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152・夢から覚めたらって話

「まぁ、なるべくしてなった、と言うべきであろう。気づいたか小さき者。おれの事は認識出来ているな? まずは自己の認識をせよ。名を名乗る誉をくれてやる」


俺の名前?

頭がぼんやりとして、どうにもはっきりしない。

しかし、ここはどこだ? なんでこんな所に居るんだ俺は?

ん、俺は一体、何だったっけ?


「腑抜けめ。狂言回しが居なくては世界は進まぬぞ、愚か者が。思い出すがよい、この世界に勇者として召喚され、叔父であるデイジーに助けられ、ここまでやって来た、さぁ貴様は誰だ?」


この世界に勇者として召喚……。

デイジー叔父さん……。


「俺は、緋色。デイジー叔父さんの甥、マレッサやパルカ、沢山の人に助けられて今まで生きていられたただの人間……」


不意に意識がはっきりとした、自分の輪郭がくっきりしたとでも言うのか、何とも不思議な感覚だった。


「よい、ではまず説明してやろう。心して聞くがよい。ここは貴様の見ている夢だ、そしておれはアロガンシア本人ではない。そこは間違えるなよ。本物がわざわざ貴様程度の夢の中に入る訳はないし、勝手に夢見ても殺す。肖像権の侵害というやつでな」


「り、理不尽な……。どんな夢を見るかなんて分かる訳ないだろうに。っていうか夢の中? ここが?」


「そうだ、貴様は倒れた。二日程昏睡状態が続いている。デイジーや死の精霊、死の神の尽力でか細い糸を手繰り、ようやく夢の中ではあるが意識が戻った訳だ。そんな些事はどうでもいい。何故、おれがここにいるかが重要だ。記憶に刻めよ小さき者。おれは本物からお前宛の伝言だ」


「伝言? どんな伝言なんだ?」


おれの姉君たちについてだ。一度しか言わぬゆえ、聞き逃すなよ」


「アロガンシアの姉君って、グロトとかの大罪神の事か。わかった、しっかり覚えておくよ」


「当然だ。ではまず大罪神についてだ、人類の持つ罪より産み落とされた七柱の存在、それが大罪神だ、そして人類の持つ罪は七つ、嫉妬、怠惰、憤怒、色欲、強欲、暴食、そしておれである傲慢。大罪神はこれらの七罪を権能として宿している。その力は他と隔絶していると心得よ。まぁ、もっとも強く、もっとも偉大なのはおれではあるのだがな」


「はぁ、さいですか……」


おれの自慢の姉君たちだ、おれ以上に変わり者で偏屈である。姉君たちに比べればおれなど実に謙虚で常識的な心優しき存在であるわ」


アロガンシアが謙虚で常識的な心優しき存在??

なんだろう、まったく信じられない。

この言葉が真実だとしたら、とんでもなく恐ろしいのだが……?


「そして、姉君たちの名を言って聞かせてやろう。嫉妬のジェロジア、怠惰のトレークハイト、憤怒のラージュ、色欲のルクスーリア、強欲のアワリーティア、暴食のグロトとネリア。傲慢なるおれの名は既に刻まれておるに決まっているので、あえてはぶく。全員を起こし、貴様の信仰を捧げよ。おれが姉君たちの慌てふためく様を見て初めておれを辱めた貴様の大罪は赦されるのだ、心せよ。とまぁ、冗談はさておき」


冗談に聞こえないんだよな、アロガンシアの言う事って……。

というか、何が、どこまで冗談だったのだろうか?


「辱めなどどうでもよい。我ら大罪神は千年以上の眠りについておるがゆえに信仰に飢え、腹が減っている。おれは大罪神の中でも規格外ゆえ、唐突に眠りから覚めたとて、冷静で高貴で、威厳に満ちていたがな」


「ハイ、ソウデスネー」


「うむ。だがおれ以外の姉君たちは恐らく、正気を失っていよう。多少、面倒な事になるだろうがなんとかせよ。まずは暴食なる姉君、グロトとネリアの双子神を探すがよい。暴食の権能が引き合わせてくれるであろう。太陽の涙石におれの傲慢の権能の欠片も込めてあるゆえ、どこに行けばよいかは自然と分かると言う物」


「あぁ、言っておきたいんだが、アロガンシア。俺の目的は元の世界に帰る事なんだけど……」


「些事である。おれの用向きを終えてからにせよ。とは言えだ、大罪神を全員起こす事は必ずや貴様を元の世界に帰す事に繋がると断言しよう」


「はぁ……。まぁ、いっか。袖振り合うも他生の縁って言うし、乗りかかった船みたいなもんだし、分かった、必ずアロガンシアのお姉さんたちを起こすよ。千年以上も離れ離れだったんなら、会いたいよな」


「妙に曲解をするな貴様は。まぁよい。ではこれが最後の伝言だ、耳の穴をかっぽじってよく聞くがよい」


「かっぽじってっていう人初めて見たよ……」


「余計な茶々を入れるな愚か者。改めて、これから先も今までと同様かそれ以上の面倒に巻き込まれるであろうよ。せいぜい足掻き、そして存分に楽しむが良い、以上だ」


「……あぁ、分かった。全力で足掻いて、全力で楽しむよ。ありがとう」


アロガンシアの姿が揺らいで消えていく。

そして、強烈な眠気に襲われ、目を開けていられなくなった。

どうした事だろうか?


「現実で目覚めようとしている証拠だ。夢と現が繋がりかけているのだ。そのまま夢で眠り、現実に目覚めるがよい」


アロガンシアの声がぼやけていき、俺はゆっくりと目を開けた。

太陽の日差しが眩しくて、目をしかめる。


「おはよう緋色ちゃん。気分はどうかしらぁん?」


聞き慣れたデイジー叔父さんの声。

俺はいつも通りに返事をする。


「おはようデイジー叔父さん。悪くない気分だよ」


「それはよかったわぁん。じゃ、脱獄しましょ」


え、今デイジー叔父さんは何て言った?

脱獄?

どういう事?


「よいしょっと、あぁ緋色ちゃんはまだ寝てていいわよぉん。ちょっと揺れるかもしれないけど、我慢してねぇん。あ、説明は後でちゃんとするから、安心してねぇん」


デイジー叔父さんが俺の寝ているベッドを持ち上げた拍子に少し周りの様子が見えた。

どうやらここは牢屋のようだ。

さっき感じた日差しも牢屋の窓から差し込んでいた物だった。

何がどうなってこうなっているのか訳が分からないが、デイジー叔父さんはそんな俺の困惑を気にせず、壁際まで移動して壁に対してデコピンをした。

瞬間、壁が粉微塵になって吹き飛び、壁に大穴が開く。

凄まじい轟音に牢屋の奥の方から何やら大勢の足音と慌てたような声が聞こえてきた。


「じゃ、行きましょっか。お買い物もしなくちゃねぇん」


「デ、デイジー叔父さん、こ、ここ何処なの!?」


後で説明してくれるとは言っていたが、やはり気になるものは気になる。

俺の問いにデイジー叔父さんは壁に空いた穴から飛び出しながら答えてくれた。


「ここは平野の国ジャヌーラカベッサが誇る巨大なドラゴンの背に築かれた脱出不可能と謳われる空飛ぶ大監獄、ペーシモ・カルセルよぉん」


「は?」


そして俺は一瞬の無重力を感じた後、重力のままに凄まじい勢いで落下し始めたのであった。

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