18・情報と言えば酒場、異世界と言えばギルドだよねって話
森林国家セルバブラッソ、次に行くべき場所を定めたならあとはどうやって行くかだ。
今滞在しているこのリベルタ―という街はセルバブラッソをはじめとした各国から逃げてきた犯罪者が作った街な訳で、その街からやってくる存在はやはり犯罪者と見られても仕方ないだろう。
まっとうなルートでセルバブラッソに入国するにはどうするべきか。
「偽造入国書でも作ればいいんじゃないか?」
「えぇ……犯罪に手を染めるのはちょっと……」
情報と言えば酒場だ、というゲーム知識を元に酒場へ行こうという事になり、酔いどれドラゴン亭の入口にいたセヴェリーノに酒場の場所を聞いた所、普通に色々情報を教えてくれた。
セルバブラッソ手前までならなんの問題もなく進めるが、セルバブラッソ国内に入るには入国書が必要である事、リベルタ―ではその入国書は発行出来ない事、通行税もそれなりに取られる事などなどだ。
そして、どうしてもセルバブラッソに行きたい場合はどうすればよいのかと尋ねた結果が先程の答えだった。
「リベルタ―は犯罪者の街だからな、他の国と表立ったルートでは繋がりはないんだ。犯罪者の街と行き来があるってだけで、国や都市の評判は悪くなる。裏のルートはもちろん各国にあるが、デイジーたちにそんなルートを斡旋してくれる後ろ盾はいないだろう?」
「そうねぇん。ここには来たばかりだし、そういう後ろ盾って色々しがらみが面倒そうなのよねぇん。あたくしってば何者にもとらわれない自由な漢女なんですもの、誰にも縛られたくはないわぁん」
クネクネと身をよじるデイジー叔父さん。
まぁ、空間をぶち破って異世界にくるくらいには自由なんだし、逆に縛れる人なんていないのでは?
そんな疑問が浮かんだが、考えても特に意味はないのであえて無視する事にした。
「森林全体に警備兵みたいな人がいる訳じゃないんでしょ? なら誰もいない所から森に入れるんじゃないかな?」
「それはやめておいた方がいいな。セルバブラッソにはエルフやドワーフをはじめとした亜人種が多く住んでるんだが、あいつらは縄張り意識が強くてな。森の中は街と街をつなぐ共用森林道以外は必ずいずれかの種族の領域だ。許可なく足を踏み入れたらその場で殺されても文句は言えない。デイジーなら問題ないかもしれないが、ヒイロは無理だろうな。弓矢なんかの物理的な攻撃じゃなく魔法や呪いの類も使うからなあいつら」
「ひぇ、なにそれこわ」
不法侵入ダメ絶対、目に見えない呪いとかさすがのデイジー叔父さんでもどうしようもない……いやなんとか出来そうな気はする。
俺が召喚された後、催眠っぽいお香とか魔法を何故か無効化してたし。
とは言え、無理やり侵入して国といざこざを起こすのは正直どうかと思う。
どうしたものか。
「あとはそうだな、裏のルートではあるがここにも貿易商ってのがやってるくんだ。ここは魔王国とも取引してるからな、もちろん非合法。二日後にその魔王国の商品を密輸する為に貿易商の馬車が首都セルバトロンコに向かうんだが、その護衛を募集してたはずだ。それに同行出来れば入国は可能だと思うぞ」
「うーん、何にせよ犯罪臭が……、でも偽造入国書よりもまだマシ……なのかなぁ」
「ちなみに入国書の偽造は基本縛り首か打ち首な」
「それどっちにしろ死にません!?」
偽造入国書は無し、密輸貿易商の護衛としてセルバブラッソに行く方向で検討する事にした。
一応、リベルタ―からマレッサピエーに行くルートもあるにはあるが、莫大なお金と十回に九回は失敗するとの事。
なんでも精霊の領域であるエスピリトゥ山脈を無理矢理通る事になるので精霊の怒りを買って十中八九死ぬらしい。
いや、それはルートがあると言っていいのか?
やはりセルバブラッソからのルートでマレッサピエーに戻るしかないようだ。
そういう事でとりあえずセヴェリーノの紹介でリベルタ―に本部を置く盗賊ギルド『エルドラド』にやってきたのだ。
「おうおう、昨日来たばかりで目立ってたデイジーってのとヒイロって二人組じゃねぇか。よくもまぁ盗賊ギルド『エルドラド』に挨拶もなしに商売してくれたもんだな、おい」
「セヴェリーノの野郎からの紹介だそうだが、シマを荒らしておいてよくも抜け抜けと顔を出せたもんだな、舐めてんのか、おい」
「やっちゃう? やっちゃう? ねぇ、やっちゃう?」
入口の戸をくぐって数秒後にこれですよ、何なのこの人たち、顔こわ、ていうか何で名前知られてる上にセヴェリーノからの紹介って知ってるの?
ヤ〇ザじゃん、めっちゃヤク〇じゃん。
ごく普通の一般人には強面の集団の圧は辛すぎる。
「あ、あのぉ穏便に、話し合いましょう、その、ごめんなさい」
顔の圧に負け、意味もなく謝ってしまう。
小心者は意味もなく謝ってしまうのだ、仕方ない。
俺の言葉に顔に大きな傷のある男がゆっくりと近づいてくる。
「はん、こっちにもメンツってのがあんだよ、にいちゃん。挨拶もなしで好き勝手商売されて、挙句詫びもなし、じゃあこっちのメンツが立たねぇんだよ。どうナシ付けてくれんだ? あぁ!?」
「ど、どうすれば……」
俺のこの言葉を待っていたのか、顔に大きな傷のある男がニヤリと笑う。
「太陽の涙石を譲ってくれるんなら、こっちだってこれ以上ぎゃあぎゃあ言わねぇよ、にいちゃん。お望み通り、セルバブラッソ行きの商隊の護衛に斡旋してやる。なんなら正式な入国書を用意したっていい。もちろん、『エルドラド』への詫び代を差し引いた金額にはなるが、代金も払うつもりだ。どうだ? 悪い話じゃ――」
「お断りします。それだけは絶対にできません」
「――あん? おい、あんちゃん。断れる立場にいるとでも思ってんのか? ただのガキが持つには太陽の涙石は価値が高すぎるってのは分かるよな? この街だけじゃねぇ、それを持ってるって話が出回った以上、どこの国に行ってもずっと付け狙われる事になるんだぞ? それでもいいのか?」
「これはオークカイザーさんに友として譲り受けた物です。付け狙われる程度の事で売り払うなんてできません。お話が以上だというなら、もう結構です。デイジー叔父さん行こう、セヴァリーノには悪いけど、別のルートを探そう」
太陽の涙石、オークの秘宝、オークカイザーさんに貰った大切な物だ。
脅迫してくるような連中には死んでも渡したくない。
これが原因で色んな人たちに狙われる事になる、そんな程度の理由では手放せる訳がない。
友達が俺の為にと、渡して物なのだから。
オークカイザーさんの思いを侮辱されたような気がして、相手の言葉に一種の怒りを感じた俺はこの場を去る事にした。
「お、おい、あんちゃん、ちょっと待ちな!!」
顔に大きな傷のある男が慌てた様子で俺を呼び止めた。