171・改めてのお願いって話
ゴッデス大蝦蟇斎さんの襲来で、名も無きダンジョン地下九階は床も壁も天井も全て吹き飛び、岩肌が完全に露出していた。
ゴッデス大蝦蟇斎さんにくっついている毛玉状態のマレッサが言うには、本来ならダンジョンの階層を無視しての移動は不可能らしい。
普通は階段などの次の階層に繋がる通路を通らなければ次の階層には移動できないのだが、ゴッデス大蝦蟇斎さんは自身を魔剣に作り直しているせいで生き物判定から外れており、なんらかの不具合が発生したせいで地上から地下九階層までの階層を無視して一気に貫いてこれたのだろうとの事。
地下九階で止まったのは俺たちが居た事で生き物判定があったので、ダンジョンの階層ごとの空間の壁を越えられなかったかららしい。
ついでに、天井に空いた穴はダンジョンの再生機能でじきに塞がるのだとか、ダンジョンって不思議な所なんだなと改めて思った。
体の土埃を軽く払いながら、ゴッデス大蝦蟇斎さんは能天気な笑顔を浮かべながら、俺たちの前にやって来た。
「やっほーヒイロ君、マレッサピエーのお城で吹っ飛んで以来かしらね。元気みたいでなによりなにより」
『お前らの事は本体経由で同期出来てるもん。なかなか、と言うかとんでもなく大変な目にあってたみたいもんねぇ』
「お久しぶりです、ゴッデス大蝦蟇斎さん。それと、えーとマレッサ、でいいのかな? 俺を助けてくれてたマレッサとは別なんだろうけど」
俺はゴッデス大蝦蟇斎さんとその横に浮いている毛玉状態のマレッサに返事をした。
マレッサは各地に飛んだ勇者たちを守る為に分神体をくっつけていると言う話は聞いていたが、実際に他の勇者にくっついているマレッサを見るのは初めてだ。
ゴッデス大蝦蟇斎さんにくっついているマレッサは毛玉状態のままなので区別はつけやすいので、合流しても間違う事はないだろう。
『ほぼ同一体ではあるもんけど、わっちとお前にくっついてるわっちとはだいぶん違いがあるもん。わっち達はどうしても身近な勇者の影響を受けざるを得ないもんからね。お前にくっついてるわっちは属神化に近い二体の内の一体もん。その調子でそっちのわっちを信仰するもんよ』
「あぁ、いつも助けられてるし命の恩人でもあるからな。それがマレッサの願いなら、いくらでも信仰するよ」
ゴッデス大蝦蟇斎さんは次にデイジー叔父さんに声をかけた。
何やらジッとデイジー叔父さんを見つめており、デイジー叔父さんはいやーんとかなんかクネクネしている。
「デイジーちゃんも元気そうでなによりー。うーん、こういう体になったから分かるけど、やっぱデイジーちゃんとんでもないわね。私じゃ逆立ちしても無理だわ、これ。チート殺し? っていうかゲームマスター? なんにしても私が倒したラビリンスの主なんかよりずっと上過ぎて比べるのが馬鹿らしいくらいね」
「あらぁん、ゴッデス大蝦蟇斎ちゃんも元気はつらつみたいねぇん。体をそんな風にしちゃうなんて無茶しちゃって。元に戻りたかったらいつでも言ってねぇん、力を貸すわぁん」
「あははは、どうもです。でも当分このままでいいんで、その時はお願いしますね。で、何でこんな所に?」
「ちょっと事情があってねぇん、ダンジョンの攻略中だったのよぉん」
「あ、デイジーちゃん達もドラゴン目当てだったり? やっぱ冒険のお供には人化出来るドラゴンですよねー。ロリかショタがマストですけど、イケメンとか渋いおじ様とかもイケる口ですよ私」
『相変わらず何言ってるか分からないもん、こいつ……』
デイジー叔父さんとゴッデス大蝦蟇斎さんが話をしていると、ジャジャが恐る恐ると言った感じで申し訳なさそうに声をかけてきた。
「あ、あのぅ、申し訳ねぇんでやすが、デイジーちゃん様、ヒイロ坊ちゃん、こちらのとんでもねぇ姐さんは、一体どこのどちら様でやすか?」
ジャジャ達は竜装とやらを解除しており、元の盗賊風の恰好に戻っていた。
思えば、かなりの決意を持ってあの恰好になった気がするが、ゴッデス大蝦蟇斎さんが何もかもを台無しにした感がぬぐえない。
どうしよう謝った方がいいのだろうか。
「えっとですね、こちら俺たちと同郷でゴッデス大蝦蟇斎と名乗る、たぶんノリで体を魔剣に改造したちょっと年齢に危機感を感じている三十路の女性です。悪い人ではないんですが、ちょっとその場のノリで行動しちゃう事があるんです。知り合ったのは少し前で、付き合い何て呼べる物もほとんどないんですが、たぶん今回のこれもそれだと思います。なのでゴッデス大蝦蟇斎さんはジャジャさんたちに謝ってください、ほら早く」
「確かにあの場でほぼ初対面だったし、付き合いなんてものはほとんどないけど、生きて何週間かぶりに会えたのになんでこんなにディスられてんの私!? あと私二十九だから、ぎり三十路じゃないから!! まだピチピチだから!! あと訳わかんないけど、ノリで行動してたのは本当だから、なんかごめん!!」
「二十九でピチピチって言うのはちょっと、どうかと思いやすけどねぇ。ピチピチって言うのはやっぱ十八から二十二くらいだとあっしは思うんですがね」
「なんだとこのやろう、三十路前の女の恐ろしさ、その身に叩き込んでやろうか、こらぁッ!!」
「ダメですよジャジャさん、本当の事でも本人の前で言うのはさすがに、ちょっと」
「確かに、こいつぁすいやせん、つい本音が出ちまいました」
「お前もそういうタイプか、このやろう」
魔剣を片手に切りかかろうとしてくるのをマレッサとデイジー叔父さんに止められ、どうどうと宥められるゴッデス大蝦蟇斎さん。
とりあえず、ゴッデス大蝦蟇斎さんの謝罪を受け入れてくれたジャジャたちではあったが、何とも複雑な表情をしていた。
「これだけの騒ぎ、奴らに確実に感づかれたにちげぇねぇ。こいつぁ急いだ方が良さそうだ。……デイジーちゃん様、ヒイロ坊ちゃん、そしてゴッデスの姐さん、どうか、あっしらをお助けくだせぇ、改めてお願いいたしやす」
ジャジャたちは急に土下座をし始めた。
突然の行動に俺はちょっと困惑してしまう。
「この件はジャヌーラカベッサの未来にも関係する重大な事柄、あっしらの正体も本当の目的もお話いたしやす、報酬も用意いたしやす、だからどうか――」
「いや、最初に会った時に言ったじゃないですか。もちろん助けますよ、それで何をすればいいんですか?」
俺の返答にジャジャは何とも言えない苦笑いを浮かべて涙を流し始めた、俺は何か変な事でも言ってしまったのかとちょっとあたふたしてしまった。
「はは、ヒイロ坊ちゃん、アンタって人は……。とんだお人好しだ、底抜けなんてもんじゃあねぇ、底無しのお人好しだ。……どうも、ありがとうごぜぇやす」
そう言って、ジャジャ達は改めて土下座をした。




