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148・今度こそ助けてみせるって話

考えろ、どうすればいいかを。

アロガンシアに頼んだ所で俺の願いを聞き入れてくれるかどうかわからない。

むしろ話しかけただけで殺されるんじゃないかとすら思える。

デイジー叔父さんにお願いする、これはフィーニスを助ける事の出来るたぶん一番いい方法だ。

だが、果たしてアロガンシアがそれを黙って見ていてくれるだろうか。

自分の手で心臓らしき物を抜き取り、世界に還れとさえ言った人物がデイジー叔父さんがフィーニスを助けようとしているのを見過ごしてくれるだろうか。

それは、デイジー叔父さん以外にお願いしても同じかもしれない。

山を消し飛ばし、デイジー叔父さんに血を流させたとんでもない力を持ち、自らを傲慢と言っておきながら寛容な態度を見せたりする神、ならばその寛容さに賭けてみるか?

いや、人に言われて意見を変えるような神じゃあないはずだ。

たぶん、自分の決定は絶対で決して曲げない気がする、十中八九何を言っても人間でしかない俺の言葉は届かない。

どれだけ考えも、アロガンシアという存在がネックになってしまう。

考える時間すら惜しいと言うのに、今この瞬間にもフィーニスは悲痛な叫びをあげて、消滅していっている。

マレッサやパルカの態度を見れば、無理を言う訳にはいかないし、精霊王やゴッゾヴィーリアとはそこまで親交を深めてない、彼らに俺の願いを聞く義理はどこにも何もない。

なら、動けるのは、自分しかいないじゃないか。

だが、俺に何が出来る? 俺に出来る事なんて――あぁ、そうだな、俺に出来る事は一つだ。

今思いついた事が上手くいくかなんて分からない、でも俺にやれる事があるならなんだってやってやろう。

このままフィーニスを見殺しにするよりは万倍、億倍マシだから。

俺は静かにマジックバッグをゆすり、ナルカに小声で話しかけた。


(ナルカ、返事はしなくていい、俺が合図をしたら――)


ナルカはマジックバッグの中からスライムの手を出して、グッと親指を立てた。

よし、ならあとはやるだけだ、意味が無くても、無意味に終わっても、俺は後悔したくない。


「さて、これで世界の危機は終わった。実に詰まらん、この程度の事すら満足に処理出来ぬのか今の神域の連中は。まったく、何故その情けなさから自らの首を刎ねぬのか、不思議でならぬわ」


