189・再開と新たな勇者って話
俺の視界全てを真っ白に染め上げた金色の竜が放った眩い光線は不思議な事になんの破壊ももたらさなかったようだ、一切の破壊音も衝撃も感じなかった。
そういう攻撃、と言う訳でもないようで俺の耳に困惑しているような誰かの声が聞こえてきた。
「妾のドラゴンブレスを相殺じゃと、絶位以上の威力の攻撃じゃぞ!? おい、毛玉、勇者特権はそれほどにデタラメなのか!?」
『目がぁああアアアアッ!? てめぇ、変態竜、何いきなりぶっ放してるもんか!! 眩しすぎて何も見えないもん!!』
「かー、役にたたんのぉ!! 妾のドラゴンブレスを察知して咄嗟に坊に防御魔法を張った、上で拾ってきたもう一人のお前の方がまだ有能じゃぞ!!」
『あー、そういうわっち差別よくないもんよー!! とりあえず、色々おまけ付きなわっち、とっとと自分の勇者の所に行くもん!!』
『いやーどうやってここまで来ようか悩んでたもんから、助かったもん!! おーい、ヒイロ、デイジー無事もんかー!!』
『人間!! 生きてる!! 死んでたら言いなさい、すぐに魂籠にぶち込んで永久に暮らすわよッ!!』
「人間さーん、元気ー? デイジーちゃん、は心配しなくてもいいと思うけど、元気ー?」
「ザコお兄さん、死んでない? 生きてる? あ、無事なの。ふぅーん、そう、元気そうじゃん」
ドラゴンブレスと言っていたから一人はたぶんあの金色の竜だろう、それにマレッサとパルカ、ナルカとフィーニスの声がした。
どうやらあの金色の竜と一緒にここまで来たようだ。
「マレッサ、パルカ、ナルカ、フィーニス!! よかった、みんな元気そうで、ちょっと目が全然見えないけど、元気そうな声で良かった」
「あらあらぁん、みんな一気に来ちゃったのねぇん。あたくしは元気一杯、緋色ちゃんも元気よぉん」
デイジー叔父さんが何かしてくれたようで、ポンと肩に触れられた途端に視界が鮮明になっていった。
金色の竜の背中にマレッサが二人とパルカ、ナルカ、フィーニスの姿が見えた。
俺がエスピリトゥ山の所で気を失って以来だから、数日ぶりではあるが随分と久しぶりな気さえする。
普通の毛玉のマレッサに俺にくっついていた手足の生えたマレッサが礼を言ってこちらにやってきた。
ふと見ると、金色の竜の背中には小さな子供、たぶん男の子だろう、が必死にしがみ付いている、毛玉のマレッサが側にいるからあの子も勇者なのだろうか。
そう言えば、最初に召喚された時にオラシオが小さい子供の頭を撫でていた気がする。
『いやぁ、目が覚めてて良かったもん。わっちたちを信仰した反動で魂がかなり削れてたみたいだったもんから、心配だったもんよ。まぁデイジーが付いてるから大丈夫だろうとは思ってたもんけど』
「心配かけてごめん。ていうか、よくドラゴンと一緒にここまで来たなマレッサたち。ドラゴンは神の反逆者だから相性が悪いって言ってたのに」
俺がそう言うと、三つ目の烏の姿のパルカがパタパタと飛んできて肩に留まった。
『そこは色々とあるのよ。あの竜は確かにそう言う属性持ちだけど、あの幼い勇者の勇者特権で縛られてるわ。言っておくけど、あの幼い勇者の前で喧嘩はしない事よ。デイジー、貴方でも死にかねないわよ』
「あらぁん、それはおっかないわねぇん。パルカちゃんが言うんだもの、気を付けておくわぁん」
デイジー叔父さんが金色の竜の背中に居る男の子に手をひらひらと振る、男の子はビクリと体を震わせたあと、おどおどとしつつこちらに頭を下げた。
あの子がデイジー叔父さんですら死にかねない勇者特権を持っているとパルカは言うが、そうは見えない。
だが、パルカが言うのだからそうなのだろう。
「人間さん、はいこれー。あちしが預かってたやつー」
「あぁ、ありがとうナルカ。俺のマジックバッグ預かっててくれたんだな」
人形態のナルカからマジックバッグを受け取り身に着けると、ナルカはスライム形態になってマジックバッグの中に潜り込んできた。
「あーつかれたー。ずっと人間の姿になってたから、くたくたー。あちし中で休んでるねー。おやすみ人間さん」
「ゆっくり休んでてくれナルカ、おやすみ」
マジックバッグの上からナルカを撫で、顔をあげるとフィーニスと目が合った。
フィーニスは頭に王と書かれた冠を被っており、紋様の刻まれた青い肌に炎の手足、水のツーサイドアップの髪、吊り上がった宝石のように煌めく瞳、そしてその周囲には青、赤、黄、緑の小さな光の玉が浮いている。
精霊王となったフィーニスだが、エスピリトゥ山の時より少し落ち着いた様子だ、だが、精霊界とやらには戻らなくていいのだろうか?
