164・謎の魔物って話
「いやぁん、いきなり熱烈な歓迎ねぇん」
地下五階に降りた瞬間、正面、左右、天上から同時に何かが襲いかかってきた。
が、一瞬でそれらは地面に突き刺さり、沈黙した。
「何かしらねぇんこの子たち、ジャジャちゃんたちは知っているかしらぁん?」
地面に突き刺さり、地面から生えている状態のそれらを見て、デイジー叔父さんは小首をかしげた。
俺もそれが何なのか分からなかったが、いろんな魔物がいるのだし、その中の一種だろうとは思った。
しかし、ジャジャの答えは違っていた。
「い、いや、あっしはこんな魔物は見た事がねぇ。おめぇらは?」
ジャジャが首を振り、他の仲間にも聞いていたが誰もこの魔物が何なのか分かる者はいなかった。
下半身だけ見てもその異様さに目を疑うばかりだ。
両足の種類が違うのだ、片方はゴブリンのそれに似ているがもう片方は爬虫類に似ていた。
中にはトカゲの様な尻尾が生えている個体もいる。
試しに一匹だけ引っこ抜いてみると、その異様さはより際立った。
顔はゴブリンではあるが鱗が生えており、その口に生える牙はゴブリンのそれではない。
ゴブリンに何かが、トカゲの様な物が混ざっているようなそんな不完全さだった。
「ダンジョンではこういった魔物ってよく出るの?」
「いや、あっしらもここまで潜ったのは初めてなもんで、はっきりした事は言えねぇでやすが、こんな混ざりあったような魔物を見たのは初めてでさぁ。このダンジョン固有の魔物なのかどうかまでは判断できやせんが、こんな魔物が他のダンジョンでも出てたんなら噂の一つや二つ耳に入ってるはずなんですがねぇ」
「突然変異の魔物って事はない?」
「突然変異ですかい? うーん、その線は薄いと思いやす。突然変異にしては混ざり方に方向性みたいなもんがありやすし、新種にしちゃあ体がチグハグ過ぎまさぁ」
新種でもなければ突然変異でもない。
このゴブリンとトカゲが混ざったような魔物は一体何なのだろう。
もっと調べたかったのだが、倒した謎の魔物は全てダンジョンに取り込まれ消えてしまった。
「普通の魔物と違うって事は、対処方法も違う可能性があるわねぇん。ジャジャちゃん、気を付けてねぇん」
「へい、分かりやした!! おめぇら、気を引き締めていくぞ!!」
「「「おおお!!」」」
気合を入れ直したジャジャ達と共に謎の魔物がひしめく地下五階層を進み始めた。
地下四階ではゴブリンだけとはいえ色んな種類のゴブリンがいたのだが、この階層で襲いかかってくるのはゴブリンとトカゲが混ざった魔物のみだ。
進むにつれて、トカゲの比率が増えていっているように感じる。
武器や防具を装備している個体もいたが、それらをきちんと扱える知能はないようで、がむしゃらに突っ込んでくるだけだが、トカゲの方の身体能力が高いのかその速さはゴブリンの比ではない。
「大楯、しっかり防げ!! 攻撃、防御バフ後に大楯の隙間から槍で突け!!」
ジャジャの指示を受け、ジャジャの仲間たちがキビキビと動き、魔物の突進を防ぎ打ち倒す。
ただの初心者盗賊団と思っていたが、仲間同士の連携や戦闘の動きは滑らかで恐怖や迷いといった物が見えない。
元警備兵と言っていたが、ここまで戦いに慣れているものなのかと驚いた。
「ジャジャさんたちって結構強いんですね」
「だてに何年も警備兵をしてやいやせんぜヒイロ坊ちゃん。ジャヌーラトーロは都市の中にダンジョンの入り口があるんで、そこから這い出てくる魔物たちの討伐も警備兵の役目だったんでさぁ。ただの力押しだけの魔物なんざ、物の数じゃありゃしませんぜ」
「盗賊なんてするくらいだから、不真面目だったと勝手に思ってましたけど真面目に警備兵してたんですね」
「そりゃあ、お給金はそれなりで街の人らからも感謝されてましたし、ダンジョンに潜る探索家からも一目置かれる事もありやしたからね。真面目にしてやしたよ、あいつが上司になるまでは」
「あいつ?」
「賄賂で成り上がったくそったれの下級貴族のボンボンでやす。ダンジョン管理はこの国じゃ貴族の役目ですからねぇ、ただの警備兵なのにそれなりに人気のあったあっしらが気に食わんかったんでしょう」
どこの世界にも賄賂とかってあるんだなぁ。
ジャジャ達の人気をねたんだ下級貴族が上司になって、嫌がらせを受けて警備兵の職を追われて盗賊か……。
なんとも世知辛い話だ。
だからと言って盗賊行為をしていい訳ではないのだけれど。
地下五階の探索をしている内に、地下六階に降りる階段のある部屋にたどり着いたのだが、その地下に降りる階段の前にさらに変わった魔物が陣取っていた。
「トカゲ人間って感じねぇん。ゴブリンの要素がだいぶん消えちゃったわねぇん」
「でも、あれって羽とか角が生えてるし、トカゲっていうよりドラゴンに近いんじゃ?」
ゴブリンとトカゲが混ざったような魔物と違い、地下への階段の前にいる魔物は明らかにトカゲというかドラゴンの要素を持っている。
二メートル近い巨体で二足歩行ではあるが、ドラゴンのような羽や角に尻尾、鱗の生えた皮膚、顔つきもどことなくドラゴンを思わせるものだ。
ダンジョンの攻略を目的としている以上、避けては通れない。
ジャジャ達はデイジー叔父さんの体力温存を理由にまずは自分たちで戦うと言い出した。
危ない気はするが、危険と判断したらデイジー叔父さんは助けに動くと言ってくれたので、俺は少しホッとして、息を吐いた。
残念ながら、すでに相手に補足されている状態、奇襲は出来ない。
ジャジャ達が戦うのを後方で見ながらでも、致死性の危ない攻撃が来そうな時は大声で注意を促すくらいならできるかもしれない。
「よっしゃあ、行くぞ、おめぇらぁああああ!!」
「「「おおおおおお!!」」」
そう叫んで、ジャジャ達は一斉に人型のドラゴンの様な魔物に向かっていった。




