149・助けたいから助けるそれだけって話
「フィーニスッ!!」
上半身のみになっているフィーニスを抱きかかえ、胸に空いた穴にフィーニスの心臓であろう宝石を入れ込む。
宝石は穴の中心でふわりと浮いているがフィーニスの様子に変化はなく、身体からは光の粒が漏れ出ていくばかりだった。
「くそ、なんでッ!? フィーニス、しっかりしろ!! 死にたくないんだろ!! 生きたいんだろ!! お前の心臓はここにあるんだ、消えるなッ!!」
俺の叫びにフィーニスは涙ながらにようやくと言った感じで答えた。
「な……んで、助けるの? 殺そうと……したのに。嫌な事も……いっぱい言ったのに……なんで?」
「お前は死にたくないって、助けてって言ったじゃないか、だから助けるんだよ!! それ以上の理由なんてねぇよ!! 助けたいから助けるんだよ!! ちくしょう、せっかく心臓を取り戻したのに、どうすればいい、どうすれば――」
俺はほとんど透明になっているフィーニスの手を握り、何が出来るかを考える。
今、フィーニスを褒めて信仰した所で意味はない、なんとなく感覚で分かってしまったのだ、今のフィーニスは壊れた器だと、どれだけ力を注いでもその場ですぐに零れ落ちていってしまう。
壊れた器をどうにかしないと、力を注ぐどころじゃあない。
衝撃と爆音の嵐の真っただ中で、何も出来ずにいる俺の前に大きな影がある事に気付いた。
「小さき人間よ、我が手助けしてやろう」
それはゴッゾヴィーリアだった。
何故? と思う間もなくゴッゾヴィーリアはフィーニスの頭に爪の先を軽く置いた。
ゴッゾヴィーリアの爪の先が淡く光り出し、フィーニスへと流れ込んでいく。
少し、フィーニスの身体から漏れ出ていく光の粒が減った気がした。
たぶんマヌケ面で見上げていただろう俺を見て、ゴッゾヴィーリアはニヤリと笑った。
「先ほどの貴様の行動、実に痛快であったわ。この我にあの様な辱めを味わわせた傲慢の大罪神を相手によくぞ出し抜いたものよ。この者には我の、竜の因子が混ざっておる。我の力を与える事でわずかだが延命できる。その内に次の手を考えよ、小さき人間」
「ありがとう!! 助かる!!」
「あちしも手伝うー!! すっぽんぽん子はムカつくけど、人間さんが死なせたくないって言うなら、助けるよー!! とりあえず、人間さんから貰った精霊の力をどっぱどっぱ流し込むよー!!」
マジックバッグからにゅるりと出てきたナルカがフィーニスの手をスライムの手で包み、ゴッゾヴィーリアと同じように力を注ぎ込み始めた。
更に漏れ出る光の粒の量が減ってきた。
「ナルカ、ありがとうな」
ナルカに礼を言いつつも、このままではただの時間稼ぎでしかない。
もっと根本的な部分からどうにかしないとダメだ。
『私様がフィーニスから死を奪うわ。まぁ、ここまで外殻をぶち抜かれて、核となる精霊石も無理矢理摘出された後じゃあ、気休め程度でしょうけれど』
「パルカ!?」
『何ビックリしてるのよ人間? 私様がこの精霊から死を奪うのがそんなにおかしい事かしら?』
突然、横からやって来た烏姿のパルカが俺の頭の上に乗り、フィーニスから黒い何かを吸い出し始めた。
「だ、だって、パルカは神様なんだろ? アロガンシアの方が凄い神様っぽかったから、逆らうとヤバイんじゃ……」
『その通りもん。ヤバイなんてもんじゃないもんよ、下手したら本体も大目玉を喰らうかもしれないもんねぇ。フィーニスにわずかに残る暴食の権能の残滓に神力を注いで活性化させるもん、そうすれば周囲の力を喰って生命力に変換できるかもしれないもん』
「マレッサまで!? そんなにヤバイなら、無理に手伝う必要は――痛ッ!?」
ない、そう言おうとした俺をマレッサはチョップし、ため息交じりにはこう言った。
『助けたいから助けるもだけもん、誰かに言わせれば、理由なんてそれで充分らしいもんよ?』
俺はみんながフィーニスを助けようとしてくれた事が嬉しくてたまらなかった。
「本当にありがとう、みんな。絶対にフィーニスを助けよう」
そんな俺たちの様子をフィーニスはジッと見ていた。
何が起きているのかよく分かっていないような、不思議そうな表情を浮かべて。
「人間って訳が分からない……、神を敵にしてまで私を助けようとするなんて……。人間ってなんなの……?」
そう呟いた後、フィーニスの身体から聞き慣れない不思議な音が鳴り始めた。
その音に反応したのは一体の精霊王となっているオリーゴだった。
「そう、か。今だ精霊王としては未熟、生まれたばかりゆえの稚拙さを考えれば、傲慢の大罪神の言う通り、一度世界に還り、数百年の後再び新たな精霊王として生まれ変わるのが正しき道。だが、その時のお前は今のお前ではない。人が竜が神が今のお前の生存を望んでいるのならば、そして、お前がそうまで言うのならば……」
オリーゴが何かぶつぶつと言っているが、先程フィーニスから発せられた音と関係があるのだろうか?
『この音は精霊語とでもいうべき物もん。精霊同士なら人の言葉では言い表せない事も、この音で正しく相手に伝える事が出来るもん。ナルカには多少分かるかもしれないもんけど』
「んー、すっぽんぽん子が何か知りたいって言ってるみたい、何を知りたいのかはよくわかんないけど」
ナルカによれば、フィーニスはオリーゴに何かを知りたいと精霊語で伝えているようだ。
何をフィーニスは知りたいのだろうか。




