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20・なんだか厄介な事になりそうって話

ゴッデス大蝦蟇斎さんが人間をやめてるってどういう事だ?

さらっととんでもない事を言ったマレッサに驚きながら、どういう事か説明を求める。


「人間やめてるってどういう事だ?」


俺の言葉にマレッサが返事をする前にザハールさんが驚いた様な声をあげた。


「にいちゃん、なんでオレが人間をやめてるって知ってんだ? それを知ってるのはギルド内でも片手で数えられる程度なんだが」


「え? いや、あの、マレッサがそう言ってたもので」


俺の答えにザハールさんは目を丸くする。

俺、何か変な事言ったか?

こんな光る毛玉に人間の腕が生えた物体を連れてるだけでも十分に異様なのだ、その上それが喋ってるなんて言われれば、まぁ怪訝な顔にもなるだろう。


「マレッサ……。そうかにいちゃんはマレッサ神の加護をもってるんだな。リベルタ―にゃ守護神なんていねぇし、住民も求めてねぇから神の加護を持ってるやつなんざ滅多にいねぇ。しかもマレッサといやぁマレッサピエーの守護神だ。ホントにそいつがマレッサ神なのだとしたら、そいつぁとんでもない幸運だ。その縁、大事にしなよ」


「は、はぁ……」


マレッサの加護とやらを持っているとザハールさんに誤解されてしまった。

まさかとは思うがこの異様な毛玉の姿が見えていないのだろうか?


『普通、分神体とは言え神の姿を視認するなんて事はできないもん。こっち側から波長を合わせる事でヒイロ程度でもわっちを認識出来てるもん。今のヒイロの状況はかなり特殊、そしてデイジーはもっと特殊だと理解するもん』


そうだったのか……。

じゃあ、この光る毛玉に腕が生えたマレッサが見えてるのは俺とデイジー叔父さんくらいなのか。

てっきり他の人も見えてて、あえてスルーしてるのかと思ってた。

という事は、だ。

俺がマレッサに話しかけてる姿は他の人には空中に向かって盛大に独り言を言ってるように映っていたのでは?

俺ヤバい人じゃん……。

その事実に気づき、少しだけ頭痛がした。


「そうだな、にいちゃんたちになら別に隠す必要もないか。オレは人間じゃなくてヴァンピールと人の混血、ダンピールだ。半分人間のおかげで昼間でも多少熱い程度で活動できる。混血の存在ってだけで迫害の対象になる国もある。リベルタ―はそう言ったやつらの逃げ場所でもあるのさ。ここは誰も拒まない、誰でも受け入れる最高の掃き溜めなのさ」


ヴァンピール、確か吸血鬼の事だったか。

うーん、主観ではあるが漫画だの小説だのでは混血のキャラって結構悲惨な過去がある事が多いよな。

ザハールさんにとってもあまり思い出したくない過去とかあるかもしれない。

余り触れない方がいいだろう。


「昔、オレの事を混ざり者って言ったやつがいてな。腹が立ったんでボッコボコにした上で真っ裸にして町の教会の屋根からぶら下げてやったんだ、あれは痛快だったな、がっはっはっはッ!! まぁそのせいで町を追われ事になったんだが、腹いせに町の貯蔵魔力石を全部かっぱらって売り払ったんだ、ありゃあいい金になったぜ、がっはっはっはっ!!」


あ、この人暗めの過去とかあまり気にしてない人だ、っていうか全力でやり返してる。

ザハールさんは町を出た後も盗賊やら泥棒で生計をたて、魔王国内で悪名を轟かせるようになった頃、ヴァンパイアハンター的な凄腕の追手から逃げている途中でオークカイザーさんに助けてもらって、命からがらリベルタ―にやってきたそうだ。


「かなり凄い人生ですね……」


「がっはっはっはっ、ここにいる奴らはだいたいこんなもんさ。各国でつまはじきにされた奴らが寄り集まって酒飲んで騒いでるうちにこんな規模になっちまっただけ、悪ガキどもの集まりなのさ」