アロガンシアが愚痴をこぼす中、俺は他のみんながひれ伏している中、ゆっくりと立ち上がった。

まだ重く押し潰されそうな圧は変わらず、、立つだけでもやっとで歩いたりは出来そうにない。

俺に気付いたアロガンシアは眉をひそめ、怪訝な顔で俺を見た。


「ふむ、その場に立つ事がやっとの身でありながら、何故立つ? このおれに疑問を持たせるとは愉快ではあるが、それ以上に不敬であろうが。分を弁えよ」


ただ軽く睨まれただけ、ほんの少しアロガンシアが抑えていた圧を解放しただけで、余りの恐怖に意識が飛びそうになる。

歯を食いしばり倒れ込みそうになるのを必死に耐えて、俺は思い切り息を吸い込み、そして吠えた。


「アロガンシア様は世界最高、最強の神様!! 強く美しく可憐で威厳に溢れた唯一無二の存在!! その強さはデイジー叔父さん並みで他と隔絶した天外の領域に達している想像を絶する物!! 一糸纏わぬ裸体でありながら恥じらい一つないその様子は自身の肉体に絶対の自信があり、恥ずべき所が何一つないからに他ならない!! 傷一つ、シミ一つないその玉体は正に完成された至高の体現であり、太陽よりも強く煌めく金色の髪、血より赤く炎よりも猛々しいその深紅の瞳は紅玉すらも嫉妬させる!! 月のように華麗で凛々しいご尊顔を拝する喜びは五体投地しても足りず、子々孫々に語り継いでもまだ足りぬ程!! 普くを照らすが如き、その笑顔は何よりも雄々しく、何よりも恐ろしい、それは天下万民が畏怖する偉大なる神の証!! 神と書いておれと読むその傲慢さは他に類はなく、世界広しと言えどただ一人のみ!! 森羅万象はその掌でありながら、その寛容さは世界すら容易に救う!! 完全無欠、完全無比、空前絶後、十全十美、眉目秀麗、この世のありとあらゆる賛辞の言葉は貴女の為に生み出されたと言っても過言でない!! 絶対、姉妹もアロガンシア様と同じで美人!! でも一番奇麗で可愛くて強いのはアロガンシア様!! よっ社長!! 日本一、いや世界一!! いやいや全然足りやしない、宇宙一のスーパーハイパーウルトラエクストリームパーフェクトゴッド、それがアロガンシア様だ!!」


一気にまくし立てたせいか、酸素が足りず目がチカチカするし、頭もなんだかズキズキと痛い、だがまだ意識を失う訳にも倒れる訳にもいかない。

頼む、上手くいってくれ……。


「な、なにを一体――これはッ!?」


俺の突然の全力怒涛の誉め言葉にさすがのアロガンシアも面喰っていた。

その数瞬後、アロガンシアはビクリと体を震わせ、そして――。


「にゃあああああああああびゃあああああああああ、この、おれが、これのおれがぁアアアアにゃあああああああああッ!?!?」


凄まじい光を放出しながらアロガンシアは身をよじり、マレッサやパルカのように物凄い叫び声を上げた。

そのおかげか、重くのしかかっていた圧が和らいだ。


「今だ、ナルカッ!!」


「りょーかーい!!」


俺の合図にナルカはスライムの手を素早く伸ばし、ビクビクと激しく痙攣するアロガンシアの手からフィーニスの心臓と思われる宝石を奪い取った。


「ッ!? こ、小賢しい真似を、んぎぃいいいいいッ!? このような辱め、姉君たちにも受けた事はぁああああああにゃあああああああッ!?!?」


ナルカが奪った宝石を受け取って、俺はフィーニスの元に走った。

あと少ししたら、俺の信仰で力が増したアロガンシアが怒り狂って俺を殺しに来るだろう。

だから、その前に俺は叫ぶ。


「デイジー叔父さん、お願い!! フィーニスを助けるまでアロガンシアを食い止めててほしいッ!!」


「あはぁん、お・ま・か・せよぉん!! カワイイ甥っ子の頼みだものぉん、全身全霊で食い止めるわぁん!! 緋色ちゃんには指一本だって触らせないわよぉん!!」


デイジー叔父さんは満面の笑みでパンプアップして一回り筋肉を肥大化させ、アロガンシアの前に立ちはだかった。


『な、なななな、なにやってるもぉおおおおおおおんッッ!?!?』


『人間あんたって人はッッ!?!? 何をしたか分かってるのッ!?!?』


俺の行動に驚愕しているマレッサとパルカ、この二人がこんなに取り乱しているのだから、俺のやった事は相当にとんでもない事なんだろう。


「フィーニスは助けてって言ったんだ、誰かがその手を取ってやらないと悲しいじゃないかよッ!! だから、俺はその手を掴みたい、今度こそ、助けたいんだ!!」


次の瞬間、大地が悲鳴を上げた。

凄まじい地響きと共に空一面に浮かんでいた雷雲が消し飛んでいった。

どうやら、アロガンシアのパワーアップが済んでしまったらしい。

凄い衝撃波だったはずだが俺にはあまり影響はなかった、きっとデイジー叔父さんのおかげだろう。

だが、振り返って確認する暇も惜しい。

俺はデイジー叔父さんを信じて、ただひたすらにフィーニスを助ける為に動くだけだ。

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