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167・ダンジョン商人って話

名も無きダンジョン地下七階層ではやはりと言うか、ゴブリンではなくドラゴンが主に徘徊をしていた。

ドラゴンとは言え、地下五層で出会ったあのドラゴン似の魔物とは違い、大型のトカゲに近い感じで、元の世界にもいたコモドドラゴンがもう一回り大きくなった感じだ。

たまにその大トカゲに騎乗しているゴブリンが居たりしたが、気づくとそのゴブリンは騎乗していた大トカゲに頭から丸飲みにされていた。

いや、その食う食われるの関係でどうやって今まで大トカゲに乗れていたんだこのゴブリン? 

この大トカゲに乗ったゴブリンの様に妙な魔物はダンジョンではよく見かけるのだとジャジャが教えてくれた。

地上では絶対にあり得ない事だが、火属性と木属性の魔物が合体した様な魔物だったり、大きな魔物が小さな魔物に騎乗していたり、装備が重くて身動きが取れなくなっている魔物などがダンジョンでは割と現れるそうだ。

火と木の魔物は当然木の魔物が燃えてしまうし、大きな魔物の体重に耐えられず小さな魔物は潰れてしまうし、装備が重くて動けない魔物は当たり前だが、動けないのだからボコボコにされてしまったりとかなり生き物として破綻している。


「ダンジョンって変な魔物が多いんだなぁ」


「ダンジョンから生み出される魔物は地上と違って、成体のまま生まれてきやす。そういう存在としていきなり生まれて来るんで、生き物としてちぐはぐなんだろうって言われてやすね」


「時間をかけずに成長した状態で生まれてくるから、変な行動をするって事?」


「そんな捉え方で十分だと思いやす、ダンジョンはいまだに謎の多いもんですからね。まぁダンジョンについて研究してる物好きもいるらしいですが、あっしらみたいな盗賊や探索家に取って見れば、命の危険を冒してでも手に入れる価値のあるお宝があるってだけで十分ですがね」


そんな会話をしつつ、地下七階を探索していく。

大トカゲはあのドラゴン似の魔物に比べれば、まだ戦える余地のある魔物だった。

魔法でバフをかけて一斉に攻撃をすれば多少なりダメージを与える事が出来たし、大トカゲの吐く炎のブレスは鉄製の大楯で防げる程度だ。

あのドラゴン似の魔物はある意味、中ボスとかそんな感じの存在だったのだろうか、それならあの強さにも納得は出来るのだが。


「あのドラゴンに似てた魔物、見かけないけどどこに行ったんだろう」


俺はキョロキョロと辺りを見回しながらそう呟いた。

見回している際に通路の奥に頭部が二つある双頭の大トカゲを見つけたが、それぞれの頭に自我があるようで何やら喧嘩をしており、次の瞬間には片方の頭がもう片方の首元に噛みつき、そのまま噛みちぎってしまった。

その後、その双頭の大トカゲはふらつきながら倒れて動かなくなった、恐らく出血多量が原因だろう。

生き物としてちぐはぐ、ジャジャの言うようにダンジョンの魔物はどうにも生き物としておかしすぎる。

何とも言えない気持ち悪さを感じつつ、地下七階の探索を続けた。


「いらっしゃい、武器や防具、回復ポーションなんかもあるよ。どうだい?」


探索中に唐突に聞こえてきた男の声にギョッとして、声のした方を振り向く。

そこには、身の丈以上の大きなリュックを背負った小柄な老人が立っていた。

見た目は普通の人間に見える、魔物とは思えない。


「こいつぁ珍しい、ダンジョン商人じゃねぇか。デイジーちゃん様、ヒイロ坊ちゃん、コイツの商品を見てる間は何故か魔物が襲ってきやせん。貴重な魔法道具とか掘り出し物なんかも売ってたりするんで、商品を見るだけでも損はないですぜ」


ダンジョン商人、そんな存在もいるのか。

商品を見ている間は魔物が襲ってこないって、もうそういう仕様のゲームみたいだな。

つまり、このダンジョン商人とやらもダンジョンが生み出した存在なのかもしれない。

まぁ、それはそれとしてジャジャの勧めもあったので、一応ダンジョン商人の売っている物を見てみる事にした。


「どんな商品を売っているんですか?」


「緋色ちゃんが扱えそうな武器や防具があると助かるわねぇん。香水とか美容用品って無いかしらぁん?」


「これが一覧だよ、武器や防具は装備しないと意味がないから気を付けるんだぞ」


ダンジョン商人はゲームでよく聞くような事を言いつつ、巻物を広げた。

すると、広がった巻物には商品の絵が描かれており、その絵が空中に立体的に浮かび上がった。

ホログラムみたいな感じだが、こんな魔法もあるのかとちょっと驚いた。

空中に浮かぶ絵を見ながら、質問をするとダンジョン商人は簡単な商品の説明をしてくれた。


「これはどんな武器なんですか?」


「それは鋼の剣、中堅どころの冒険者なんかが良く扱っている剣だよ、銀貨五十枚」


「じゃあ、こっちは?」


「それは星降りの剣、落ちた星を原材料にして作られた剣だよ、金貨千枚」


「じゃ、じゃあこれは?」


「それはニュプレモモチュニーの十七年物、十日間全く眠らずに活動出来て、とても幸せな気持ちになれるポーションだよ、金貨三百枚」


普通の武器だけじゃなくて、なんかヤバそうなオーラを放ってる剣だったり、効果が明らかにやべぇポーションだったりを扱っており、品ぞろえは凄い。

というか、ニュプレモモチュニーってなんだよ、十七年物って事は十七年も寝かせておいたポーションって事か? ワインか何かか??

あぁ、今ほどここにマレッサが居てくれればと思った事はない、きっと色々と説明をしてくれたと思う。

ダンジョン商人の商品説明は大まかで、もっと詳しく教えてと言っても同じ事しか言わなかった。

やはり、このダンジョン商人は人間ではなく、魔物と同じようにダンジョンが生み出した存在なのだろう。

デイジー叔父さんは特に気にせずに香水をいくつか、クリームの様な物が入った小さな壺なんかを買っていた。

巻物が映し出す商品を眺めているとちょっとした物が目に付いた、それは何やら文字が書かれただけの紙切れではあったが、何故か気になった。


「この紙はなんなんですか?」


「それは魔法のスクロール、回復魔法や攻撃魔法が封じ込められてるよ。使い切り、破くと封じ込められている魔法が発動するよ。種類問わず一つ金貨一枚」


これなら、俺でも使えるし、戦いの中でも役に立てるかもしれない。

俺はデイジー叔父さんにお金を借りて、回復魔法や攻撃魔法が封じられた魔法のスクロールを買う事にした。

二十枚程度を購入し、回復の魔法が封じられているスクロールを試してみる為に一枚破いてみた。

すると、淡い光が散って周囲の盗賊たちの傷が多少癒えていった。

そこまで強力な物ではなかったが、ないよりはマシだろう。


「商人さん、ありが――」


振り返ると、ダンジョン商人の姿はなかった。

どこに行ったのだろうか?


「あぁ、ヒイロ坊ちゃん。ダンジョン商人ってのはそんなもんですぜ。売り買いが終わったら、忽然と姿を消しちまうんでさぁ。そういうモノだと思ってくだせぇ」


ジャジャの言葉にダンジョンは不思議でなんとも不気味な場所なのだと、改めて思った。

地下八階への階段はダンジョン商人が消えてからほどなくして見つける事が出来た。

地下十階までもう少しだ。

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