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186・勝手に勘違いしてべらべら喋る人っているよねって話

「では、お話をしましょうか。まずはデイジーさんたちから」


甲高い声の男、ダルマシオが俺の手に紐を結びその先を自分にも結び付ける。

これで『一蓮托生シェアリング』の対象に触れるという条件をクリアしている事になるようだ、存外いい加減だな。


「ここは竜の胎、ジャヌーラカベッサ国が所有するダンジョンの中ですぞ。他国の人間はもちろん、王族であったとしても許可無くみだりに立ち入る事は禁じられている禁足地。何故、他国の方がここにおられるのですかな?」


甲高く平坦な声でダルマシオが淡々とそう告げる。

白髪交じりで短めのオールバック、渋い系の顔で見た目は初老くらい、丸いサングラスをかけている以外にさして特徴らしい特徴のないこの男はデイジー叔父さんを前にしていても、一切気遅れが見られない、俺という人質がいるからこその余裕なのか、いや余裕とも違う感じだ。

敵意は無いし殺意もない、なんだ、この人?


「あらぁん、そうだったのねぇん、あたくしたちったら名も無きダンジョンを潜ってたらここに出ちゃったのよぉん。ここがまさかそんな大それた場所だったなんて、びっくり仰天だわぁん」


「知らずにここに来たと?」


「もちのろんよぉん」


デイジー叔父さんはダルマシオの言葉に対して白々しい返答をしたが何一つ嘘は言っていない、名も無きダンジョンを潜っていたのは事実だし、禁足地だというのも初耳ではある、まぁ一部の王族しか入れないとは聞いていたが。

さて、ダルマシオがその一部の王族であるのは確かであるとして、このままでは少々ヤバい。

理由はさておき、立ち入り禁止の場所に無断で入っていたのは確かだ、何らかの罪状で捕らえられてもおかしくはない、またあのドラゴンの背にある監獄に収監されるのだろうか。

いや、脱獄した状態である以上、より罪は重くなる、下手したら処刑かもしれない。

ロミュオにも何らかの罰が与えられるだろう、そうなるとお姫様が大暴れするに決まっている、うーむ、なんとかうやむやにせねば。


「ダルマシオさんは何故、ダンジョン産のドラゴンを求めているんですか?」


「おやおや、そこからですかな。ジャヌーラカベッサは竜騎士団を要する強力無比な国、その増強の為に決まっておりますぞ。マレッサピエーが魔王国と戦争をしている以上、隣国であるジャヌーラカベッサも無関係ではいられませんからなぁ。軍隊の派遣は元より、物資の提供も必要になってくる。さりとて戦費ばかりがかさめば、民からの不満も出てきましょう。だからこそ竜騎士団の一部を傭兵として他国や外部組織に貸し出し、戦費を賄うのですぞ。その為に今以上のドラゴンが必要なのです」


「戦力強化の為、お金を稼ぐ為にドラゴンが必要だと?」


「然り、なのでダンジョンの主である竜姫ノワールにはその玉座に居続けてもらわねば困るのですぞ」


竜の胎は本当はダンジョンではなく、ドラコースパティウムとジャヌーラカベッサを繋ぐ通路で、このダンジョン自体は後付けの物だ。

ロミュオによればダンジョン産のドラゴンが増えたのは最近の事、つまり、竜の胎の一部がダンジョンになったのは最近のはず。

ふむ、より多くのドラゴンが必要なら竜の胎をダンジョン化する前にドラコースパティウムに増員を要請すればいいんじゃないか?

ドラコースパティウムにそれほどドラゴンが居ないと言うなら話は別だが、それにしたってお姫様をダンジョンの主にする事を王は了承するのだろうか?

