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156・不可視の存在って普通は怖いよねって話

特に整備のされていない道を二時間程歩いた後、休憩がてら大きめの岩に登ってジャヌーラカベッサを見回してみた。

見渡す限りほぼ平野である、さすが平野の国。

遠くに見えるあの山々はエスピリトゥ山脈だろうか、一部分が妙にぽっかりと削れているのが見える、そこだけ切り取られたみたいだ。

まぁ、異世界だし変わった地形があってもおかしくはない。

ずっと遠くに大きな街並みが見えた。

方角的にアレがジャヌーラトーロのはずだ。

望遠鏡とかあれば便利なのにと思ったが、遠見の魔法があるからそう言った物は発達しなかったのだろうか。

たしかマレッサは遠見の魔法は初歩中の初歩、八等級以下のザコ魔法とか言っていたっけ。

子供でも出来るらしいので、俺も習えば使えたりするかもしれない。

そんな事を思いながら木から降りる。


「まだまだ遠いみたいジャヌーラトーロ」


「そうみたいねぇん。あたくしの力がもう少し戻れば緋色ちゃんを抱えて一気に移動する事も出来るんだけど、アロガンシアちゃんとの戦いが致命的だったわぁん。あんまりに凄すぎて、あたくしったらかなり無茶しちゃったのよねぇん。しばらくはセーブモードで力を抑えておかなきゃだわぁん」


セーブモードの状態であんな空高くから地面に落下して無傷なのかデイジー叔父さん。

まぁ、デイジー叔父さんだし、セーブモードで弱体化したと言っても常識から外れているのは

変わらないようだ。


「いつも無理させてごめんデイジー叔父さん。たまにはのんびり歩いて行こう」


「心配させてごめんなさいねぇん。そうねぇん、たまには歩いて行きましょ」


俺とデイジー叔父さんは休憩を終えて、またジャヌーラトーロに向けて歩き出した。

今の時期は比較的涼しいようで、なんとも過ごしやすい気候だ。

セルバブラッソはもう少し湿度が高かった気がする。

セルバブラッソからそんなに離れていないはずなのだが、こんなにも気候に変化があるものなのだろうか、もしかしたら守護する神によって国の気候も変化したりするのかな? 今度マレッサに聞いてみよう、等と思っていたら唐突に地面に何人も人が突き刺さっていた。

訳が分からないが、事実なのだからどうしようもない。


「地面に刺さってるから、デイジー叔父さんがやったの?」


「そうよぉん、不可視の魔法かしらねぇん。ちょっと前から付いてきていたわぁん。武器に手を伸ばしたから、周りに居た子たちはちょっと埋めちゃったのよぉん」


不可視の魔法か。

周りが平野だから遮蔽物はほとんどない、誰かが近づいて来たらすぐにわかると思っていたが、なるほど、不可視の魔法なんて物があったら隠れる必要もないのか。

精神的な死角を突かれた思いだ。


「盗賊とか野盗の類かな?」


「あらやだぁん、この子たちちょっと臭うわぁん。お風呂にはちゃんと入らなくちゃだめよぉん。不衛生じゃなぁい」


「盗賊っぽい人たちにそういう衛生面について言っても聞いてくれないと思うけどなぁ」


そんなどうでもいい事を話しながら道を進む。

その時、岩陰から急に人が現れ、土下座をしてきた。


「そこ行くお二方!! かなりの実力者をお見受けいたします!! どうかあっしらを助けちゃあいただけませんか!!」


「いいですよ」


「確かにいきなりこんな事を――って、え?」


「何をすればいいんですか?」


ちょっと臭うし、率直に言って汚い恰好をしている男は俺の返答に何故か困惑していた。

どうしたのだろうか?


「いやいやいやいやいや、ちょっと坊ちゃん、なんで見ず知らずのあっしのお願いを即断即決で引き受けるの? おかしくない? そちらのかなり、いや、とんでもなくお強そうな旦那、あんたのお子さんかい? 駄目だよ、こんな怪しい奴の言う事を疑うそぶりも見せずに引き受けるようお人好しな子に育てちゃ。言っちゃあ悪いが悪い奴にコロっと騙されて食い物にされちまうだけだ。お優しいのはいいが、いつか必ず痛い目に合いますぜ?」


