159・あの後、何があったのかって話
ジャジャや途中から目覚めた仲間の盗賊たちから名も無きダンジョンの詳しい話なんかを聞いている内に思ったよりも時間が経っていたようで、もう日が落ちて辺りは暗くなっていた。
今からジャヌーラトーロに向かうのはちょっと危ないかもしれない。
ジャジャたち以外の盗賊であったり、ドラゴンライダー達であったりに見つかると厄介だ。
デイジー叔父さんがいる以上大した問題ではないのかもしれないが、避けられる面倒事は避けるに越した事はない。
地下ならあのドラゴンライダー達からも隠れられるだろうし、ジャジャからの申し出もありこの仮拠点に泊まらせてもらう事にした。
「デイジー姐さん、この草花煮込みなんかめっちゃ美味いッス!! すげーッス!! いつものえぐみとか青臭さが全くなくて、なんかこうスゲーッス!!」
「干し肉も入ってて、美味すぎて涙が出てくる!! いつも飲んでる草花煮込みなんかただの緑色の汚水だ!!」
「今まで生で食ってた草も、この酸味の効いたサッパリしたタレがめちゃくちゃ合っててもうなんか凄くすげー!!」
「この焼いた卵もふっくらふわふわで美味すぎる!! もうスゲー!!」
この盗賊たち語彙力が酷い。
泊まらせてもらう代わりに俺とデイジー叔父さんが晩御飯を作ったのだが、好評なようで何よりだ。
こうも美味い美味いと言ってもらえると作った甲斐もあったと言う物。
ジャジャとデイジー叔父さんが倒した盗賊の他にも、釣りやキノコなんかを取りに行っていた仲間もいたらしく、盗賊団全員で二十名にもなり、なかなかの人数だった。
ジャジャが仲間たちに俺たちの事をいい感じに説明したらしく、反発などは特になかった。
手持ちの食料をそれなりに使ってしまったが、まぁ大丈夫だろう、たぶん。
宴会、と言うほどでもないが賑やかに騒ぎつつ晩御飯を終え、寝床を整えてダンジョン攻略に備える。
「では、あっしは別の部屋におりやすんで、もし何かありやしたら呼んでくだせぇ。逆に何かあったら、報告しやすので。じゃ、明日はよろしくお願いいたしやす」
「わかりました。じゃ、おやすみなさい」
「おやすみぃん」
ジャジャはペコリと頭を下げて扉を閉めた。
枕元にあるランプの火を消し、真っ暗な地下で薄い布団にくるまる。
明日は明日で忙しくなりそうなので、聞くなら今聞いておいた方がいいかと思い、俺はあの後何が起きたのかを聞く事にした。
「ねぇ、デイジー叔父さん。あの後、俺が気を失った後どうなったの?」
「そうねぇん。あたくしもアロガンシアちゃんとの戦いがあったから事細かに全てを把握してる訳じゃないのよねぇん。あの時、緋色ちゃんは目から鼻から口から血を噴き出したのよぉん。それで服が血塗れになったから、後々着替えさせたんだけどねぇん。パルカちゃんの慌てようったら見ていられなかったわぁん。緋色ちゃんが死んで冥域に行くくらいなら自分で死なせて魂籠で永遠に過ごさせる、ってちょっと落ち着かせるのが大変だったわねぇん」
「そ、そうなんだ」
パルカはたまに行動が無茶苦茶な時がある。
なんでそんなに取り乱したのだろうか、パルカはいつも冷静沈着……いやそうでもないな、時々変な事言ってたし。
「マレッサちゃんの見立てではあの日、一日の間だけで大量の信仰を捧げ過ぎたせいだろうって事らしいわぁん。緋色ちゃんのその強い信仰は勇者特権の影響だろうって。勇者特権の過剰な発現は命に関わる事もあるそうよぉん。今後は気を付けた方がいいわねぇん」
「そっか。……でも信仰のし過ぎで死にかけるって言うのも変な話な気が」
勇者特権、召喚された勇者に備わっている特殊なスキル。
今まで聞きそびれていたが俺の勇者特権ってなんなんだろう、前にパルカが変なスキル、みたいな事を言っていた気がする。
後で合流したら尋ねてみよう。
「実際その時の緋色ちゃんは危なかったみたいねぇん。魂が冥域、この世界の死後の世界かしらねぇん、そっちに引っ張られてたそうよぉん。あたくしとマレッサちゃん、パルカちゃんにナルカちゃんが協力して、緋色ちゃんの身体の再生と魂の引き上げと定着なんかを頑張ったから、今緋色ちゃんは生きているのよぉん。あとでお礼を言ってあげてねぇん」
「うん、それはもちろん。デイジー叔父さんもありがとう」
「ウフフ、どういたしましてぇん。なんとか緋色ちゃんの一命を取り留めたんだけれど、ここからちょっと面倒な事になっちゃったのよねぇん」
「面倒な事?」
「あの時、あたくしとアロガンシアちゃんとの戦いの被害が広がらないように結界を張ってくれてた子が居たのよぉん」
「そう言えば、全力で暴れてたらマレッサとパルカの使った神位魔法より凄い魔法が展開されったって言ってたね」
「そうそう、そうなのよぉん。それで、その魔法を使ったのは軍神エヘールシトちゃんって子とその部下の神兵たち、あたくしたちをエスピリトゥ大洞窟まで運んでくれたリディエルちゃんたちが全員で張ってくれた魔法だったみたいなのよねぇん。緋色ちゃんが倒れちゃった後、アロガンシアちゃんたら、興が削がれたとか言って一旦神域で体を休めてくるって言って、近づいてきていたエヘールシトちゃんと神兵ちゃんたちに絡んでどこかに消えちゃったわぁん。ちょっとお礼を言いたかったのに残念だったわぁん」
「なんで軍神エヘールシトって神様が地上に来てたんだろ。リディエルさんとかが応援を頼んだのかな?」
「たぶんなんらかの理由はあったんだろうけど、そう言うのを聞く前にアロガンシアちゃんが連れて行っちゃったから分からないわねぇん。あ、面倒な事って言うのはこれからよぉん。もう少し続くけど大丈夫、緋色ちゃん?」
少し、眠気が来ているが、軍神が近づいてきてたって事は軍神はたぶん何かしら言いたい事があったんだろう、でもアロガンシアのせいで会話もなにも出来なかったから、もしかしたら後々デイジー叔父さんの元にやってくるかもしれない。
面倒な事になりそうな気はしなくもないが、それはそれだ。
俺はまだ、何故竜の背中に建てられた監獄で寝ていたのかとかを聞けていない。
「大丈夫、今日はまぁ色々あったけど、まだそこまで眠くはないから」
「そう? わかったわぁん、じゃあ続きを話すわねぇん」
俺は真っ暗な部屋の中、襲って来る眠気を気合で我慢するのだった。




