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151・信仰の代価って話

「ふむ、そちらの話は終わったか? ならば次はおれの話だ」


その声にその場に居る全員が警戒を強めた。

周囲ではいまだに激突音が響いており、デイジー叔父さんとアロガンシアはまだ戦っているはずなのに、アロガンシアは俺たちに声をかけたのだ。

どうなっているのか分からない、俺は咄嗟に振り返った。


「チェックよぉん」


「ぬ、初心神しょしんしゃであるおれ相手に遠慮なしか。まぁ、手加減などすれば殺していた所だがな、それに指し方は覚えた、次はないと知れ」


「あはぁん、アロガンシアちゃんってばもうチェスも覚えちゃったのぉん? オセロに将棋に囲碁、メジャー所はだいたいやったかしらぁん。あと何回かやったらあたくしが勝てそうなゲームもなくなっちゃうかもしれないわねぇん。次は麻雀でも用意してみようかしらぁん」


「構わんぞ、なんであれおれは最強なのだからな」


デイジー叔父さんとアロガンシアがなんかチェスをしていた。

何処からか用意したであろうテーブルとイスに座って。

しかも、アロガンシアはいつ着たのか、深紅のドレスを着ている。

テーブルの脇にはティーポットを持っているルキフがおり、リリシュとトシユキもいつの間にか上に来ており、全てを諦めたような何とも言えない虚無顔でデイジー叔父さんとアロガンシアのチェスを見ていた。

いや、訳が分からない、どうなっているんだこれ??


「えっと、デイジー叔父さん、ど、どういう事? リリシュたちもいつの間に??」


俺を始め、他のみんなもポカンとしていた。


「あぁん、緋色ちゃん。無事にフィーニスちゃんを助けられたのねぇん、よかったわぁん。

見ての通り、アロガンシアちゃんとチェスで戦ってるのよぉん」


セットされ直したチェスの駒をアロガンシアが一つ摘み一つ前に進める。


「さて、小さき者。先ほど、このおれの手からよくもなぁ混ざり者の核となる精霊石を奪ったものよ。万死でも足りぬ、その存在欠片も残さずこの世から消し去っても釣りが来る。余りの怒りにおれとした事が我を忘れそうになったわ。だが、ただの怒りならまだしも憤怒はおれの領分ではない。それは憤怒なる姉君の領分だ、傲慢なるおれとて姉君の領分を侵すほど無分別ではないのだ。ゆえに、遊戯にておれの無聊を慰めておるのよ」


アロガンシアの一手を受けて、デイジー叔父さんも駒を進める。


「ちょっと全身全霊で戦ってたら、前にマレッサちゃんとパルカちゃんが使ったあの閉じ込める魔法のもっとすごいのが、展開されたのよねぇん。おかげで何の憂いもなく大暴れ出来たわぁん。誰かは分からないけれど、あとでお礼言わなくちゃねぇん。時間の流れもだいぶん遅くなってたわねぇん。緋色ちゃんたちがどの位の時間かけてフィーニスちゃんを助けたのかは分からないけれど、あたくしとアロガンシアちゃんはほんの二日間ほどぶっ通しで戦ってたのよぉん。さすがのあたくしもちょっとお腹が空いちゃったから、ティータイムがてら色んなボードゲームをして遊んでたのよぉん。あ、ちなみにここに居るあたくしとアロガンシアちゃんは分身よぉん。この結界の外ではまだそのまま戦ってる最中だから、まだ出たらダメよぉん」


「分身なぞ、小手先の匹夫の技なれど、まぁ便利ではあるのは認めよう。あぁ、そうだ、小さき者、貴様の信仰悪くはなかったが、あのような無様を晒させた罪は償わねばならんよなぁ? あれは起き抜けに山盛りの肉料理を無理矢理食わされたようなもの。実に不愉快極まりない、故におれの姉たちを全員起こし、同じ目に合わせねばならない」


