172・正体と本当の目的って話
名も無きダンジョン地下十階、つまり最下層への階段を降りながらジャジャは自分たちの正体と本当の目的を語り始めた。
「あっしらは実は盗賊じゃありゃあせん。かといってジャヌーラカベッサの正式な国民って訳でもねぇ。あっしらは地上と冥域の狭間に存在する竜国ドラコースパティウムの人間、正しく言えば竜と人との混血、竜人ってやつになりやす」
『大密林に埋もれたドラゴンルインズが滅んだ後、竜が統治する国は無くなったと思ってたもんけど、そんな所に竜の国があったとは驚きもん。しかも竜と人の混血まで居るなんて、おとぎ話もいい所もんね』
ジャジャは竜と人間のハーフである竜人であるらしく、ゴッデス大蝦蟇斎さんにくっついているマレッサがかなり驚いていたので珍しい存在なのだろう。
「ジャジャさんたち全員が竜人ってやつなんですか?」
「へい、そうなりやす。とは言え、あっしはもう少し事情が違いやしてね、あっしはジャヌーラ様の男巫でもありやす。本名もジャジャ、じゃありゃあせんが真名はジャヌーラ様に捧げておりやすんで、お教えするのはご勘弁を。いつもはジャヌーラ様の男巫で通してんですが、デイジーちゃん様とヒイロ坊ちゃんにはジャヌーラ様絡みって事を知られたくなかった事もあって、初めてお会いした時にはついジャジャなんて名前を名乗りやした。まぁ、今更ジャヌーラ様の男巫ってのもアレなんで、これからもジャジャでお願いいたしやす」
ジャジャは本名ではなく適当に名乗った名であり、本名はジャヌーラに捧げているとジャジャはそう言った。
しかし、ジャジャが男巫と言うのには驚いた、てっきり巫女と言うからには女性しかいないのだとばかり思っていたが男も居るんだな。
とりあえず、ジャジャ達の正体については分かったが、俺たちを襲った理由とやらも聞きたい所だが、まだ語る事があるみたいで理由の所はもう少し先になりそうだ。
「古来よりジャヌーラカベッサとドラコースパティウムは協力関係にあって、互いに助け合ってきやした。神に反逆者したドラゴン達とはまた違う血脈なんでやすが外聞がどうにも悪いってんで、ジャヌーラカベッサの王族達はドラコースパティウムから派遣された竜たちをダンジョン産と偽ってるんでさぁ」
「え、それってつまりダンジョン産のドラゴンは存在しないって事!? ショタやロリやイケメンやイケオジとかに人化するドラゴンは!? ドラゴンテイムっていうスキルがある王族関係者しか入れないって聞いて、ダンジョンをこっそりぶち抜いて何匹かめぼしいドラゴンを掻っ攫うつもりだったのに!?」
ジャジャの言葉にゴッデス大蝦蟇斎さんが大声で妙な事を口走る。
その様子にジャジャ達は何言ってんだこの人、と言った感じで眉をひそめている。
「ゴッデスの姐さんは何を言ってるんですかい? 竜種がダンジョンの主になるなんて、普通はありえやせんよ。ダンジョン産のドラゴンなんてのも本来は存在しやせんぜ。竜の胎も実はダンジョンじゃありやせん、アレはジャヌーラカベッサとドラコースパティウムを繋ぐ道ですんで」
なんだってー!! と叫びながらゴッデス大蝦蟇斎さんは階段途中でガクリと膝を付き階段の角で膝を強打して痛ぇッと叫んでいた、実に賑やかである。
ん? ちょっと待ってほしい、ジャジャの言ったその情報って普通に国家機密とかそう言うレベルの物ではないだろうか、俺たちにそんな簡単に話していい物ではないと思うのだが?
「ジャジャさん? それ、そんな簡単に教えて良い事なんですか??」
「あははは、そんなまさか、ジャヌーラカベッサの国民でもほとんどが知らない極秘中の極秘ですぜ。王族の中ですら一部しか知らないくらいでさぁ」
「なんでそんな極秘事項を俺たちに教えるんですかッ!? それ知ったら処刑とかされたりしません俺たち!?」
「もちろんとっ捕まったら問答無用で処刑されちまいやすね」
「何て事を教えるんですかぁああああ!?」
とんでもない事をさらっと言い放つジャジャに俺はつい声を荒げてしまう。
デイジー叔父さんはそんな慌てふためく俺の肩にポンと手を置いた。
「落ち着いきなさぁい緋色ちゃん。慌てたって知ってしまった物はどうにもならないわぁん、それに、あたくしたちにそれを教えておく必要があったんでしょ?」
「その通りでさぁ。デイジーちゃん様たちにこの事をお教えした理由はあっしらの目的にも繋がるんでございやす。あっしらの目的、それはドラコースパティウムをお治めになられている暗黒竜テネブル様の一人娘である竜姫ノワール様をお助けする事、そしてその竜姫ノワール様がおられる場所こそがジャヌーラカベッサとドラコースパティウムを繋ぐ道、つまり竜の胎の中なんでさぁ」
ジャジャ達の本当の目的はドラコースパティウムのお姫様を助け出す事らしいが、まだ分からない事はある。
なんで俺たちに声をかけたのか、なんでこの名も無きダンジョンを攻略するのか、だ。
あぁ、気になると言えばあの竜装ってやつも気にはなる、もしかしたらチューニーの人たちとも関係が合ったりするのかもしれない。
ただ、それを聞く前に俺たちは名も無きダンジョンの地下十階、ダンジョンの主が居る場所に辿りついたのだった。




