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15・楽なお金稼ぎってなかなかないよねって話

「さぁさぁ、みてらっしゃい、よってらっしゃあ~い、自由と退廃の街リベルタ―の腕っぷしに自慢のある男の子たちぃ~、あたくしとこれを賭けて遊ばなぁ~い!!」


比較的人通りの多い場所でデイジー叔父さんはそう大声を上げる。

異世界という普通の人間じゃない種族もそれなりに居る世界の中でもデイジー叔父さんの姿はかなり目立っているようで、デイジー叔父さんの思惑通りに何事かと通りを歩く柄の悪い人たちがデイジー叔父さんに注目し始めた。

そして、デイジー叔父さんが高く掲げる手の中にある光る物を見て、皆の目の色が変わった。

恐らくこれがマレッサが言う所の太陽の涙石だと気づいたのだろう、中には偽物だろうと通り過ぎる者もいたが、大半の人は足を止めていた。

そこかしこでヒソヒソと話し合う姿が見える。


「おい、あれって本物か……?」


「たぶんな。小石程度の大きさでも億万長者になれるっていう太陽の涙石、あんなデカいのは見た事がねぇよ」


「鑑定してみたが本物だ。信じられん……。あんなデカさだと、いくらで売れるのか想像も出来んぞ……」


「あれを売れば一生遊んで暮らせるどころじゃねぇぞ……」


目をぎらつかせ、殺気立つ人たちを前に俺はゴクリと唾を飲む。

賭けの景品にするとは言っていたがデイジー叔父さんは何をするつもりなんだろう。


「あはぁ~ん、ギラギラした視線があたくしに突き刺さるわぁん。んふ、じゃあ条件を言っちゃうわよぉん。制限時間内にあたくしに触れる事が出来たら、これをあげちゃう!! ただし、参加一回につき金貨一枚頂くわよぉん」


金貨一枚の価値はよく分からないが、少々ざわついている所を見ると結構な値段なのではないだろうか。

そう思っていたら、急に周りの人たちが大声で騒ぎ始めた。


「金貨一枚で太陽の涙石が手に入るかもしれねぇってか!! おお、やるぞ!!」


「オレもだ!! オレが先だ、どけ!!」


「いいや、こっちが先だ!! 邪魔だ!!」


誰が先にデイジー叔父さんに挑むかで軽く乱闘が起きている。

デイジー叔父さんはその様子を見て、なぜか上機嫌だ。


「あらあらぁん、あたくしを取り合って男の子たちが乱闘だなんて!! あぁ~ん、デイジーこまっちゃあ~う!! でも、いいのよ!! あたくしってばそれくらい魅力的なんだもの!!」