なんだか、変だな。


「普通なら協力関係にあるドラコースパティウムに増員を要請するのが先なんじゃあないですか? 第一にドラコースパティウムの王、暗黒竜テネブルの娘であるノワール姫をダンジョンの主にするなんておかしくないですか? どんどん広がっていくこのダンジョンの主に据えたままじゃあ、いつか魔力が尽きて死ぬかもしれないのに」


「……ドラコースパティウムの事までご存じか、ジャヌーラの男巫の口がそこまで軽いとは思いませんでしたぞ。ならば、口先での誤魔化しは不要ですかな。端的に言いましょう、当方たちの仲間になる気はありませんかな?」


協力? いきなり何を言い出すんだこの男は。

それに口先での誤魔化しと言った以上、竜騎士団の戦力強化は本当の理由ではないって事だろう、しかしこのダルマシオと言う男は無表情だ、そのせいで感情が分かりにくく本気なのか冗談なのか判断出来ない。


「あたくしってば、人質を取るような人とはお友達になりたくないわぁん」


「それは、残念ですな」


そう言ったダルマシオにバンッとテーブルに拳を叩きつけて戌彦が食ってかかる。


「ダルマシオ、誰の許可を得てこいつらを仲間にするだなんて言ってるんだよ!? お前の役目はあくまでダンジョン産ドラゴンを外で流通させる事だろ!! 勝手な事は許さないぞ!!」


「ヤツフサさん、当方は勇者同盟にとってより良い提案をしただけですぞ。デイジーさんと敵対する以上の脅威は恐らくないかと。あらゆる上位鑑定スキルである『竜眼』を持つ当方ですら底すら見えない実力、神に匹敵、いや神すら凌駕しているかもしれない存在、そんな方と敵対する事の愚をこの場で語れとでも?」


「それはぼくたち勇者同盟がこいつ一人に負けるって言いたいのか!?」


「そこまでは言っておりませんが、この場に居る者だけでは無理だと思ったからこそ、このお茶会の席についていたのでは?」


ダルマシオの言葉に戌彦はわなわなと震えている。

フードを被った背に高い人物が大きくため息を吐いて、肩をすくめる。


「だいたい、もう断られてるし、『暴食』について何か知っているみたいかな。だったら仲間にならない以上は消えてもらうしかないかな」


戌彦の仲間の言葉で思い出したが、戌彦は俺が『暴食』について聞いた時、唐突に俺たちを始末しようとしてきた。

戌彦たちが『暴食』について何か知っているのは確かだろうし、『暴食』は七つの大罪の一つであり、それは大罪神にも繋がる。

俺は傲慢の大罪神アロガンシアから、他の大罪神の姉妹を起こせとお願い(命令)されているし、勇者同盟の仲間になれば他の大罪神の所在地や封印されている場所なんかを掴めるのではないだろうか。

そこでふと、妙な一致に気付く。


「ねぇ、もしかして勇者同盟の七勇者って七つの大罪になぞらえてたりするの? もしくは大罪神にあやかってるとか」


何気ない俺の言葉に戌彦たちの雰囲気がガラリと変わったのが分かった。

この感じ、たぶん当たりなのだろう。

ただ、死の視線を少し感じるので、言わなかった方がいいかもしれない、ちょっとヤバいかもしれない。


「……大罪神の事まで知っているとはね。いや、『暴食』を知っていたんだ、不思議じゃあないか。つまり、この場に来たのも偶然なんかじゃあないって訳だね」


ん? この場に来たのも偶然なんかじゃあない? どういう事だ?

ただの偶然なんだが?


「どういう事??」


「今更とぼけるな、『暴食』を知り、大罪神を知っているお前が、ここ竜の胎に来た理由は一つしかない。この竜の胎が元は何から作られたかも知っているんだろう?」


「確か、海竜帝レヴィアタンのハラワタだっけ」


「そうだ、海竜帝レヴィアタンの身体からこの竜の胎は作られている!! そして海竜帝レヴィアタンが司る罪の形は『嫉妬』!! お前は竜の胎から『嫉妬』の権能を抽出し大罪神、嫉妬のジェロジアを復活させに来たんだろう!!」


「えぇ、なにそれ、知らない……」


ともあれ、戌彦が勝手にべらべらと喋ってくれたおかげで『嫉妬』の権能がここ竜の胎にあるという情報が意図せず手に入った、わーい。

俺の返答に戌彦は大きく首をかしげて、とても不思議そうな顔をしていた。

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