160・続きはいつ聞かせてくれるのって話
「緋色ちゃんが気を失って、アロガンシアちゃんが軍神エヘールシトちゃんを連れて消えた後、あたくしたちはちょっとした事に気付いたのよぉん」
「ちょっとした事?」
「えぇ、世界の危機に比べればほんの細やかで、でも気にする人にとってはとっても大変な事だったわぁん」
世界の危機に比べれば大抵の事は細やかではあるだろうけれど、一体何に気付いたんだろうか。
「あたくしとアロガンシアちゃんの戦いの余波でエスピリトゥ山脈の一部を消滅させちゃってたのよねぇん。エスピリトゥ大洞窟も吹き飛んでたわぁん。あ、地下への道は残ってたから安心してねぇん」
「それはちょっとした事とは言えないんじゃないかなデイジー叔父さん?」
「そうねぇん、エスピリトゥ山脈の一部とエスピリトゥ大洞窟が消滅して、ただのエスピリトゥ街道になってしまったのだわぁん。まぁ行き来する分には不便が無くなったと思うのよねぇん」
そう言えば、遠くに見えたエスピリトゥ山脈の一部が妙な形になっていた、まさかデイジー叔父さんとアロガンシアの戦った結果だったとは……。
地形がガッツリ変わってしまう程の戦いが繰り広げられていたのかと思うとゾッとするが、その二人の戦いをあの場に限定させていた軍神エヘールシトの結界のような魔法も想像を絶している。
マレッサとパルカがリベルターで使った神位魔法よりももっとすごい物だったらしいし、やっぱり神様って凄いんだな。
「それでねぇん、山を削ってエスピリトゥ大洞窟を消滅させた事で洞窟の向こう側、ジャヌーラカベッサが騒ぎに気付いて軍隊を派遣してきたのよねぇん。ジャヌーラカベッサが誇る竜騎士団ってやつよぉん。あたくしたちに襲いかかってきたあのドラゴンライダーたちもその竜騎士団の一部ねぇん」
「まぁ、あれだけの大騒ぎだったし、セルバブラッソ側はたぶんデイジー叔父さんが関係してる事だろうって思ったかもしれないけど、何も知らないジャヌーラカベッサ側は何事かと思うよね」
「そうよねぇん、説明はするべきだったわよねぇん。その前に端くれとは言え人間如きに使役されるなぞ、竜族の恥と知れって言ってゴッゾヴィーリアちゃんが竜騎士たちの乗る竜に軽く一喝しちゃったのよぉん。それで竜騎士が乗ってた竜たちみんなが恐慌状態に陥って、大混乱。何百という大小さまざまな竜が暴れ回る様はてんやわんやって感じだったわぁん」
それ絶対てんやわんやなんて表現じゃ収まらないような……。
数メートルはある大型の動物が数百も暴れたら、軽く災害レベルだよなぁ。
「その時点で、緋色ちゃんの命に別状はない状態まで持ってきてたんだけど、意識だけが戻らなかったのよねぇん。ゴッゾヴィーリアちゃんは軽い一喝で恐慌状態になった竜たちを見て、情けないって呆れてどこかに飛んで行っちゃったわぁん。念話で緋色ちゃんの事を一応恩人だから、無事を祈るって言ってくれてたわよぉん」
ゴッゾヴィーリア、意外と義理堅い人、じゃない竜のようだ。
また会う機会が合ったら、心配してくれてありがとうとお礼を言わないと。
「なんだか事態が凄くごちゃごちゃしてきた気がする……」
「まだまだよぉん。あたくしたちとしては緋色ちゃんをあんなデコボコした地面に寝かせておくのも気が引けたから、その場に居たジャヌーラカベッサの竜騎士団の子たちに体調が悪い子が居るからお話は後にしてくれないかしらぁんってお願いしたのよぉん。そしたら、騎士団の隊長っぽい子がプンプン怒ってきたのよぉん、もぉ信じらんなぁいって感じ」
「まぁ、あっちからしたらでっかいドラゴンの咆哮を喰らって自分たちの竜が恐慌状態だったから、混乱してただろうし」
「だから、全員一旦埋めて大人しくしてもらったのよぉん」
「んーーーそっかー」
もうそっかーとしか言えなかった。
「埋めた事は一応、悪い事だって自覚はしてたのよぉん。だから、あたくしの罪を償う為に自ら出頭して、あの大きいドラゴンの背中の監獄に緋色ちゃんと一緒に入ったのよねぇん。ここなら比較的安全だし、緋色ちゃんを安静出来る場所だったからねぇん」
自ら出頭しておきながら、俺が目覚めたら脱獄したのかデイジー叔父さん……。
それはそれでどうなんだろうという気持ちにはなるが、まぁデイジー叔父さんだしなぁ。
「あたくしと緋色ちゃんが入る監獄は竜の背中だから、マレッサちゃんとパルカちゃんは相性が悪くて近寄りたくなかったみたい。下手したら消滅する可能性もあったみたいだから、無理しちゃだめよって言ったんだけど、二人ともギリギリまで緋色ちゃんの側に居てくれたのよぉん。ナルカちゃんもねぇん」
そうか、三人とも俺を心配してくれてたのか。
不謹慎ではあるが、ちょっと嬉しい気持ちだ。
「そうそう、緋色ちゃんの荷物は没収されそうになったから、あの監獄に入る前にナルカちゃんに渡してたのよぉん。トシユキちゃんやリリシュちゃん、ルキフちゃんも緋色ちゃんの事は気にしてたのだけど、魔王国の追手がリリシュちゃんの魔力を察知してやってきちゃってねぇん、バタバタとした別れになっちゃたのは残念だったわぁん」
「元魔王って言ってたし、今の魔王と何か折り合いが悪かったりするのかな?」
「詳しい事を聞く余裕もなかったわねぇん。まぁトシユキちゃんも付いていったし、大丈夫だと思うわぁん。あと、最後にフィーニスちゃんなんだけど」
そう言えば、今までの話の中でフィーニスの話が出ていなかった。
たしか、マレッサたちと一緒に居るとデイジー叔父さんが言っていた気がする。
「フィーニスちゃんったら、緋色ちゃんが連れていかれるのにすんごく抵抗しちゃって、精霊王の力をフルで使おうとしたのよねぇん」
「えぇ、それって危なくない?」
「あたくしが止めなかったら、竜騎士団どころか、もう少しエスピリトゥ山脈の形が変わってたわねぇん。一旦気絶させた後、マジックバッグの中で休んでもらう事にしたわぁん。たぶん、今頃はマレッサちゃんやパルカちゃん、ナルカちゃんがフィーニスちゃんにいろいろと説明してくれてるはずよぉん」
「色々あったんだね、あの後……」
「大まかにはこんな感じよぉん。まぁ、他にはエレメンタル・イーターが消えた事で精霊たちが土地に戻ってきたりとか、コボルトとかゴブリン、オークなんかの魔物たちが空白になった土地を縄張りにしようと大挙してやってきたり、精霊狩りがエレメンタル・イーターを捕まえる為に精霊使い集団を連れてきたり、世界の元素が乱れた影響なのか謎の存在が空間を歪めてやってきた事くらいかしらねぇん。そこそこに賑やかだったわぁん」
「え、それはかなりと言うか、とんでもなく大変な事なんじゃ……」
あの後ホントに色々あったようで凄く気にはなったのだが、これ以上は明日に差し支えると言われてしまった。
続きを聞きたかったのだが、次の瞬間にはデイジー叔父さんはスヤスヤと寝息をたてていた。
いや、すんごい気になり過ぎて寝れないんですけど!?




