158・盗賊たちの事情って話
盗賊初心者であるジャジャの案内で盗賊団の拠点に行く事に。
しばらく歩き、岩肌の出ている場所に辿り着くとジャジャはある場所で数回地面を踏んだ。
それが合図だったのかは分からないが、ガコンと岩肌の地面がズレて、地下に続く穴が姿を現した。
梯子で降りるようだが、気絶しているほかの盗賊たちはどうしたものかと思ったのだが、デイジー叔父さんは普通に抱えたまま落下していった。
空の上から落ちても無傷だったのだ、この穴が空より深い事はないだろうし問題はないはずだ。
多少アワアワしているジャジャを無視して俺も穴の中に入った。
最後に穴に入ったジャジャが何か壁を触って操作すると、またガコンと音がして穴がふさがった。
真っ暗になってしまったが、まぁ降りるだけだしいいかと、目が慣れるのを待たずに梯子を降りていく。
真っ暗な中、湿った土の匂いとカサカサという虫か何かが動き回る音が響く。
逆に明かりが無い方が変なのを見ないで良かったのかもしれない、などと思っていると底の方が明るくなっているのに気付いた。
既にデイジー叔父さんは奥に移動しているよう姿は見えない。
ジャジャも降りてきて、こちらへと言って奥にさっさと行ってしまったので俺は慌ててジャジャの後を追う。
少し進むと、簡易的なテーブルや椅子、布のかけられた大きな木箱が乱雑に置かれた空間に辿り着いた。
木箱の上にはデイジー叔父さんが運んでいた盗賊たちが寝かされている。
当のデイジー叔父さんは椅子に座って、紅茶の準備をしていた。
「ようこそおいでくださいやした、ここがあっしらの仮拠点でございやす」
「結構広いんですね、って仮なんですか?」
「へい、お願いした身とは言え、さっき会ったばかりの人を本当の拠点につれてくってのは、さすがにはばかられるもんで勘弁してくだせぇ。とは言え、ここは数ある仮拠点の一つ、敵をやり過ごす時には便利なもんなんですぜ」
まぁ、言われてみれば確かにそうだ。
これでもし、俺たちがこの国の兵士だったり盗賊討伐の依頼を受けている冒険者だったりしたら、拠点ごと抑えられて終わりだっただろう。
盗賊初心者の割にしっかりしているな、と思ったが盗賊初心者なのにこんな仮拠点をいくつも持っていると言うのはちょっと不思議な話ではある。
たしか、二日も飲まず食わずで今日が初盗賊だと言う話だったが、こんな仮拠点をいくつも用意していると言うのは、なんだかチグハグな印象を受けた。
ただ単純に心配性で用意周到だったと言う事なのかもしれないが。
「紅茶を淹れたわぁん、まずは喉を潤してから詳しいお話をしましょ。お話のつまみになるような物はこちらで用意した方がいいのかしらぁん?」
「あぁ、そいつぁ助かりやす。申し訳ねぇですがお客人に出せるような食料は底をついてやしてね。お客人にそこら辺で取った草とか花で作ったクソ不味い草花煮込みなんて食わせる訳にゃ行きませんし、すいやせんねぇ。もう少し寒い時期ならコッケーベリーとかが採れるんで出せたんですがね」
「お仲間さんの分も用意しておくわぁん。目覚めたら食べるといいわよぉん」
「デイジーちゃん様、申し訳ねぇ。ありがたくちょうだいいたしやす」
ジャジャはデイジー叔父さんの出した紅茶とお茶請けの焼き菓子をあっと言う間に平らげ、ふぅーっと一息ついてから、本題であるダンジョン攻略の話をし始めた。
「あっしらだって、本当は盗賊なんてしたくはねぇんですぜ。ダンジョンを攻略するには何日もかかるんで、食料だとかテントだとか、とにかく色んな物資が必要なんでさぁ。ダンジョンの主を倒せば宝物庫への道が開くんで、攻略さえ出来れば元は十二分に取れるんですが、その準備をする金も攻略する実力もねぇのが情けねぇですがあっしらの現状」
「あの姿が見えなくなる魔法使えばどうにかならないんですか?」
「ダンジョンの浅い階層の魔物なら、あっしらでもなんとか不可視の魔法でなんとかなるんでやすが、下に行くにつれて魔物はその強さを増していきやす。ただ姿が見えないだけじゃあ、どうにもできやしやせん。それに浅い階層の魔物の素材なんてそこらじゅうに出回ってて、売っても安い、その上あっしらは日陰者なもんでまっとうなギルドだとか素材屋は買い取りしてくれねぇんでやす。裏ルートで素材を買い取ってくれる業者はあっしらの足元みやがるんで、命がけで魔物を倒しても、ガキの小遣い程度しか稼げねぇ。そんなの酒だの肉だの買ったらあっと言う間になくなっちまう。にっちもさっちもいかねぇってんで、ここらで一気に稼ごうとマジックバッグなんて持ってて金持ってそうだったデイジーちゃん様やヒイロ坊ちゃんを狙った訳なんでさぁ」
「マジックバッグ持ってるだけでお金持ってる風に見えるもんなの?」
「そりゃあもちろんでさぁ。安い物でも金貨三枚はくだらねぇ。そんなマジックバッグを特に守りの魔法もかけねぇで持ち歩くなんざ、よっぽどのマヌケか取られてもまた買える金持ちだけですぜ」
そう言えば金貨一枚で十万円くらいの価値があるんだったか……。
ジャジャの言葉から察するに、マジックバッグは普通の人がポンと買えるものではないのだろう。
今度マレッサ辺りに俺のマジックバッグに守りの魔法でもかけてもらった方がいいかもしれない。
「ダンジョンを攻略出来れば、まとまった金が手に入る。そうすりゃあ、この国を出て別の国でまっとうな職について生きていく事も出来るって訳でさぁ。ダンジョンの場所とダンジョン内の案内、ダンジョンの中には罠もたんまりありやすが、あっしらなら罠の解除や荷物持ちも出来やす。取り分は五対五、いや七対三でも構いやせんので、どうかダンジョン攻略をお手伝いしてくだせぇ!!」
そう言って、ジャジャは椅子から降りて、また土下座をした。
俺はすでに助けると言っているので断る理由は特にない。
そのダンジョンがどんな場所かは分からないが、まさかエレメンタル・イーターみたいな竜だの精霊だのが出てくる事はさすがにないだろう。
俺自身、戦う経験を積みたいというのもある。
「最初に言ったじゃないですか、いいですよって。だからそのちょっとハゲてる頭を上げてください」
「うわ、気にしてる事さらっと言いやがったこの坊ちゃん!! 人の心とか無いんでやすかッ!?」
しまった、つい目に入った情報が口からするっと出てしまった。
「あぁ、すみません、つい。で、そのダンジョンってどんなダンジョンなんですか?」
なんとも複雑そうな表情を浮かべるジャジャは立ち上がって、木箱から一枚の地図を取り出し、テーブルの上に置いた。
「低ランクの魔物が闊歩している比較的安全なダンジョンでして、あっしらが見つけた未踏破なダンジョンなもんで、名もついちゃあいやせん。この地図はそのダンジョンの宝箱から手に入れた物で、ダンジョン内を階層ごとに表示してくれる優れもんでやす。これがあるからあっしらでもある程度は安全に探索できるんでさぁ」
俺は思った。
その地図とダンジョンの情報を売ればそれなりの金が手に入るのではないかと。
まぁ、それがどの程度の価値になるかは分からないし、ジャジャたちがそうしなかったのはその方が得があると言う事なのだろう。




