195・なにやってんだあの人って話
マレッサはゴッデス大蝦蟇斎さんが牢屋にぶち込まれているとさらっと言ってのけた。
確かに俺が目覚めてから全く姿を見ないと思ってはいたのだが、まさか牢屋にぶち込まれていようとは思いもしなかった。
あの人、自分を魔剣に作り替えて戦闘力が桁違いに跳ね上がった影響か、その場のノリで行動してる気がするんだよな、今回もノリで何かとんでもない事をやらかしたのだろうか……。
「マレッサ、なんでゴッデス大蝦蟇斎さん牢屋にぶち込まれてるの?」
『その前にアイツのやらかしを伝達しておくもん。アイツ、どうにも別の国で最高難易度の国営ダンジョンをぶっ潰したみたいもん。それがガッツリばれて、オラシオにうやむやにしてもらうつもりだったらしいもん」
「なにやってんだあの人」
最高難易度のダンジョンをぶっ潰した? 何がどうなればそんな事になるのだろうか、驚愕する俺にマレッサは更に続けた。
『マレッサピエーに行く途中で、たまたまジャヌーラカベッサの上空を通りかかった時に竜の胎がドラゴンの出るダンジョンだとくっついてるわっちに聞いたみたいもんね。それでなんかロリ? とかショタ? とかがどうのこうの言い出してダンジョンに向かって突っ込んっだって聞いてるもん」
「なにやってんだあの人……」
そう言えば、名も無きダンジョンで出会った時にロリとかショタがマストとか訳の分からない事言っていたっけ、あれ本気だったんだ……。
『それでアイツ、ドラコースパティウムからこっちに派遣されてるドラゴンの中で人化の魔法が使える幼竜、成竜、老竜たちに片っ端から声かけまくって、なんか変にムカつく貴族に上から目線で注意されたからムカついてケツに魔剣ぶっ刺してとっ捕まったらしいもん』
「なにやってんだあの人ッッ!?」
魔剣をケツにぶっ刺すとかギャグでもやっちゃあ駄目だろ、ホントなにやってんだあの人、ただマレッサの言い方からすると人死には出てないらしいので一線はまだ越えていないはず。
しかし、貴族のケツを魔剣で刺すとか、下手すれば処刑されてもおかしくないのでは? 助けに行くべきだろうか……。
『まぁ、その貴族も色々問題あった奴らしいもん、それに竜の胎の一件でアイツも結構頑張ってたもんから、恩赦くらい出るだろうからそこまで気にしなくていいもん。脱獄とかバカな真似をしなきゃあと二、三日もすれば釈放されるはずもん』
確かにゴッデス大蝦蟇斎さんがあのトウテツを抑えていたからこそ、邪魔されずに俺はロミュオとお姫様を説得……、まぁ説得だよな、うん、説得をしていい具合に事が運んだのは事実だ。
結果としてドラコースパティウムのお姫様を助けたと言っても過言ではないのだから、恩赦が貰えてもおかしくはない……のか?
でも、獄中じゃそんな事分からないだろうし、ゴッデス大蝦蟇斎さんその場のノリで行動しそうだな。
「あの人、二、三日も牢屋の中で大人しく過ごせるかな……ノリで脱獄しそう」
『うーん、アイツにもわっちが付いてるもんから、そこまで暴走はしないはずもん、たぶん、恐らく、きっと、もん』
マレッサも腕を組んで軽く唸っている、内心ちょっと複雑そうだ。
「まぁ、そこは信じるしかないか……。でも、ゴッデス大蝦蟇斎さんもマレッサピエーを目指してたなら、一緒に行ってもいいんじゃないかな。俺たちもマレッサピエーを目指してるんだし」
『そうもんね、オラシオに緋色たちが元の世界に帰る方法を聞く必要があるもん。とは言え、すぐに元の世界に帰れる保証はないって事は先に言っておくもん』
「あぁ、分かった。そもそも夢の中でアロガンシアが大罪神の姉妹たちを全員起こす事が元の世界に帰る事に繋がるって言ってたし、すぐに帰れるとは思ってないよ」
『アロガンシア様がそう仰ったなら、信じる他ないもん。苛烈ではあるもんけど、くだらない嘘なんか付くお方ではないもんからね』
マレッサと話をしながら歩いていると、復興作業の現場に到着した。
俺の肩に留まっていたパルカはゴッデス大蝦蟇斎さんの話は興味がなかったのかうつらうつらとして眠そうな様子だった。
マレッサが教えてくれたがパルカは俺が意識を失っている間、ずっと寝ずに様子を見てくれていたらしい、無理しなくても良かったのにと思ったがパルカはそうしたかったのだろう、後で礼を言わないとな。
とりあえず、午後の作業が終わったらゴッデス大蝦蟇斎さんに何か差し入れでも持っていくついでに恩赦があるかもしれない事を教えに行こう、変にノリで行動されても困るし。
「さて、午後からの復興作業も頑張るか」
瓦礫の撤去自体は大まかにデイジー叔父さんが終わらせているので、午後からはデイジー叔父さんが作ったコンテナハウスへの物資の搬入が主な作業だ。
『わっちは今後の事でパルカと一緒にジャヌーラと話しをしてくるもん。ちゃんと守護のお守りは持っておくもん。だいぶん復興してきているとは言え、こういう時は一時的に治安が悪くなるものもん。ただでさえヒイロは狩られる側の顔してるもんから』
『確かにそうね。人間、いいこと、変な奴について行ったらダメよ。それと変な事に関わっちゃダメよ。アンタは後先考えずにすぐ変な事に首を突っ込むんだから』
「なんだよ狩られる側の顔って、まぁ気を付けておくよ」
マレッサとパルカは俺を小学生か何かと思っているんじゃないだろうか、そんな疑念を抱きながら飛んでいく二人の背中を見送る。
そして、午後の作業が終わり、拠点に帰る途中で俺は男たちに腕を引っ張られ路地裏に引きずり込まれていく少女の姿を目にした。
「マレッサやパルカにああ言われたけど、無視する訳にはいかないよなぁ」
俺は少女が引きずり込まれた路地裏に急いだ。




