198・窮地からの脱出って話
「小賢しい魔法なんざ使いやがってクソがッ!! ぜってぇぶっ殺すッ!!」
スキンヘッドの男が石の壁を破壊したのを見て俺は二枚のスクロールを破り、水と雷の魔法を同時に発動させ、水に濡れる事で電によるダメージを上げ行動不能を狙う。
あの男は他の柄の悪い男と違ってちょっと強そうだから、このくらいしないとたぶん足止めは難しいと思っての判断だったが、魔法発動までのタイムラグの間にスキンヘッドの男は近くに居た仲間の頭を鷲掴みにしていた。
「そんなとれぇ魔法が当たるかよ、クソがッ!!」
「ひ、なにを――ぎゃあああああッ!?」
スキンヘッドの男は掴んだ仲間の一人を自分に向かってくる水と雷の魔法に投げつけて俺の攻撃を防いでしまった、水と雷の魔法を防ぐために使われた男は水に濡れた所に雷の魔法が直撃し、激しく火花を散らして数メートル程吹き飛んで壁に激突した、危なそうな痙攣をしてたので念の為、回復魔法エリアヒールの込められたスクロールを破っておく。
しかし、仲間を使って俺の攻撃を防ぐなんてなんともゲスいやり方だ、こいつ仲間を仲間と思っていないようだ。
「何考えてんだお前、なんでおれたちにヒールなんか使った? 攻撃してくるんならよぉ、殺すつもり、殺されるつもりでやるのが普通だろうがよぉ、舐めてんのかクソがッ!!」
俺がエリアヒールを使ったのが何故か気に食わないようでスキンヘッドの男は急に逆上して、俺に突っ込んできた。
ビルドアップの魔法の効果はまだ継続しているが足の速さはたぶん相手の方が上だ、残っている魔法のスクロールでなんとかしのがなければ。
バチャバチャと足元に広がる水を気にせず走ってくるスキンヘッドの男、どうやら雷の魔法の電気はすでに地面に逃げて帯電はしていないようだ、ならばと俺は更にスクロールを少し時間をずらして続けて破っていく、束縛、浮遊、そして凍結の魔法。
俺は地面に何も落ちていない場所に少女を放り投げ、スキンヘッドの男に向かって走り出す。
「キャ!? ちょっと、レディをぞんざいに扱うなんてさいてーです!!」
「文句は後で聞くよ!!」
「てめぇらに後なんかある訳ねぇだろクソがッ!! エンチャント・ハイブーストッ!!」
突如、スキンヘッドの男の両腕が赤黒い光を纏って、凄まじい速さで俺に襲いかかった。
顔面、腹、側頭部、胸、両腕でガード姿勢はとっていたが戦闘技術は相手の方がはるかに上のようで、ガードの隙間から的確に俺を攻撃してくる。
だが、イマジナリーデイジー叔父さんと守護のお守りのおかげでダメージはほとんどない、たぶんこれが無かったら最初の一撃で顔面が潰れていたかもしれない、僅か数秒の間に十数発も殴りつけてきたスキンヘッドの男の動きが急に鈍り、止まる。
「ぐぅ、な、これはバインドか!? だが、こんなもんすぐに解いてやる!!」
「それで十分」
俺はすぐにスキンヘッドの男から離れて次の魔法、浮遊が発動するまでの間に少女を再び抱え上げた、抱え上げたとほぼ同時に浮遊が発動し俺の体が宙に浮いていく。
そして、最後の凍結の魔法が発動する。
冷気が一瞬で地面を広がり水分を凍らせていく、水の残る場所で派手に動いていたスキンヘッドの男の下半身が凍り付き、身動きが出来ない状態に。
「ク、クソ……こんな甘ちゃんに、このおれがぁあ……」
余りの寒さに歯をガチガチと鳴らすスキンヘッドの男、少しすれば魔法の効果が薄まって自由になれるだろう。
「死ぬ事はないだろうから、大丈夫だと思う。じゃ」
「クソがぁアアアア!! クライングオーガのおれに舐めた事しやがって、絶対に後悔させてやるからなぁああああああ!!」
風の魔法が込められたスクロールを破り、その勢いで空中を一気に移動する。
十数秒ほど空中を移動して表通りの上空に出る事が出来た、既に日は落ちて辺りは真っ暗だった恐らく地盤沈下の影響もあるのだろう、その周辺だけが妙に暗い。
浮遊の魔法の効果が無くなりだんだん降下していく、地面に降りて俺はその足で警備兵の詰め所に向かった。
さすがにアイツらから距離を取ったとは言え、少女を一人置いていくのはさすがに気が引ける。
「抱えたままで悪いけど、このまま警備兵の詰め所まで行くよ。知り合いもいるし、君を保護してくれるはずだ。家に連れていくにしても一人で帰すのはアレだし、見ず知らずの俺に家を知られるのは嫌でしょ? 警備兵と一緒の方が安心して帰れると思うし」
「ふぅん、そう配慮は出来るですか。まぁぎりぎり及第点の王子様って所です。あぁ、ありがとうございますです、マーチはちゃんとお礼の出来る子なのです。雑な抱え方をされて腹立たしくはあるですが、まぁマーチは大人のレディなので許すです、感謝するです」
「はいはい、ありがとうマーチ、俺はヒイロだ」
このマーチという子は声の感じから幼い印象を受ける、小学校の高学年辺りだろうか。
あれ、今の俺の状態って小学生を肩に担いで走る人攫いその物なのでは? 訴えられたら百負ける奴だこれ。
「マーチは友達に会いにここに来たのです。でも友達はもうどこかに行ってしまってたです、せっかく遠くからやって来たのに実に無駄足です」
現状にビクビクとしている俺の事などお構い無しにマーチは自分の事を喋り出した。
遠くから友達に会いに来たと言う事はこの辺の子ではないのか、しかし一人でここまで来たというのなら実に不用心だ。
マーチは高そうなフリフリのドレスなんかを着ており身なりはいい、それなりのお金持ちの子供だろう、そんな子が護衛も付けずにこんな時間うろついてるなんて不思議な話しではある。
「マーチは一人でここまで来たのか? 誰かと一緒じゃあないのか? 護衛とか」
「あぁ、マーチは他の姉弟と天使様の七人で来たです」
そう言ってマーチは手に持つぬいぐるみを見せてくれた、それは六枚の羽が生えた女性を象っていた、なかなか出来のいいぬいぐるみだ。
このぬいぐるみを人数に入れている辺り、マーチは思ったより年齢は下かもしれない、それはつまり俺の不審者度が更に増した事を意味するのだが。
「さっきは他の姉弟と代わる所だったです、ヒイロさんが邪魔……失礼、助けてくれたのでその必要はなくなったです」
「それは申し訳ない、他の姉弟や天使様に謝っておいてくれ」
適当に話しを合わせたが代わる所だった? どういう意味だ?
そんなやりとりをしている間に警備兵の詰め所が見えた、どうしよう不審者に見えないかな俺、そんなどうでもいい心配をしつつ俺は詰め所に居た警備兵にマーチを保護してもらった。
その詰め所にロミュオの部下も数人居たので怪しまれずに済んだのは実に運が良かったと俺は人通りの多い道を通って拠点に帰ったのだった。




