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19・知ってる人がどうなったかって気になるよねって話

「何ですか? オークの秘宝は絶対に譲りませんよ」


「ボリバルブディ、この言葉に聞き覚えはあるか?」


「オークカイザーさんの名前です。もういいですか、それでは」


入口に向かって速足で向かう俺の前に回り込み、顔に大きな傷のある男が頭を下げた。


「すまん、にいちゃん。てっきりそっちのデイジーって奴の力で無理矢理奪ったもんだとばかり。セヴェリーノをあしらうくらいだ、Sランクの魔物であるオークカイザーの旦那相手でも無茶したんだと勘違いしちまった。そんな奴にオークカイザーの旦那が本名を明かす訳がねぇ、本当に済まなかった」


そう言って、改めて頭を下げる姿を見て俺は混乱してしまった。

どういう状況なんだこれ?


「あらあらぁん、なんだか妙に熱視線をあたくしに注いでると思ったら、オークカイザーちゃんから太陽の涙石を無理矢理奪ったと勘違いしてたのねぇん。貴方はオークカイザーちゃんのなんなのかしらぁん? 説明してもらえると助かるのだけれど」


いつの間にか顔に大きな傷のある男の真後ろに立っていたデイジー叔父さん。

一瞬で背後をとられた事に驚いたのか、少しビクリと肩を震わせたあと顔に大きな傷のある男はデイジー叔父さんに向き直った。


「ッ!? あ、あぁもちろんだ。オレはザハール・ファジェーエフ。この盗賊ギルド『エルドラド』のギルドマスターだ。ここじゃあなんだ、奥に部屋を用意してある、付いてきてくれ」


顔に大きな傷のある男、ザハールさんはそう言って奥の方へと歩いて行く。

うーん、罠ではないと思うけど、なんか怪しい……まぁ最悪の場合デイジー叔父さんが何とかしてくれるだろう。

デイジー叔父さんに頼ってばかりで悪いけれども。


『まぁ、嘘はついてないと思うもん。あと、アイツ人間じゃないもんよ』


「どういう事だ? 人間じゃないって……?」


マレッサの言葉にハテナマークを浮かべつつ、俺たちはザハールさんの後に続いた。


「「「先ほどはマジで、すんませんっしたッッ!!」」」


奥の部屋に入った途端、先程入口付近で絡んできた人たちが床に頭をこすりつけて土下座をしてきた。

いや、何? いきなり何? 

急に土下座されてもなんか困る。


「いや、あの頭を上げて下さい。訳の分からない謝罪ほど困るものはないんで……」


「オレもこいつらもオークカイザーの旦那には返し切れねぇ恩がある。言い訳にしかならねぇがオークカイザーの旦那の森で大爆発があったって話が入ってたもんで、みんな気が立ってたんだ。そこに太陽の涙石を持つあんたらが現れた。しかもとんでもない実力を持ってるもんだから、てっきりあんたらがオークカイザーの旦那を太陽の涙石目当てに襲ったと勘違いしちまった。改めて謝罪する、本当に済まなかった」


「「「すんませんっしたッッ!!」」」


ザハールさんたちが改めて俺たちに頭を下げる。

なるほど、疑われる要素が重なってしまった結果があの態度だったのか。

恩人から奪った物で商売をしてる、そう思ってたのならそりゃああんな態度にもなる。

しかし、よく襲われなかったな俺。

デイジー叔父さんがいたからだろうか。


「理由は分かりました。謝罪は受け入れます。貴方たちがオークカイザーさんに恩を感じているのはよく分かりましたので頭を上げてください」


ようやく頭を上げたザハールさんたちは椅子に座り、俺たちにも座るよう促した。


「感謝するヒイロ、デイジー。改めて自己紹介だ、オレはザハール・ファジェーエフ。肩書はさっきもいったがこの盗賊ギルド『エルドラド』のギルドマスターだ。色々と後ろ暗い仕事を斡旋して人には言えないような事を生業にしてる連中の互助会さ。各国の裏社会の繋ぎ役でもある。誰かぶっ殺したい奴がいたら言ってくれ、一級の殺し屋を斡旋するぞ」