そんな話をしている間に商隊がキャンプをしている場所に到着した。

商隊のまとめ役の人に話を付けてくると言ってザハールさんは商人らしき人たちが集まっているテントの中に入っていった。

のんびり待っていると誰かが俺たちに近づいてきた。


「おいおい、こんなガキがなんでこの商隊の近くをうろついてんだ? 物乞いか? てめぇらに恵むもんなんかねぇんだよ、失せろガ――」


禿げ頭のいかつい人が俺の胸倉を掴もうとした瞬間、地面に頭から埋まっていた。

デイジー叔父さんだろう。

唐突に地面に埋まったハゲを見て、その仲間っぽい人たちが騒ぎだした。


「ハーゲンが、最近口臭が気になってるハーゲンがいきなり地面にー!?」


「ぬわー大丈夫かハーゲン!! 我らB級冒険者チーム『カマッセ・パピー』のリーダーである借金持ちのハーゲン!!」


「いやーん、いかつい見た目なのに料理が得意なハーゲンさんが!! 最近B級に格上げされたからって調子に乗って魔王討伐だー! とか息巻いてたら魔王国の最初の町であるこのリベルタ―のチンピラにフルボッコにされて自信をバッキバキにへし折られたハーゲンさんが!!」


なんともハーゲンという人のプライバシーな情報を暴露しまくってる仲間っぽい人たち。

この人らホントに仲間なのだろうか?

弓矢とか持ってる耳の長い中性的な顔立ちの男性と魔法使いっぽいローブを着た男性、そしてなぜかバニースーツを着ている女性の三人が頭から埋まっているハーゲンを引っ張っている。

どうしよう、手伝った方がいいのだろうか。

でも、この人がいきなり俺の胸倉を掴もうとしてきたのが原因ではあるのだし、どうしたものか。

数分後、なんとか引き抜かれたハーゲンは上半身の土埃を払い、キリっと決め顔した。


「ちょっとこけた勢いが凄すぎて埋まってしまった訳だが」


「何言ってんだこの人、無理があり過ぎるだろ。子供でも騙されんぞ」


「―――ッ」


あ、なんかちょっと涙目になってる。

言い過ぎたか。


「なんかごめん」


「ベ、別に泣いてなんかいないんだからねっ! ちょっと目に石が入っただけなんだからね!」


「あー、そういう事でいいですから、えっとハーゲンさん? でいいんですかね。何か俺に用ですか?」


ゴシゴシと手で目元をぬぐって、ハーゲンはゴホンと咳払いをして俺を見て、俺の背後に立っているデイジー叔父さんを見た。

ハーゲンも大柄ではあるがデイジー叔父さんよりも一回り小さいくらいだ。

見下ろすデイジー叔父さんがニコリと笑顔を浮かべる。


「……あー、君君、この方は?」


「叔父です」


「んーそっかそっか、叔父さんかぁ。なるほどー、いやぁ、利発そうな甥っ子さんで」


デイジー叔父さんに対し、急にゴマすりを始めるハーゲン。

なんだこの愉快な人は。


「でた、ハーゲンの十八番、高速揉み手!! 強そうな人にへりくだる速度だけならA級並みだと称えられてるハーゲンの高速揉み手は秒間二十往復という凄まじい速度だ! 揉み手のし過ぎて手はしわ一つなくつるっつるっだぜ! ちなみに私はエルフのパンプルムッスだ、よろしくボーイ」


急に中性的な顔立ちの男性、パンプルムッスがハーゲンの揉み手の説明をした後、俺に手を差し出してきた。


「あ、どうも緋色です」


断る理由も特にないので俺は普通にその手を取って握手をした。


「こっちはマリユス。こっちがバニニだ」


「よろしく、魔法使いをしているマリユスだ。中位の四等級魔法使いだから、攻撃、防御、サポートと大抵の魔法はそつなく扱える」


「うちは格闘家のバニニ。見ての通り異世界の幻獣『ウサギ』の姿と動きを取り入れた獣拳を使うわよ」


パンプルムッスが魔法使いのマリユスと格闘家のバニニの紹介をしたので、俺も改めて自己紹介をする事にした。


「えっと、俺は緋色。こっちがデイジー叔父さんです」


「はぁ~い、デイジーちゃんよぉん。よろしくねぇん」


ハーゲンはデイジー叔父さんにペコペコ頭を下げながら、まだ揉み手をしている。

心なしか手から煙が出ている気がする。

パンプルムッスに肘でツンツンとされてハット我に返ったハーゲンは揉み手のし過ぎで真っ赤になっている手に何か液体をかけた。

すると真っ赤だった手がみるみると普通に戻っていく。

回復薬か何かだろうか。

そして、ゴホンと咳払いをしてハーゲンは決め顔になった。


「おれ様こそ、冒険者ギルド『プルミエエペ』所属のB級冒険者チーム『カマッセ・パピー』のリーダーにして料理番にして最強の戦士!! ハーゲン・ギェルマン様だ!!」


なんだか変なのに絡まれたな、俺はそう思った。

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