162・ダンジョン攻略中って話
俺は持ち物のほぼ全てはナルカが預かってくれている、とデイジー叔父さんが教えてくれた。
つまり、俺は何も持っていない。
ジャジャにはその旨伝えており、ダンジョンに降りてすぐの場所に作られていた物置部屋、そこに乱雑に置かれている安物の装備を譲ってもらった。
薄手の革製の防具一式と木製の小さな丸い盾にナイフを二本、それと鉄製のスリングショット。
便利な事にスリングショットの持ち手部分が小さなマジックバッグになっており、石球や鉄球なんかの球になる物が幾つか入っているようだ。
量はそこまで入らないようなので、荷物入れとして使うのは難しいだろう。
「ジャジャさん、いいの? 色々貰っちゃって。このスリングショット、かなり便利そうだし高く売れるんじゃないの?」
「へい、構いやしやせんぜ。そいつぁ、ダンジョンから割と発見される低級武器なんでさぁ。売っても銀貨五、六枚がせいぜいってとこでさぁ。まぁ、稀に持ち手の所のマジックバッグに貴重な物が入ってる事もありやすが、そいつにはそんなもんは入ってやしませんでしたからね。お好きに処分してもらって大丈夫でさぁ」
ダンジョンって、こういう武器が結構見つかるのか。
あまりファンタジーって感じはしないが、離れた場所から攻撃出来る分、俺にはとても助かる武器だ。
少し練習してみたが、うん、全然当たらないこれ。
思った以上に難しい、まぁ俺がこれで魔物を倒す必要はないんだし、少しでも魔物の注意をそらしたり、ちょっとした援護が出来ればいいのだから、数メートル先の魔物のどこかに当たればいいやって感じでも問題はないだろう。
ジャジャは軽装の防具に柄の短い斧と盾を装備しており、防具自体は他の盗賊たちと大差はなかった。
武器は各々剣だったり槍だったり弓矢だったりと様々だ。
二人程、先端に宝石の様な物が付いた杖を持っている盗賊もいる、たぶん魔法を使うのだろう。
「さぁ、行きやしょう。低層階では前衛はあっしらが務めやす、デイジーちゃん様とヒイロ坊ちゃんは中衛で前衛が危ない時は補助をお願いしやす。出来るだけ力は温存しててくだせぇ。後衛は荷物持ちや前衛の交代要員が控えてやすので、極力戦闘には参加しやせんので、ご理解のほどお願いしやす」
「分かりました、頑張ります」
「分かったわぁん、低層階はお任せするわねぇん」
色々と準備を整えて、俺たちはダンジョンの最下層を目指して進み始めた。
名も無きダンジョンの一階層目は天井も壁も床も全てが白いレンガが敷き詰められており、ものすごく人工物と言う感じがした。
先頭を進むジャジャは斧を構えたまま、脇に控える地図持つ部下と水晶を持った部下の二名の報告を受けつつダンジョン内を進んでいた。
曲がり角では小さな鏡を使って曲がった先の様子を確認したり、罠の感知にも神経を使っており、かなりの慎重さである。
このくらい慎重でないとダンジョンではやっていけないのだろうか。
盗賊だし、もっとこうガーッと行ってダーッて魔物と戦う感じだとばかり思っていたのだが、なんとも以外だ。
曲がり角の先に緑の肌をしたゴブリンが数体が居たようだが、ジャジャたちは透明化の魔法を使用しゴブリンたちの背後をとってからの奇襲であっと言う間に仕留めていた。
ダンジョン産の魔物の雄叫びなどは仲間を呼び寄せる効果があるらしく、魔物の素材が目的ではない時は声を上げる暇もなく仕留めてしまうらしい。
今回はダンジョンの最下層まで行き、ダンジョンの主である強力な魔物の討伐を目的としている為、極力無駄な戦闘は回避する事にしているそうだ。
低層階では俺とデイジー叔父さんが手伝う事はほぼなく、スムーズに休憩地点に到着する事が出来た。
「ふぅ、今回はデイジーちゃん様の体力を温存させる方向で進んでますんで、かなり時間を食いやしたが、ここまではいつも以上に順調に来れてやす。ただ、地下四階層からはあっしらの強さ的にかなり厳しい相手が出てきやす。デイジーちゃん様のお力をお借りする事もあると思うんで、その時はお願いしやすぜ」
「ジャジャちゃんたちのおかげでここまで体力を使わずに済んだわぁん。強い魔物が出てきたら戦わせてもらうわぁん」
「えぇっと、ジャジャさん。確か、このダンジョンって地下十階まであるんですよね。底まで行くのにあとどのくらいかかる感じですか?」
地下三階に来るまでに数時間の時を要したのだが、最下層は地下十階らしい。
このダンジョン内の道を表示している魔法の地図には地下十階の記述があるらしく、恐らく地下十階が最下層だろうとの事だった。
下に行くにつれて魔物はより強力にダンジョンはより広く複雑になっているようなので、恐らくここまでかかった時間の数倍は見ておいた方がいいはずだ。
「すいやせんヒイロ坊ちゃん。大まかなに数日としか検討が付かないもんで……。地下四階よりも下はあっしらでもまだ未探索でして、何とも。ダンジョンは地下に続く階段を通らないと、ちゃんとした下の階には行けないんでやす。穴掘ったりして無理矢理下に行くってのは出来ないんで、近道が出来ないんでさぁ」
「そうなんですね、わかりました。ありがとうございます」
出来れば早くこのダンジョン攻略を終わらせてマレッサたちと合流したかったが、数日は見ておかなきゃダメか。
うーむ、もう少し気合を入れていかないと、うっかりミスとかしてしまいそうだ。
軽く頬を叩き気合を入れ直す。
「俺に出来る事なんて、大してないけど頑張らなきゃ」
休憩を終え、俺たちはダンジョン内を更に降っていく。