「……いや、それは遠慮しておきます」


「がっはっはっはっ、冗談だ冗談。裏社会冗談だよ。カタギに殺し屋なんて斡旋しねぇよ、安心しな。もっと安いプランがおすすめだからな」


それも裏社会冗談ってやつだろうか……。

曖昧に笑ってお茶を濁す。


「場も温まった事だ、本題に入ろうか」


いやぁ温まってないと思うんだけどなー、少なくとも俺は嫌な汗だらだらだったよ。

そんな俺の様子に全く気付かないザハールは話を進めていく。


「マレッサピエーに行く為にセルバブラッソに行きたいんだったな。商隊の護衛にはデイジーさんがいる以上問題はないが、急ぐんなら入国書をすぐに用意させるがどうする?」


思いがけず入国書が手に入りそうな流れだがどうしたものか。

素直に善意として受け取ってもいいのだが。

そう言った物ってすぐに準備出来るものなのだろうか……。


「あの……それって正式な入国書ですか?」


「もちろん偽造だ。安心してくれ、リベルタ―の偽造技術は大陸随一だからな。鑑定魔法でも九割バレないぞ。職人が腕によりをかけ、心を込めて作った手作りの偽造入国書だ、そこらの偽造入国書なんかとは温かみが違う」


「いえ、護衛の方でお願いします」


正式な入国書も用意は出来るが時間がかかるそうだ。

俺たちの戸籍とか身元証明とかがないから、そこの偽造から始める必要があるとか。

そして、なんにせよそう言った書類の偽造は縛り首か打ち首だという。

そういうリスク高すぎる手を取らせようとしないでいただきたい。

商隊を率いる人と引き合わせるとの事で商隊がキャンプをしている場所まで向かう事になった。

ザハールさん自らが先頭になって案内してくれるそうだ。

そのキャンプへの道すがら、俺はマレッサに召喚された人間の身元証明について聞いた。


『勇者召喚された人間の身元証明は本来、召喚した国が責任をもって行うもん。召喚されたまま残ってたら、マレッサピエー付きの勇者騎士とかそんな感じの肩書きがついたはずもん』


勇者騎士、なんかカッコイイな。

しかも国が身元証明用の勇者装備をくれる予定もあったとか。

惜しい事をしたかな、と一瞬思ったが洗脳だのされるのは勘弁だなと考え直し、自然と苦笑いを浮かべていた。

勇者召喚と言えば、他の勇者召喚された人たちはどうしているのかなとふと思ったのでマレッサに聞いてみる事にした。


『勇者召喚された人間がどうしているか? そうもんねぇ、お前を除いた五十四人の勇者たちはデイジーのバリアとわっちと同じ様な分神体たちが守ったから全員無事もん。今はこのリベルターのよどんだ魔力のせいでちょっと同期しにくいから細かい様子まではわからないもんけど。少なくとも三人はマレッサピエーと魔王国との戦争に参加してるもん』


「マジか。洗脳はデイジー叔父さんのおかげで解けてたんじゃないのか?」


『一人、過去のトラウマと後悔が今のマレッサピエーの状況と洗脳でがっつりリンクした奴がいるもん。そいつは洗脳から完全に解かれてないもんけどほぼ自発的に魔王国と戦ってるもん。その爺は勇者特権を乱用して魔王軍の魔獣大隊を壊滅させて、戦線を押し上げるとかいうとんでもない事やってのけたもん。戦線の押し上げは本当なら召喚した勇者全員でやってもらおうとしてた事もん』


爺、というともしかして是妻ギガンウード拓介って名乗ったあの老人だろうか。

とんでもないなギガンウード。


「あとの二人は?」


『一人は行った事のある場所へ瞬間移動できる勇者特権に目覚めたやつが物資の輸送手伝ってるもん。もう一人は癒しの勇者特権で負傷兵の治療してるもん』


「へぇ、戦うばかりが勇者じゃないんだな。あぁ、そうだ、ゴッデス大蝦蟇斎さん、魔剣創造っていうのをしようとしてた女の人はどうなってる?」


『魔剣創造とかいう壊れ能力もんか。あれはたち悪すぎもん。生み出される魔剣の強度も付与される効果もホント反則物もん。あの女、オラシオの光の断章の魔法ぶった切る魔剣を生み出す寸前だったもん。あとちょっと遅かったら生み出した瞬間、反動で死んでたかもしれないもん。ヒイロが止めたおかげで命拾いしたもんね』


勇者特権って自分の命すら奪いかねない物を生み出せるのか、あの時オラシオが焦った理由がなんとなく分かった気がする。

そんなとんでもない武器を生み出せる勇者を失うのを恐れたのだろう。


『まぁ、その女は人間やめてるみたいもんけど』


「え?」


そんな、とんでもなく不穏な事をマレッサが言い放った。

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