155・所変われば品変わるって話
「やっぱり、国が変わると置いてる品も結構変わるんだ」
俺は店内の品物を見ながら自然とそう口にしていた。
セルバブラッソの店では置いてある品の大半は木材や石なんかを加工した物が多かった。
ドライフルーツみたいなのも置いていたっけ。
食材は野菜や果物、虫とかが多かったがジャヌーラカベッサでは牧畜が盛んと言う事もあるのか、ミルクやチーズなんかの乳製品や動物の毛皮、卵に羽なんかが売られている。
簡易テントもあって、結構丈夫そうだ。
「時間があれば、もっとじっくり見たいんだけどねぇ」
「所変われば品変わるってやつねぇん。食料はともかく、水は少し離れた所に地下水の湧いている池があるみたいよぉん。あとで汲んでいきましょ。真水を浄化する魔法道具も売ってるみたいだし、買っておきましょうかねぇん」
「なら、買うのは食料とその魔法道具だけでいいかな。マレッサが肉を食べたがるだろうからお肉とパルカの為に果物と野菜、ナルカは何でも食べるからいいけど、フィーニスは何が好きなんだろ? 会った時に聞いておかないと」
そんな会話をしながら俺とデイジー叔父さんは買う物を決めていく。
店主の人が何だか不思議そうな顔で俺たちを見ているが、どうしたのだろうか?
「えぇと、その、ジャヌーラカベッサでは牧畜が有名でして。それにちなんだ商品が多く販売されております。コッケーのミルクにモーウの卵なんかはどこの集落でも生産されてまして、この町ではヤギオから取れるヤギオのミルクや角、毛の加工品など取り揃えております、はい。他にもハクチョの羽は袋に詰めればフワフワの枕や寝具に早変わりいたします。そちらの肉は子を産まなくなったブヒィンを潰した物で少々硬いですが、ブヒィンの超煮込みはお肉が口の中でとろけてしまうほどに柔らかくとても美味しい料理ですよ。色んなレシピを記した本もございますので、御一考ください」
「へぇ、そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
店主が恐る恐ると言った感じではあったが、色々と商品の説明をしてくれた。
どうやら外で見た牛っぽいのがコッケーでニワトリっぽいのがモーウか、なんかややこしいな。
店主はわざわざ外に居る動物を指差して、どれがどの動物なのかも教えてくれた。
ヤギオはなんかふわふわの茶色い毛で覆われてるおり、色は違うけど見た目は羊っぽい。
ブヒィンは二足歩行の豚、なんかちょっとキモイなアレ。
ハクチョとかいう鳥は四枚の翼を持つ鳥で、なんともファンタジーだった。
店主の人がわざわざ説明してくれたのだし、レシピ本も買っておこう、料理の幅が広がるのは良い事だしな。
その時、俺の目に茶色い煎餅のような形の物が目に入った。
なんだこれ? 食べ物なのかな。
ただ、それにしては妙に草の繊維質っぽい感じの物が混じっている様に見える。
俺が不思議そうに見ているのに気付いたのか店主がそれの正体を教えてくれた。
「あぁ、それはヤギオとコッケーの糞を混ぜて、伸ばして数日乾燥させた物です。ジャヌーラカベッサでは国土のほとんどが平野の為、燃料となる木材があまりなく、油は値が張ります。ですので、タダで手に入るヤギオやコッケーの糞を乾燥させた物を木や油の代わりに燃料として使っているのです。臭いもほとんどなく火持ちも良い上に、軽くて持ち運びもしやすく便利ですよ」
「へぇ、そうなのねぇん。これも少し買っておこうかしらぁん」
糞って燃料になるんだ、まぁヤギオもコッケーも草食動物っぽいし元が草なら燃えやすいのかな。
時間があまりないと言っていながら、少し長居してしまった。
まだ、ドラゴンライダーは来ていないようだが、早い所清算してこの町を離れた方がいいだろう。
「これくらいあれば、しばらくは大丈夫かな? 店主さん、全部でお幾らですか?」
「あ、はい、えぇと、その全部で銀貨ニ十六枚と銅貨四十枚になりますが……」
「分かったわぁん、銀貨ニ十七枚からでお願いねぇん」
「はい、お釣りを用意しますので、少々お待ちを」
店主の人がお釣りを用意している間に俺は買った物をデイジー叔父さんのマジックバッグの中に詰め込む。
俺の持っていたマジックバッグは今はナルカが持っているらしく、サイフやナイフ、太陽の涙石に守りのアミュレットも全部マジックバッグに入れてあるそうだ。
つまり、今の俺はただの一般人と言う事になる。
デイジー叔父さんがいるから問題ないだろうけれど、なんで俺が持っていた物をマジックバッグに入れてナルカが持っているのだろう?
もう少し落ち着ける場所に移動したら、聞いてみよう。
「お待たせいたしました、銅貨六十枚になります。ご確認を」
「ありがとう~、あとお騒がしてしまってごめんなさいねぇん。すぐに出ていくから、安心してちょうだいねぇん」
「い、いえ、まいどありがとうございました」
お店を後にして外に出たが、まだまばらに人がこちらをチラチラと見ている。
空から降ってきたよそ者なのだから、まぁ仕方ない。
いきなり襲われなかっただけマシだろう。
「じゃあ、行こうかデイジー叔父さん。確かジャヌーラトーロだっけ?」
「そうよぉん、首都であるジャヌーラトーロは季節に関係なく移動しないってプナナちゃんが言ってたから、マレッサちゃんたちはそこで待ってるはずよぉん」
近くに居た人にジャヌーラトーロの場所を聞き、俺とデイジー叔父さんはこの町を後にした。