何故、俺は見ず知らずのおっさんにお人好し呼ばわりされて軽くディスられているのだろうか。

デイジー叔父さんは楽し気にケラケラと笑っている。


「ウフフ、そこが緋色ちゃんのいい所なのよねぇん。ちなみにあたくしの自慢の甥っ子よぉん、緋色ちゃんが助けると言うならあたくしはそれに是も否もなく賛成するわぁん」


「あぁ、甥っ子さんだったんで。こいつぁ、失敬」


「で、何を助けてほしいんですか?」


俺は少し語気を強めて再度尋ねると、汚いおっさんは困惑しつつも土下座の状態まま話を続けた。


「へ、へい。ホントにいいんですかい? まぁ、その方が助かりますが……。とりあえず、今そこに埋まってるのはあっしの仲間でございやす。本来はジャヌーラトーロで警備兵の様な事をやっておりやした者たちばかりでございやす。それで、まぁ、色々とありまして、素行不良だの上司と折り合いが合わなかっただの臆病者だのと言われて追い出された口で、ならず者の烙印を押されちまった以上、まっとうな職にもつけず、かといって闇ギルドに入って悪事に手を染めるのも抵抗がある。どうした物かと、ずるずる暮らしていくうちに貯金もなくなって、ここ二日は飲まず食わず、風呂にも入れずで、已むに已まれず盗賊になろうって決めて、そして、今日初めて旅人を襲おうとして、この通りあっさり返り討ちにって訳なんでさぁ」


「つまり中途半端なクズの集まりって訳だ」


「うわ、旦那、ちょっとこの坊ちゃん、口が悪いんじゃあないですかい? あっしは心を抉られちまいましたぜ?」


「正直者なのよねぇん。神様にもこんな感じだから、たまに怒られてたわねぇん」


「そいつぁ、筋金入りだ。どうしようもねぇや。坊ちゃん、建前ってのをちゃんと使わねぇと、人間関係上手くいかないぜ?」


その人間関係が上手くいかなくて盗賊やる所まで落ちた人にそんな事言われたくはない。

とりあえず、ジャヌーラトーロで警備兵をしていて、なんやかんや首になって、定職に着けずに盗賊になったというのは分かった。

それで、そんな盗賊が何を助けてほしいのだろうか。


「前置きが長くなりやした、あっしがお助け願いたい事なんですが、どうかダンジョンの攻略をお手伝いしちゃあくれやせんか?」


「ダンジョン攻略の手伝い?」


ダンジョンという単語自体はもちろん知っている。

モンスターの住処でお宝なんかがある場所の事だ。

なんで盗賊団がダンジョンの攻略をしたいのだろうか? 今日が初盗賊だったらしいのでちゃんとした盗賊団と言っていいのかは分からないが。

ダンジョンのお宝目当てなのかもしれない。

手伝ってくれと言うなら断る理由は特にないが、マレッサたちとの合流は少し遅れてしまう。

まぁ、謝れば許してくれるだろう、たぶん。


「条件があります。たぶんダンジョンのお宝が目当てなんでしょうけど、それを手に入れたらきちんとした生活に戻って盗賊からはきっちり足を洗ってください。それを約束していただけるなら、お手伝いします」


ちらりとデイジー叔父さんを見ると、デイジー叔父さんはニッコリと笑って頷いてくれた。

たぶん、今回もデイジー叔父さん頼みになるとは思うがダンジョンは魔物がたくさんいる所だ、弱い魔物相手なら俺でもなんとか立ち向かえるかもしれない。

いつまでも役立たずのままじゃあ恰好つかないし、少しでも戦いの経験をしておくのは悪い事じゃあないはずだ。

装備類は何もないけど、ダンジョンに入る前に盗賊の人に借りればいいだろうか。


「へい、ダンジョンさえ攻略出来れば、盗賊なんてする必要もございやせん!! では、まずあっしらの拠点にご案内いたしやす。それで、なんですが……」


「まだ何かあるんですか?」


「できれば、仲間を引っこ抜いていただけると助かるんですが」


俺とデイジー叔父さんは埋めた盗賊たちを引っこ抜き、そのまま担いで盗賊の拠点に向かう事にした。


「あぁ、そうだ。俺は緋色って言います。こっちはデイジー叔父さん」


「ラブリーキュートマッシブビューティーエンジェル、デイジーちゃんよぉん」


バチーンとウィンクをするデイジー叔父さんに軽く体をビクつかせながら、盗賊の人は頭を下げて名前を教えてくれた。


「ヒイロ坊ちゃんにデイジーちゃん様ですね。あっしはジャ……えーっと、ジャジャと申しやす。よろしくお願いしやす」


「ジャジャさんですね、こちらこそよろしくお願いします」


ジャジャは何故かフーっと大きく息を吐いて額の汗をぬぐっていた。

どうしたのだろうか。

ともあれ、俺たちは軽く整備されただけの街道を外れて、盗賊の拠点とやらに向かうのだった。

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