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191・世界の修正って話

「みんなは先に地上に行っててねぇん。世界の修正が始まる中心点はこの部屋、『嫉妬』の権能が取り出された場所だからかしらねぇん、なんにせよあたくしが世界の修正をちょっと遅らせるわぁん。ダンジョンの法則改変への耐性を付けた後でよかったわぁん、初見だったらちょっと危なかったかもしれなかったわねぇん」


突然、デイジー叔父さんが世界の修正を遅らせると言い出した。

何を無茶苦茶な事を言っているんだ、世界の修正なんて訳の分からない事が起きるっていうのに。

既にダンジョンの崩落は始まっている、このままじゃ数分も持たないだろう。


「そんな、デイジー叔父さん何を言ってるのッ!? 世界の修正を遅らせるなんてそんな事……あ、出来そう。――いやいやいや、普通無理だから、デイジー叔父さんならいけるかもとかちょっと思っちゃったけど、普通無理だから!! 一緒に逃げようよデイジー叔父さん!!」


俺の言葉を聞いて、デイジー叔父さんは困った様な顔で笑った。


「んもう、仕方ないわねぇん。緋色ちゃんがそこまで言うなら、一緒に逃げましょ、急がないと間に合わなくなっちゃうわぁん」


デイジー叔父さんが無茶して怪我なんかしたら嫌だ、ただの俺のワガママでしかないがデイジー叔父さんに万が一の事が起きたら、たぶん俺は普通じゃいられなくなる、そんな気がした。


「ワガママ言ってごめんねデイジー叔父さん、さ、早く逃げよう!!」


「えぇ、緋色ちゃんをお願いねマレッサちゃん、パルカちゃん、フィーニスちゃん」


「デイジー叔父さ――?」


トンッと首筋に軽い衝撃が走った瞬間、俺の意識は途絶えた。

次に気付いた時、視界には青い空が広がっていた。


「こ、ここは……?」


『おお、ヒイロ!! 目が覚めたもんか!? 安心するもん、ここはもうダンジョンの外もんから。今はジャヌーラに頼んで、もろもろの後始末を竜騎士団にしてもらってる所もん』


『人間、目が覚めたようで何よりだわ。また意識がはっきりしてないようだから、まだ寝てていいわよ。私様が周囲の警戒しててあげるから、遠慮なく寝てなさい。もっとゆっくり寝顔みたいし』


「欲望駄々洩れなんですけど、この死の神の分神体。さすがのフィーニスちゃんもドン引き」


俺はどうやらベッドに寝かされていたようだが周囲を見てみるに街中、屋外だ。

マレッサやパルカはいつも通りの姿形だがフィーニスは姿こそ同じだが何故か縮んでいる、二十センチくらいだろうか。

理由はあるのだろうが、寝起きのせいかまだ頭がくらくらしていて考えがまとまらない。

確か、崩落するダンジョンから逃げようとして、それで……。

俺はある事を思い出し、ベッドに横になったまま周囲の様子を見た。


「……マレッサ、デイジー叔父さんは?」


俺の問い掛けにマレッサは少し悩んでから答えてくれた。


『デイジーはお前を気絶させた後、一人ダンジョンの中に残ったもん。世界の修復を抑えておかないとあの竜の胎の中から誰も逃げ切れないからって……』


『世界の修復なんていう現象、神々でも手に負えないわ。原初の呪いや世界規模での元素の乱れなんて目じゃないくらい。デイジーちゃんじゃなきゃあんなの抑えるなんて不可能だったわ』


「さすがのフィーニスちゃんも余波を防ぐだけでこの有様だし。精霊王のジジイたちのバフが無かったら、被害はもっと大きかったんじゃない? お礼は体が回復した後でいいわよ」


『フィーニス、お前の力添えには感謝してるもんけど、もう少し言い方というか時と場合を考えるもんよ』


マレッサたちの話しを聞きながら、俺は気絶する寸前の事を思い出した、そうだあの時俺はデイジー叔父さんに逃げようって提案したんだ、世界の修正を遅らせる事は無理だなんて言って。

デイジー叔父さんはきっと命がけで俺たちを守ろうとしていたはずだ、俺はその想いを踏みにじってしまった。

自己嫌悪で潰れそうになる、デイジー叔父さんがここに居ないって事はそう言う事なのだろう、この時点でデイジー叔父さんの心配よりも自己嫌悪に走ってしまった自分が恥ずかしくてしかたがない。


「デイジー叔父さん……。あの時俺が逃げようなんて言って無駄時間を使ってしまったから……ちくしょうッ!! 俺が臆病風に吹かれて、デイジー叔父さんを信じられなかったからッ!! 俺はなんて馬鹿なんだ!! あの時もっとデイジー叔父さんを信じていたら、ほんの数秒の時間でもデイジー叔父さんは準備に時間を使えたはずなのにッ!!」