「えっと、ザコお兄さん、元気してた?」
「あぁ、なんとか元気だ。フィーニスも精霊王になって落ち着いた感じだな。でも精霊王がこっちの世界に居たままでいいのか? 元素の均衡とか崩れたりとかしないのか?」
「それはうん、だいじょぶ。ジジイたちがフィーニスちゃんの精霊王としての権能を並列処理して元素の均衡を保ってるから、フィーニスちゃんがこっちに居ても問題ない。フィーニスちゃんがここにいたら、ザコお兄さんは、その、迷惑?」
「そんな事はないよ。生まれたばかりなんだし、色んな物を見て、色んな経験して立派な精霊王になる為の勉強みたいな物だろ? 迷惑なんて思わないよ」
水の髪を指先でくるくるといじっていたフィーニスは俺の言葉を聞いて、少し嬉しそうに笑った。
「そっか、うん、ありがと」
そんな様子を見て、ゴッデス大蝦蟇斎さんがペッと床に唾を吐き捨てた。
「おーおー、見せつけてくれちゃってまぁ、モテモテだなーおいヒイロ君よー。お姉さんにはなかった男女の青春を送ってるようで、憎らしくして魔剣をじゃんじゃか創造しちゃいそうな気分だよ、このハーレム野郎め」
「うわ、ガラが悪い、このいい歳した大人」
「歳は関係ないでしょ!! っていうか、さっきのその金ぴかのドラゴンのブレス、あれって攻撃だったんでしょうけど、全然効いてないみたいよ」
金色のドラゴンがブレスを放った方向に魔剣の切っ先を向けるゴッデス大蝦蟇斎さん。
その方向に目をやると戌彦たちは怪我一つなくそこに居た、ただ、金色の竜のブレスを相殺したのは戌彦たちではなかったようだ。
戌彦たちの前に気を失っているダルマシオを肩に担ぐ、仮面で顔を隠した黒いスーツ姿の大男が掌をこちらに向けて立っていた。
仮面の大男の掌からは煙が出ており、金色の竜が放ったドラゴンブレスを相殺した何かを放ったのだろうと推測できた。
仮面の大男は手を軽く振って煙を散らした後、黒い渦巻きの中にダルマシオを軽く放り込んだ。
「いやなに、そろそろ『嫉妬』の権能を回収したんじゃないかと思ってね、出迎えに来たつもりだったのだが、いいタイミングだったようでなにより、怪我は無いかね諸君?」
低く落ち着いた声、それと同時に強烈は圧を感じる。
戦闘体勢と言う訳でもないだろうに、強さはたぶんあの金色の竜装具を着ていたロミュオ以上だ。
この人も勇者同盟の一人なのだろうか、そう思っていると仮面の大男が俺たちに向かって恭しく頭を下げた。
「初めまして、デイジーにゴッデス大蝦蟇斎、そしてヒイロ。私は勇者同盟、七勇者が一人、ジョウジ・クギョウ。見ての通りのしがないサラリーマンだ。よしなに」




