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17・これからどうするのかって話

しばらくセヴェリーノとの食事を楽しんだ俺たちはそのまま酔いどれドラゴン亭に泊まる事にした。

案内された部屋はそれなりに奇麗で驚いたが、ちょっとベッドが硬く、布団もゴワゴワ、あとなんか臭い。

これは眠りにつくのに一苦労しそうだと思っていたのだが、よほど疲れていたのかベッドに横になって目を閉じた次の瞬間には深い眠りについていたようだ。

気づけば窓から差し込む朝日の眩しさで目が覚めていた。


「ふぁああ……。おはようデイジー叔父さん」


「おはよう、緋色ちゃん。よく寝れたみたいねぇん、ぐっすりだったわよぉん」


頭がまだ寝ぼけているせいか、デイジー叔父さんが小指一本で逆立ち腕立て伏せをしているの見ても、デイジー叔父さんだもんな、でスルーしてしまう。

どうやら軽い朝の体操らしい、軽い……?

いやでも、デイジー叔父さんだもんな……。


『スピィ……スピィ……、あと五十年寝かせろもん……』


「神……毛玉でも寝ぼけるものなんだな」


『神様であってるもん!! なんで毛玉って言い直したもん!?』


朝から元気なツッコミだ、ビシッと頭に一撃を食らいちょっと痛かった。

その時、何か違和感を感じた、というか違和感しかない。

よくよくマレッサを見ると昨日寝る前となんだか姿が違うような気がする。

というかなんか毛玉から腕が生えてる。


「うわ、キモ」


『神様に向かってなんて言葉を吐きやがるもん!? 不遜不敬ここに極まれりもんよ!! 神力の高まりと共に分神体の器がちょっと成長しただけもん!! 何もん、そのおぞましい実験動物を見るような目は!! しまいには怒るもんよ!!』


だって、ふわふわ浮かぶ毛玉に生々しい腕が生えてるんだぞ、どの角度からどう見ても新種の妖怪か魔物にしか見えない。

怒るマレッサが言うにはこれは俺のせいらしい。

俺の適当な賛辞の言葉と昨夜の肉料理をマレッサに分けた行為が、簡易的な供儀として機能したとかなんとか。

供儀とは神様に供物を捧げ人間が神に祈る儀式、との事。 

詰まる所、俺がこの分神体の一つに過ぎなかったマレッサを一柱の神として信仰したのでその分、神として格が少し上がって器が成長したそうだ。

このまま、成長を続けたら完全に本体から独立できる、とマレッサは喜んでいる。


『本体の眷属って事になるし、本体由来の権能が薄くなるもんけど、独立した神格として新たな権能に目覚める事も夢ではないもん。本体にとっても自分の分神体が一柱の神に昇華するのは願ったり叶ったりもん。眷属神を持つのはかなり神格が高い神じゃないと無理もんからね』


本来の分神体というのはあくまで本体のコピーであり、数が多ければ多いほど権能も弱く存在も希薄になる。

それに神力を本体から絶えず供給していなければすぐに枯渇して消え去ってしまうという。

だが、このマレッサは俺の賛辞の言葉を信仰として受け取る事で、本体の供給なしでもしばらくは消える事がないのだと力説した。


「そうか。なんで俺がデイジー叔父さんと合流した後も付いてきてくれるのかと、少し疑問に思っていたんだが。なるほど、親切心とかではなく自分が新しい神様になる為の打算ありきだったんだな」


『いや、待つもん。ものすんごいねじ曲がった物の捉え方はやめるもん。それじゃヒイロにくっついて信仰ウッハウハで労せず新たな一柱の神に成り上がりー、みたいな凄く感じの悪い奴になるもん』


「あながち間違いでもないのでは?」


『確かに最初はそこの筋肉おば――デイジーに無理矢理頼まれたのもあったもんけど、それなりに信仰を捧げるお前に情がわいてるのも事実もん!! 見捨てるのはちょっと可哀想もんなーって程度には心配もしてるもんよ!!』


手をせわしなく動かして喋る毛玉、なんともシュールだ。


「あの時マレッサが助けてくれたのは事実だし、マレッサがいなかったら今ここに生きているかどうかも怪しい状態だったんだ。適当な誉め言葉でも喜んでくれるし、マレッサがチョロ……いい神様だって事は分かってるよ。例え打算と多少の憐憫の情からの行動だとしても、俺は生きてる限りマレッサに感謝し続けるよ」


『感謝してくれるのはいいもんけど、なんか、なんか、ちょっとこうモヤッと来る物言いもんねぇ……』


そんなくだらない会話をマレッサとしながら身支度を済ませ、食堂に移動する。

昨晩の残りの肉やサラダをパンに挟んだサンドイッチのような軽食をつまみながら、今後の事をデイジー叔父さんと話し合う。

隣でマレッサが新たに生えた腕でサンドイッチの魂? の様な物を掴んで毛玉の中に取り込んでいく様はなんか、ちょっと怖かった。

ちなみに魂の抜けたサンドイッチは心なしか薄味になっていた。


「これから人間の国、出来れば早くマレッサピエーに戻るルートを調べたいところねぇん。ここも悪くはない場所だけれど緋色ちゃんにはちょっと刺激が強すぎだわぁん」


「まぁ確かに。正直、ここで何日も暮らしていける自信はないよ。明日にも刺されて死んでたっておかしくない気がするし」


「そんな事はデイジーちゃんがさせないけどねぇん! ま、昨日の太陽の涙石を使ってのお金稼ぎでちょっと目立っちゃったのは事実よぉん。面倒事に巻き込まれる前になんとかしたいわぁん」


デイジー叔父さん一人なら大した事はないんだろうけど、俺にはその面倒事に巻き込まれたらタダじゃあ済まない自信がある。

異世界転移とか召喚されたらチート能力とか貰えるのがお決まりだと思ってたけど、特にそんな様子はないし、世の中そんな美味い話はないって事だろうな。

まぁ、無い物は仕方ない、無い物ねだり程無駄な事はないし、もっと現実的な問題をどうにかしていくしかない。


「なぁ、マレッサ。ここって位置的には魔王国と人間の国の境界付近なんだよな? その人間の国ってどこの国なんだ?」


『一番近いのは森の神セルバが守護する森林国家セルバブラッソもん。その名の通り国土の約九割が森の中にある国もん。人間の国、とは言うもんけどエルフとドワーフの二種族を筆頭に多様な種族からなる多種族国家もん』


「へぇ、エルフにドワーフかぁ。その二つの種族って仲が悪いと思ってたけど、この世界では一緒に住んでるんだな」


『何言ってるもん? クッソ仲悪いもん。森の主権を巡って罵詈雑言の言い争いが日常茶飯事もん。ここ三百年くらいずーっと同じ事で言い争いをしてるせいで口喧嘩戦争とか言われて揶揄されてるもん。人間が代わりに国政を担って国家運営してるから、多種族国家なのに人間の国って皮肉を言われてるもん』


三百年も同じ事で言い争いとは、さすが長命な種族だな、桁が違う。


「そのセルバブラッソからマレッサピエーに行く道とかあるのか?」


『んー、セルバブラッソの東にエスピリトゥ山脈を東西にぶち抜いたエスピリトゥ大洞窟があるもん。そこがジャヌーラカベッサっていう国に繋がってるもん。ジャヌーラカベッサからならマレッサピエーへの定期ドラゴン便が出てるもん』


マレッサ、俺の頭はそんなによくないんだ。

いきなり色んな名称を言わないでくれ。

しかし、とりあえず目指すべき場所は分かった。


「とりあえず、セルバブラッソに行こう。まずはそれからだ」

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