから、わっちは離れてるもんけど。まさか末席とは言え十一指に数えられてるとは驚きもん』
勇者召喚された一人が最強と名高い十一人の魔法使いの一人に数えれていると言うのは凄い事だ、何か凄い勇者特権でも持っているのだろうか。
「『十一指』ってあの魔法ギルド最強の十一人の事だっけ。確かオラシオが第二席って聞いてるけど」
「十一指のメンバーを確認してあの者の名がある事には驚いたが、この我を含め五十人以上もの数を異世界より召喚するなどと言う離れ業を成し遂げたのだ、当然と言えば当然であろうよ」
言われてみればそうだ、異世界から俺たち五十五人を一気に召喚したのだ、並大抵の事ではない、そんな事を考えていると、まだちゃんと自己紹介してなかった事に気付いた。
「あぁ、そうだ。申し遅れました、俺は皆野緋色です、よろしく」
「うむ」
十一指の一人と言う事で驚いたが、もう一つ気になる事を晴流弥は言っていた。
嘘か本当か分からないが陰陽師がどうとか……。
「ちょっと気になったんだけど、陰陽師って言うのは?」
「なんだ、名前からして日本人であろうに陰陽師を知らんとは情けなし」
「いや、陰陽師って言葉自体は知ってるけど、職業として陰陽師をしてるって人はあまり聞いた事がなかったから気になって」
「ふむ、一般人であればそのような認識か。まぁ表向きは明治の天社神道廃止令によって陰陽寮は廃止の憂き目にあったのだから致し方なしか」
「表向き? それってどういう事?」
「表向きの仕事はほぼなくなったが、裏では日本各地に跋扈する悪霊、怨霊、妖怪の退治、調伏なんかの仕事は変わらず請け負っていたのだ。まぁ、時代が進むにつれ科学によって神秘はことごとく駆逐されていき、それらの存在はより深くより暗い場所に追いやられ、人的被害などほぼなくなっておったがな」
「はぁ、妖怪とかホントに居たんだ。びっくりだな。そっちのサンドラさんがマーチの友達の名代ってのは分かったけど、晴流弥は何なんだ? サンドラさんの言い方からして、晴流弥が旦那様って訳じゃあないみたいだけど」
「そうだな、我は侍女サンドラの護衛である。侍女サンドラの主人たっての申し出ゆえ、致し方なしと言った所だ。我をこのように扱うとは腹立たしくはあるがな」
晴流弥の言葉を聞き、頭を下げるサンドラ。
「私の非力ゆえ、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんアシヤ様」
「構わぬ、これもまた新参の役目であろう。急ぎ用を済まさねばな。あぁ、そう言えば凡夫ヒイロよ貴殿は何用で我らに声をかけた?」
凡夫呼ばわりか、まぁその通りではあるんだが中々失礼だな、それだけ自分の力に自信があると言う事だろうか。
「あぁ、そうだった。サンドラさんがマーチの友達の名代って言うなら、言わないといけない事があるんだ」
「はい、なんでございましょうか?」
「マーチから教えてもらったんだが、今夜は騒動が起きるから外には出るなって言われたらしんだ。それはつまり、サンドラさんたちが騒動を起こすって事でいいのか? 迷惑をかけた礼、とも言ってたらしいですけど」
その時、ほんの少しだが空気がピリ付いた気がした、サンドラさんはただのメイドと言う訳ではないようだ。
「マーチ様がさような事をおっしゃられたのですか……。もし、その通りだと申した場合、ヒイロ様はどのようになさるので?」
剣呑な雰囲気を漂わせ、サンドラさんが冷淡な声で俺に尋ねる。
「騒動を起こさないように頼むだけです。ジャヌーラトーロは地盤沈下からの復興がほぼ終わったとは言え、まだ不安に思ってる人もいますから。迷惑をかけたお礼と言うのが俺への物だったとして、それで騒動が起きるのは嫌なので」
「なるほど、仰る通りでございます。ではヒイロ様の御意向にそう形で事を成すのが望ましいかと。可能ですかアシヤ様」
「無論だ造作もない、我を誰だと思っている、芦屋晴流弥その人だぞ」
俺の意向にそう形って、結局騒動自体は起こすって事だろうか? 俺の意向はどうでもいい、騒動を起こしてほしくないだけなんだが。
「いや、待て。俺の意向にそうとかそう言う事じゃあなくてだな」
「凡夫ヒイロ、まさかとは思うが気づいていないのか? 呆れたな、よくもまぁ今まで生きてこれたものだ」
呆れ顔で晴流弥が俺の顔を見てそう言った、はて気付いていない? 何の事だ?
「我が眼には貴殿に絡む恨みの念を捉えている。少女マーチを助ける際に下手を打ったのであろう。禍根を残すとは愚策……いやその甘さゆえか」
マーチを助けた時に下手を打った、禍根を残す……、それはつまりマーチを助ける時に戦ったあのクライングオーガの奴らを殺さなかった事を言っているのだろうか、何故それを、いやマーチが伝えたのだろう、だが殺すだなんて……。
「その顔、我の言った事は理解したと見える。街の者に不安を感じさせたくないと言う貴殿の心根の優しさは理解した、少女マーチも貴殿が傷つく事は望む訳もなく。ならばよし、我に任せよ、万事うまく運んで見せようぞ」
「いや、晴流弥たちはマーチを迎えに来たんだろ? 晴流弥が俺の尻ぬぐいをする必要はないはずだ」
「真正のお人好しであるか。ならば、縁を繋ぐしかあるまい」
そう言って晴流弥は懐から一枚の紙切れを取り出した、縁を繋ぐと言ったが一体何をする気なのだろうか、ほんの少しだけ身構えてしまう。
「安心せよ凡夫ヒイロ、これは我ときゃつらとの縁を繋ぐ為の物ゆえ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、晴流弥は唐突に俺の後方に向かってその紙切れを投げた。