『ヒイロ、気にし過ぎもんよ、ほんの数秒で出来る準備なんてたかが知れてるもん』


「でも、デイジー叔父さんならその数秒で、きっと世界の修正への対策が出来たはずなんだ、ダンジョンの法則改変への耐性を足掛かりに世界に干渉する事だって出来たかもしれないのに、俺はそんな貴重な数秒を無駄に……」


俺はベッドに横になったまま、涙をぼろぼろとこぼす事しか出来なかった、マレッサたちは何も言わずただ側にいてくれた。

自分の愚かさと無力さに打ちのめされていた俺の顔に突然、影が落ちる。

誰かが俺のベッドの所に来たらしいが、逆行でその顔はよく見えない、というかポロポロと食べかすらしき肉片が落ちてくる、ちょっと勘弁してほしい。


「なんじゃなんじゃ辛気臭いのぉ、何をぐちぐち言うとるんじゃ。そんなに喋れる元気が有るなら崩落した都市区画の復興の手伝いでもしてきたらどうじゃ? 幼い坊ですら何もしないのは嫌だと、炊き出しの手伝いをしとるというのに、まったく最近の若者はだらしないのぉ」


『はぁ!? 人間はちょっと疲れてんのよ!! わざわざいちゃもん付けに来たの!?』


「事実を言ったまでじゃ、死者はおらんと聞いておるが怪我人はおるんじゃ、人手はいくらあっても足りぬと言うのに、いくら何でも過保護が過ぎるぞ死の神」


俺の頭の上で骨付き肉をモグモグと食い散らかしながら話しかけてきたのは、かなり大柄な女性だった。

しわがれた声と妙に尊大な態度の女性は怒っているパルカを軽くあしらいながら、更に俺の頭の上で酒瓶をあおってグビグビと飲み始めたので、こぼされてはたまらないと俺は慌てて起き上がった。


「な、なんなんですか、貴女は!? いきなり横になってる人の頭の上で飲み食いし始めて、行儀が悪いですよッ!!」


『ヒイロ、そこは正直どうでもいいもんよ。こいつはダンジョンの中で会ってるもん。今は何かと面倒なんで人の姿になってもらってるもん』


「ダンジョンの中で? 人の姿って事はお姫様……じゃあないよな、そんな声じゃなかったし。なら後からやってきたあの金色の?」


一気に酒をあおり、プハーと酒臭い息を吐いた大柄の女性、かなりの筋肉質で腹筋がバッキバキに割れ、切れ長で青い爬虫類の様な目、目の下には金の鱗が数枚、透き通るような長く美しい金髪、スタイルもよく見た目は美人ではあるが、どうにも下品な恰好をしている。

適当に布を胸と股の所に巻き付けているだけでほぼ裸だ、なんとも目のやり場に困ってしまう。


「一応の礼儀として挨拶くらいはしておく、海竜帝レヴィアタンが一子、光の竜ルクレールじゃ。あぁ、別に小僧は名乗らんでもよいぞ、覚える気もないからの。じゃ、妾は古い馴染みとの野暮用があるゆえ、席を外す。二、三日もすれば戻るでの、その間、坊の面倒を頼むぞ毛玉。貴様の守護する国が呼んだ勇者の一人なのじゃからな、世話くらい当然じゃ」


そう言ってルクレールは酒瓶をそこらへんに放り投げて、どこかに行ってしまった。

少しの間、呆けていたがルクレールが言った崩落した都市区画の事が気になった、喋れる元気があるなら復興の手伝いでも、そう言ったルクレールの言葉に発奮した訳でもないが、今は何もせずにいるより、体を動かしていた方が気がまぎれるだろう。


「怪我をしてる訳じゃあないんだ、ちょっと復興の手伝いに行ってくるよ。ジッとしてるよりその方がずっといいから」


『ダンジョンの崩落から数時間は経っているとは言え、ヒイロは昨日からずっとダンジョンの攻略をしてたと聞いたもん、あの金ぴかトカゲの言う事なんか気にせずに休んでていいもんよ?』


「いや、かなり休めたから大丈夫。それに、何かしてないと嫌な事ばかり考えちゃうから」


そう言って俺はベッドから降りて、近くに居た救護員の人に何か手伝える事は無いか尋ねた。

どうやら瓦礫の撤去や巻き込まれた人の救出なんかはとある人物が一人でほとんどやってのけてしまった後らしく、今は簡易的なテントの設営を行っているそうだ。

そんなすごい人が居るのだなと俺は感心しつつ、テントの設営を手伝う為、その場に向かう事にした。


「デェエエイジィイイイイイイ量産型豆腐建築・乱舞ッ!!」


そこには眼にも止まらぬ早業で巨木と大岩を奇麗な木材と石材に加工し、それらを用いて次々とコンテナハウスを量産しているデイジー叔父さんの姿があった、加工道具は無論デイジー叔父さん自らの手足である事は言うまでもない、いや、そこはどうでもいい。


「生きとるやんけッ!! 嬉しいけども、生きとるやんけッッ!!」


その光景を見て、俺は自分でも驚く程の大声でツッコミを入れるのだった。

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