アロガンシアに隙を作る為に無理矢理信仰したのは悪かったと思っているが、何故それで他の大罪神たちにも同じ事をする話になるのだろうか、分からない……。


「その件は本当悪かった、ごめんなさい。で、なんでアロガンシアのお姉さんたちにも同じ事をしないとダメなんだ?」


アロガンシアが俺をギロリと睨みつけた。

何か気に障ったのだろうか……。


「おい、デイジー。様を付けぬとは貴様の甥は実に無礼ぞ、礼節すらまともに仕込まれておらんのか」


「アロガンシアちゃんがとってもキュートで可愛らしいからよぉん」


「それならば仕方あるまい。おれの愛らしさは他の追従を許さんからな」


なんだか分からないが、恐らく許されたようだ。

しかし、なんだかんだで大罪神を全員起こす事になってしまった。

断ったら、今度こそ殺されるかもしれない……。

その時、トシユキが俺の側にこっそりやってきた。


「いやぁ、災難ですなヒイロ殿。小生、気の強いロリは好みではありますが、あれはちょっとヤバすぎて無理なんよ。この世界おかしくない? レベルステもカンストしてるはずの小生が手も足も出ない存在多すぎ問題なんよ……」


「はぁ……」


この人、こんなに気安い感じで話してくる人だっただろうか?

そんな風に不思議に思っていたら、トシユキはフィーニスを見て、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「うわ、キモイ笑顔」


「実に率直な言葉で心を抉ってきますなヒイロ殿。しかし、あのメスガキフィーニスたんが助かったのはヒイロ殿のおかげ。その侮辱の言葉も甘んじて受け入れるんよ」


「フィーニスを心配してくれてたんですか? トシユキさん」


「無論。見た目も声も実にメスガキ、それが死に瀕していた時、小生もなんとか助けたいとは思ってたんよ。でも、無理だった。あんなとんでもない奴らが居たんじゃあ絶対に無理だと諦めてたんよ。世界の為なら仕方ないって。でもヒイロ殿は諦めなかった。そこに痺れて憧れてしまった訳なんよね。何より、分からされて若干素直になってるフィーニスたんはいい、実にいい」


よくは分からないがトシユキもフィーニスを助けようとは思ってくれていたみたいだ。

洞窟でリリシュとルキフを助けてたし、いい人なのだろう。


「俺は俺に出来る事をしただけですから。みんなのおかげですよ、フィーニスが助かったのは」


俺がそう言うと、トシユキはニヤリと笑った。


「フフ、、まぁ、そう言う事にしておくんよ。ただ、あの場で最初に動いたのはヒイロ殿だった。それが確かな事実、最初に誰かが動かなきゃ、この結果は得られなかったはずなんよ」


なにか良い事言った的な表情でドヤってるトシユキ。

俺が動かなくても誰かがなんとかしてくれたとは思うんだけどな。


「ト、トシユキ!! 次はまーじゃんとやらを作るのだ!! アロガンシア様をお待たせするでないぞ!! はよう急がぬか!!」


リリシュが慌てた様子でトシユキを呼んでいた。

麻雀を作る、と言っているので、たぶんさっきデイジー叔父さんが言っていたボードゲームだとかはトシユキが作ったのだろう。

慌ててトシユキはリリシュの元に走っていき、魔力を固めて何かを作り始めていた。

ふと気づくと少しずつ、周囲の激突音が減ってきた気がする。

グノーモス爺ちゃんに頼まれた、エレメンタル・イーターの封印の件からなんでこんな事になったのかは分からないが、ようやく、一息つけるなと俺は安堵した。

そして、俺は不意に掌に何かヌルッとした温かい物が当たったのに気付いた。

掌を確認してみるとそれは濃ゆい赤色の液体だった。


「なんだこれ?」


『ん――ッ!? ヒイロ!? どうしたもん!?』


『人間!? 今までこんな事なかったのになんで!?』


俺の様子に気付いたマレッサとパルカが慌て始めた。

デイジー叔父さんも飛び跳ねるように椅子から離れ、唐突に俺をそっと横にした。


「大丈夫よ、緋色ちゃん。ちょっと無理をし過ぎたみたいねぇん」


急に軽いめまいに襲われ、目を開けていられなくなる。

デイジー叔父さんの言う通り疲れが出たのだろうか、今日一日で色々あったからなぁ。

目から、鼻から、口から、何かが垂れているようなそんな感覚を感じながら、俺は意識を失った。

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