173・次なるダンジョンへって話
名も無きダンジョン地下十階は階段を降りたら一本道だった、神殿の様な荘厳な柱や彫像が並んでいる広い通路をまっすぐ進む途中、更にいくつかの事をジャジャは話してくれた。
出会ってからジャジャが語っていた身の上話には虚偽が含まれており、竜の胎に関する事などはジャヌーラカベッサの国民が一般的に知っている範囲内の事でしかなかったようだ。
まぁ、会って間もない人間を完全に信用するのは無理に決まっているので、それは仕方ない事だろう。
ジャジャ達を冷遇していた貴族自体は居たがその貴族は竜の胎の真実は知らなかったらしい、本来なら竜の胎の真実を知るジャジャたちを警備から外すなんて事、普通はしないし出来るはずないのだが、何故かそれが出来てしまった。
それはつまり、その貴族の後ろに竜の胎の真実を知る存在、つまりはジャヌーラカベッサの王族の誰かが居る事を示している。
ジャヌーラカベッサに何かが起きているとは分かったが調査しようにも何者かの圧力があり、まともな調査は出来ず、このままでは謂れの無い罪で処刑されると考え、ジャジャ達はジャヌーラトーロを脱出。
だが、口封じの為か追手を出され、姿を隠す魔法などを駆使して隠れてやり過ごしなんとかしのいでいたらしい。
「そんな生活を一か月程しておりやしたら、見慣れないドラゴンが竜騎士団の中に居る事に気付いたんでさぁ。気配だの動きだのから察するに、それは存在しないはずのダンジョン産まれのドラゴンでやした。つまり、ドラゴンがダンジョンの主になっているって事でさぁ。ダンジョンの主になりたがるドラゴンなんて滅多にいる訳じゃありやせん。なにせ、ダンジョンの最下層から出る事はできねぇんですからね。それは一体どういう事だと調べてみると、どうにも竜の胎に何かが起きてるって事を突き止めやした。そしてほんの数日前にあっしにジャヌーラ様からの神託が下ったんでさぁ。強き旅人と共に竜の胎に囚われている竜姫を助けよ、って訳でして。それで強き旅人ってのを吟味しておりやした所に通りがかったのがデイジーちゃん様とヒイロ坊ちゃんだったんでさぁ」
「ぬぅ、大まかには分かりましたけど、まだ隠してる事ありますよね?」
「もちろんでさぁ。ドラコースパティウムの存在自体が秘中の秘、それを明かした事があっしの出来るぎりぎりなんでやす。竜装具に関してはそれ以上の秘密なもんで、どうかご勘弁を。騙してた事は誠に申し訳ありやせんでした。あぁ、でもダンジョン攻略に際して、食料だとかが底をついてたのは本当ですぜ、ジャヌーラカベッサからの追手のせいでまっとうに買い物も出来やしなかったもんで、ここ二日は飲まず食わずってのは本当なんでさぁ。」
「そこは分かりました、その竜装具? ってやつの事を口外しないでくれって言うなら言いふらしませんし、無理に聞きもしません。それで、なんでこの名も無きダンジョンを攻略したかったんですか?」
「へい、そいつもお話いたしやしょう。前にも言ったかもしれやせんが、ダンジョンは地上とは別の空間でございやす。本来は各階層を繋ぐ階段を通る以外に階層の行き来はできやせん。ダンジョンの床だの天井だのをぶち抜いてもそのダンジョンの別の階層に移動する事は通常は不可能でやす、ゴッデスの姐さんは普通とはだいぶん違うんで例外といたしやすが」
そこでジャジャはちらりとゴッデス大蝦蟇斎さんを見た。
ゴッデス大蝦蟇斎さんは今までのジャジャの話から、結局ダンジョン産のドラゴン居るやんけと多少ご立腹である。
口でプンプンと言いながら怒っている事をアピールしているのでちょっと年齢的に不気味だ。
「こほん、あっしらもつい最近、魔法の地図のおかげで突き止めた事なんでやすがね、この名も無きダンジョンの地下十階は竜の胎とかなり近いんでやす。異空間と異空間を繋ぐ竜の胎は通常の空間にはありやせん。ダンジョンと似て非なる物なんでやすが、どうにも竜の胎の一部がダンジョン化しているようでして、周りのダンジョンを浸食をしてるみたいなんでさぁ」
