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145・ほかの勇者はどうしているのかって話11

「最近入れ替わったばかりの新参の『十一指イレブン』だ!! あんなガキならオレでも勝てるぞ!! ぶっ殺して名をあげてやるッ!!」


「新しい十一指とは言え、しょせん序列十一位!! 上位魔法使いであるオレたちが力を合わせれば、なんてこたぁねぇ!!」


「十一指になれば、魔法の研究所から優秀な助手、莫大な研究費用がたんまり貰える!! 一生遊んで暮らせるぜぇええ!!」


「フフン、愚かですね。大人数であの子供を仕留めても、その後誰が十一指になるかの戦いが始まるだけ。賢い僕は様子見させてもらうよ」


「上位魔法使いの中でもっとも極位に近いこのワシこそが十一指にふさわしい!! こわっぱどもが、失せるがよいわ!!」


マレッサピエーでの勇者召喚によりこの世界にやってきた陰陽師の少年、芦屋晴流弥あしや はれるやは元の世界への帰還を放棄し、この世界で『普通』の生活を楽しむ為に『知恵の壺』と呼ばれる魔法学校に通っている。

普通を望んでいながら晴流弥は、十一指と呼ばれる魔法ギルド最高戦力である十一人の集団の一人、知恵の壺の創設者であり学校長でもあるジャンパオロ・ネンチーニを死闘の末に打倒した事で若干十五歳にして十一指の末席に座る事となった。

その数日後、わずか十五歳という年齢のみを見て晴流弥を弱卒と侮る魔法使いたちが知恵の壺に押しかけ、あまつさえ、知恵の壺に通う生徒や教員すらも晴流弥を狙うようになっていた。


「はぁ、学長ジャンパオロとの死闘は心躍ったが、その後たかってくる蠅の処理が実に億劫でならん。疾く蹴散らせ、我が式たちよ」


襲い来る何人もの魔法使いたちを退屈そうに眺めて、晴流弥はパチンと指を鳴らした。

すると、虚空から白い虎、火を纏った鳥、青い鱗の龍、岩の甲羅を持つ大亀が突如として姿を現し、晴流弥に襲いかかってきた魔法使い全員を瞬く間に叩きのめしてしまった。


「グハッ!? ま、まさか召喚魔法まで扱えると言うのか!? どれほどの魔力量を持っているのだ、アイツは……」


「優秀な召喚士であっても二体召喚出来ればいい方だと言うのに、四体同時!? しかも、こんな強力な召喚獣を魔法陣すら用いずに呼び出すなんて……」


「偶然、あの『探求』のジャンパオロを倒した訳ではない、と言う事か……」


「フフ、物陰に潜み、機をうかがっていた僕に気付いて召喚獣をけしかけるとは、中々やりますね。楽しめそう、グハァアアッ!!」


「上位魔法使いの中で最も極位に近いワシが手も足も出んとは……。奴はバケモノか……」


積み上がった襲撃者の山の上で白い虎、火を纏った鳥、青い鱗の龍、岩の甲羅を持つ大亀が雄叫びを上げる。


「やめんか、お前たち。その様な木っ端共の山を築いたとて誇れるような事ではない。戻れ」


晴流弥はそう言ってもう一度指をパチンと鳴らした。

それと同時に四匹の獣たちは空気に溶けるように消えていった。


「ふぅ、普通の生活と言うのもなかなか難しいものだな」


肩をすくめてそう呟く晴流弥の肩を誰かが挨拶と同時に軽くポンと叩く。


「おはよう、晴流弥君」


肩を叩かれるまで、声をかけられるまで、その気配に気付けなかった事に晴流弥は驚きつつ、一瞬でその場を離れて警戒態勢をとった。

晴流弥の視線の先には一人の女生徒がポカンとした表情で立っていた。


「うわーびっくりしちゃった。もぉ、挨拶しただけでいきなり逃げるなんて酷いよぉ。同級生でしょ私たち」


「ふむ、生徒アデリナか。我に触れるまで己が存在を気付かせぬその隠形、尊敬に値する。見事なものだ」


「晴流弥君って相変わらずよね。はぁ、えぇそうですよ、私は影が薄いですよーっだ」


アデリナは頬をプクリと膨らませて、不機嫌な表情を晴流弥に向ける。

その尊大な態度で多くの生徒から煙たがられ遠巻きにされている晴流弥だが、アデリナだけは入学当初から唯一変わらずに接してくれる稀有な存在だった。

晴流弥にとっては自分ですら感知できない隠形の達人としてアデリナを記憶しており、その実力を認めている為か、その対応の仕方は他の生徒と比べて比較的柔和であった。


「生まれついての隠形の術が強制的に働いている訳でもない。その隠形が魔法や術の類ならこの我に感知できないはずがないからな。原理不明の隠形、だからこそ面白い。その特性は誇るに値する物だぞ生徒アデリナよ。何故、その力を恥じる?」