くねくねと身をよじるデイジー叔父さんの姿に乱闘騒ぎをしていた人たちの動きが一瞬止まる。


――お前じゃねぇよ、その太陽の涙石だよ――


たぶんそんな事を思っていたのではないだろうか。


「うふぅ~ん、でも安心してちょうだぁい。全員に順番は回ってくるよぉん。だってあたくしは高嶺の花、誰もあたくしに触れる事なんてできやしないんだからねぇん」


不意に回りにいた人たちの雰囲気が変わる。

デイジー叔父さんのこの言葉が彼らのプライドを刺激したのか、欲望塗れのぎらついた目が殺意すら感じるほど冷めた物に変化していた。


「へぇ……ずいぶんな自信だなぁおい、ちょっとオレたちを舐めすぎじゃあないか?」


「リベルタ―にやってきたばっかりでここのレベルを知らねぇんだな」


「いいぜぇ、手早く終わらせて身包み剥ぐだけにしようと思ってたが、それだけで済むと思うなよ」


「おい、おいらが一番手だ、売りさばいた後に分け前くれてやるから、おいらにバフかけろ」


デイジー叔父さんと同じくらいの巨体の男が不敵な笑みを浮かべながら、人込みをかき分けてデイジー叔父さんの前までやってきた。

右目に眼帯をしているその男はゴキゴキと指を鳴らして、腕を大きく回す。

周りにいる人たちの何人かが眼帯の男の方に手を向けて何か唱えると、眼帯の男の身体が淡い光りに包まれ出した。


「制限時間内にあんたに触れるってのが条件なんだろ? 別にこういった補助魔法が反則なんて言わないよな? あと殴ったり蹴ったりもアリでいいんだよな?」


そう言って眼帯の男はデイジー叔父さんに向かって金貨を一枚親指で弾いて渡した。


「えぇ、構わないわぁん。制限時間はこの砂時計の砂が落ち切るまでよぉん。マレッサちゃんお願いねぇん」


『神使いが荒いもんねぇ。まぁいいもん。こぁんな肥溜め以下のゲロカススープみたいな場所はとっとと離れたいもん』


マレッサが何かの魔法で砂を巻き上げ、宙に浮いた砂の塊の底からさらさらと砂が落ち始める。


「さぁ、いつでもいいわよぉん」


「大怪我しても後悔するなよ!!」


デイジー叔父さんのほぼ目の前から眼帯の男が大振りの拳を繰り出す。

凄まじい一撃がデイジー叔父さんに迫るがデイジー叔父さんに焦った様子は微塵もない。


「あらぁん、いいパンチねぇん」


そんな事を言いながらヒラリと上半身をひねって簡単にパンチをかわす。


「ひゅー、やるじゃねぇか!! じゃあこれはどうだ!! スキル、オーバーリミット!!」


急に眼帯の男の筋肉が更に盛り上がり、デイジー叔父さんを越えるほどの巨体となった眼帯の男がニヤリと笑う。

凄まじい筋肉の圧、デイジー叔父さんも心なしか見とれていた。

さっきと比べられない程のスピードの拳の連打がデイジー叔父さんを仕留める勢いで放たれる。

目にも止まらぬ拳の猛攻、俺なら一撃食らっただけでも即あの世行きになりそうな力が込められていそうな凄まじい攻撃を前にデイジー叔父さんはなおも笑顔だった。


「くぅッ!! バフ足りてねぇぞ!! もっと寄越せ、分け前が欲しくねぇのか!!」


何十、何百と繰り出した拳がかすりもしない事に業を煮やしたのか、眼帯の男は周囲の人込みにそう叫んだ。


「分け前弾んでもらうぞセヴェリーノ!! やっちまえ!!」


「そうだそうだ、そんなやつ叩きのめしちまえ!! リベルタ―の恐ろしさを教えてやれセヴェリーノ!!」


更にバフの魔法が眼帯の男、セヴェリーノに次々とかかっていく。

砂は半分程落ちているがまだ半分残っている。

あと三十秒ほどだろうか、俺はハラハラしながらデイジー叔父さんを見守った。


「おっしゃぁアアアア!! 上げていくぜぇえええ!! スキル、ライトニングフィスト!!」


セヴェリーノの声と共に拳が光り出し、次の瞬間、デイジー叔父さんに向かって閃光が走った。

その拳はもはや目に映る事すらしなかった。

空中に残る光りの軌跡だけが拳がそこを通ったのだと確認できる唯一の物だった。

拳圧だけで空気が切り裂かれ、風が砂埃を巻き上げる。

それでも、拳はデイジー叔父さんに届かない。

自信満々だったセヴェリーノの顔に焦りが浮かび、それが信じられないと言った驚愕の物へと変わっていく。

デイジー叔父さんはセヴェリーノの拳と同じかそれ以上のスピードで動き、全ての攻撃を回避していた。

残り時間が十秒といった所でセヴェリーノは繰り出していた拳を止め、大きくため息をつく。


「……マジかよ、とんでもねぇなあんた。おいらのライトニングフィストは二等級の魔法に匹敵するってのによ。何者なんだい?」


「あはぁん、ただの通りすがりの絶世の美魔女、プリティー小悪魔なデイジーちゃんよぉん!!」


「はは、面白い人だなあんた。覚えておくよその名前。次が最後だ、かわしてみなよ。かわせるものならなぁああ!!」


脚を大きく後ろに引き、硬く握った拳を腰の位置にやってセヴェリーノは初めて構えらしい構えを取った。

その姿を見て周りの人たちは慌てたように逃げ始める。


「やべぇ、セヴェリーノの野郎マジだ!! 離れろ巻き込まれるぞ!!」


「冗談じゃねぇ!! どけ!! 早く逃げねぇとヤベェ!!」


周りの人たちが離れ切る前にセヴェリーノは叫んだ。


「いくぜ、おいらのとっておき!! 死んでも恨むなよデイジー!! 複合スキル、雷神大槌撃(トールハンマー)ッッ!!」 


バチバチと激しい電気を纏ったような拳をセヴェリーノが放った刹那、俺の視界全てが真っ白に染まった。

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