「あぁ、もしかして、私が感知してた竜の胎の気配が外にもあったのって、竜の胎自体が本当にダンジョン化して外にあるダンジョンを浸食してたからって訳? どうりでなんかジャヌーラトーロから離れた場所にも気配が広がってるなーって思ってたのよねぇ。良さげな場所に突っ込んだら、デイジーちゃんとかヒイロ君とかが居たんだから、ある意味ラッキーだったのかしら」
そんな事を言うゴッデス大蝦蟇斎さんだが、なんでダンジョンの気配とか分かるんだろう……。
体を魔剣化した影響なのだろうが、非常に人間離れしている、まぁ魔剣なんだけれど。
「あっしらの実力じゃ、地下四階までが精いっぱいでやした。竜装具を使えばここまで来る事自体は出来たかもしれやせんが、ダンジョンの主を倒し、その上でノワール様を救出とまでなるとさすがに体力が持ちやせん。ジャヌーラ様はきっとそれを見越して強き旅人と共にと神託を下すったにちがいねぇ。それに気になると言えば、このダンジョンの途中から魔物に異常がありやしたでしょう? たぶんあれは、完全に繋がっちまったって事だとあっしは考えてやす」
「完全に繋がった? どういう事ですか?」
「そいつぁ、あそこに行けば分かると思いやす」
ジャジャが指差す方向に目を向けると、長い通路の終点らしい大きな西洋風の門があった。
デイジー叔父さんが軽くノックをして門を粉砕、俺たちは門の中に足を踏み入れた。
そこは大広間になっており、俺たちの正面には大きな玉座の様な物あり、そこには恐らくこのダンジョンの主だったであろう十メートルを優に超える巨大な魔物が立派な鎧を着こんだ状態で鎮座していた。
だが、その巨大な魔物の頭部は何者かに食いちぎられており、既に死んでいるようだった。
「頭はねぇが、この装備は間違いねぇ。こいつぁゴブリン大将軍の物じゃねぇか!? ゴブリン族の中でもかなり位の高い存在、まさかこんな名も無きダンジョンの主がゴブリン大将軍だったなんて驚きだ。ただもう死んじまってるみたいでやすが……」
大将軍ときたか。
ゴブリンキングとかゴブリンクイーンはまだわかる、だがなんで西洋風の世界に和風のゴブリンが居るんだろう、謎である。
「このゴブリン大将軍ちゃんの頭を丸かじりした子はあの大穴から来たのかしらねぇん。この場にあたくしたち以外の気配はないから、もうあの大穴の奥に引っ込んでるみたいだけれど、油断はしない事よぉん」
ゴブリン大将軍の背後には玉座に隠れる形で大きな穴が空いており、風が吹いている事から何処かに繋がっている事がうかがえた。
「この風に乗ってくる匂い、間違いありやせん。この穴は竜の胎に繋がってやす。竜の胎に浸食された事で、この名も無きダンジョンも竜の胎の一部って認識になったんでしょう、だから途中からゴブリンとドラゴンが混ざった様な魔物が出て来てたんだと思いやす。憶測ばかりで申し訳ねぇですがね」
「じゃあ、行きましょう。竜の胎に行ってノワールって竜のお姫様を助けに。分からない事も多いから本当はもっと慎重に行くべきなんでしょうけど、なんとなく時間をかけ過ぎるとダメな気がするんですよね。放って置くと、たぶんこの浸食はもっと広がる気がするし」
俺の言葉にゴッデス大蝦蟇斎さんにくっついているマレッサが反応した。
『そうもんね、わっちとしても色々と気になる情報ばかりもんけど、しょせん地上のいざこざもん。そこまで気にはしてないもんけど、ダンジョンが広がるのは困るもん。ダンジョンが無差別に広がれば、そこらの洞窟すら竜の胎というダンジョンの出入り口になりかねないもん、そうなったらどれだけのドラゴンが世に放たれる事になるか、考えるだけ恐ろしいもん』
なんだかまた世界の危機に繋がる事件になってきたような気がする……、なんでそんな大変な事にばかり巻き込まれるのだろうか、不思議だ。
「ダンジョンが繋がった事で、魔法の地図が拡張されて竜の胎までの道も描き出されやした。これで道に迷う事はねぇはずでさぁ」
そう言ってジャジャは穴の中へと先頭に立って歩きだした、ジャジャの仲間たちがそれに続き、更にその後ろを俺たちはついて行くのだった。