「影が薄い事をそんなに凄いって言われても、喜ぶ人は少ないんじゃないかなぁ……。まぁ、とりあえずもう一回。おはよう晴流弥君、今日も賑やかだったね、怪我とかしてない?」


晴流弥が十一指となってから、唐突に押しかけて襲撃してくる魔法使いたちを撃退する日々が続いていた。

アデリナの心配をよそに晴流弥は大きなため息をついた。


「あぁ、おはようアデリナ。彼我の力量差を理解せずに挑んでくる有象無象共が我に手傷を負わせる事など不可能である。むしろ、我に手傷を負わせるほどの猛者が挑んできてほしいものだ」


「フフ、上位魔法使いの人たちを相手にそこまで言えるのは晴流弥君くらいだよ。この知恵の壺の学校長にも勝っちゃったんだし、もう無敵なんじゃない?」


「無敵なものか。学長ジャンパオロには四聖獣だけでなく、完全制御の出来ていない十二天将の半分を使う羽目になったのだぞ。一か八かの切り札を切らされたのだ、勝てたのも運が味方した様な物、あんな勝利で無敵などとは冗談でも言えぬよ」


「晴流弥君って変な所で律儀って言うか謙虚だよね」


「それは褒めているのか?」


「もちろん。認めた相手にだけって括りはあるみたいだけどね」


アデリナと会話をしながら教室に向かう晴流弥。

ふと晴流弥は気になった事をアデリナに尋ねた。


「不思議ではあったのだが、何故、生徒アデリナは我に普通に接するのだ? 入学当初に我に喧嘩を売って来ていたあの威勢のいい野良犬ですら、我が十一指の末席に座った後は躾けられた駄犬のようになったというのに」


「んーっと、晴流弥君は覚えてないかもしれないけど、入学式の時にね、こんな凄い所で私やっていけるのかな、一人前の魔法使いになれるのかなって校舎の前に来てもうじうじ悩んでた私に、晴流弥君はいきなりぶつかってきて『そんなところに人がいるとは気づかなんだ、この我の感知を掻い潜るとは凄まじい隠形の達人であるな、実に見事だ』って言って褒めてくれたの。それがね、とっても嬉しかったんだ。ただ、影が薄いだけだった私に、何か意味をくれた気がしたんだ。その時ね、私は晴流弥君と仲良くなりたいなって思ったんだ」


思い出すように語るアデリナの横顔を見て、そんな事もあったかと首を傾げる晴流弥。

アデリナは更に続けた。


「それで、晴流弥君言ってたでしょ、自己紹介の時に普通に憧れてるって。まぁ、実際にやってる事とかは全然普通じゃないんだけど。でね、それなら、私は晴流弥君がどんな人であっても、どんな事があっても普通に接しようって決めたの。だから、晴流弥君がどんな立場の人になっても私だけは普通に接するよ、これは私が私に定めた誓約。あぁ、でも晴流弥君が嫌なら改めるよ!?」


慌てた様子のアデリナに晴流弥は愉快そうに笑ってみせた。

自分が何か面白い事を言っただろうかと、少し混乱するアデリナの頭を晴流弥は気安く撫でる。

突然の事に顔を真っ赤にするアデリナ。


「案ずるな生徒アデリナ、改める必要無し。実に稀有な存在だと改めて認識した。貴殿との会話はどこか心地よい。貴殿のやりたいようにやればよい」


そう言って晴流弥は先に教室に入った。

撫でられた頭をそっと触れて、顔を真っ赤にしたまま、はにかむアデリナ。

その時、窓から一羽の小鳥が入り、アデリナの肩に止まった。


「元勇者『混沌』ノ経過報告ヲ求ム」


「……経過報告、元勇者『混沌』、十一指の序列十一位を倒し、新たな序列十一位に。現在、十一指の席を狙う上位魔法使いたちの襲撃を受けるも、特殊な召喚魔法にて撃退。なお、四聖獣と呼称される召喚獣の他にも十二体の完全制御の出来ていない召喚獣も存在している模様。このまま対象との友好関係を構築しつつ監視を継続する、報告以上」


「了解、引キ続キ、任務ヲ遂行セヨ、以上」


肩から飛び去って行く小鳥を眺め、アデリナは複雑な表情を浮かべて、小さく息を吐いてから笑顔で教室に入っていった。

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