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140/271

140・その力は精霊王を越えるって話

「おらおらおらー!! ぶっとべ、すっぽんぽん子ー!!」


「そのくそだっさい呼び方やめてもらえる!? すんごくムカつくんですけど!!」


ナルカはスライム状の羽を広げ、羽から粘液状の触手を伸ばしてフィーニスを狙う。

触手が刺さった地面は黒ずんでいき、数秒と経たずに塵になって消えた。

死の呪いががっつり付与されているようだ。

見た目以上にナルカの攻撃は危険なようで、フィーニスはナルカの触手に触れないように立ち回っている。


『なかなかいいわよナルカ。ただ、下品な言葉は慎みなさい、品の無いそいつに合わせる必要はないのだから』


ナルカの猛攻撃の合間に針を通す様な正確さでフィーニスの体を黒い光線で貫くパルカ。

まず腕や足などを狙って機動力を一瞬奪い、ナルカの攻撃をギリギリで避け余裕がない時に頭部や胴体を貫いている。

やり口が実にえぐい。

精霊王であるフィーニスには致命傷にはなっていないようだが、ほんの少しずつではあるが再生が遅くなっている気がする。


「ぐぅッ!? こ、この、チクチクチクチクと、いやらしい攻撃ばっかり!! 性格ねじ曲がってんじゃないのアンタ!!」


『ふん、まだ喋れる余力があるのね。だてに精霊王ではないわね』


そう言って、パルカは更に黒い光線をフィーニスに向かって連射する。

避けようとするフィーニスの足元からナルカが今まで放っていた死の呪いが籠った粘液が絡みついた。


「ッ!? ダサ精霊のくせに、鬱陶しい!!」


ほんの少し、パルカの攻撃への対処が遅れたフィーニスに黒い光線が降り注ぐ。

凄まじい爆音が響き、その衝撃で山肌の一部が崩落していく。


『あ、やり過ぎたわね』


『あーあ、下のやつら大丈夫もんかね……。たぶん問題ないとは思うもんけど、事が収まったら掘り出してやるもんかね』


「仕留めた?」


ナルカのセリフはなんともフラグ臭がする。

そう言う事言ってると、だいたい倒し損ねてるよねゲームとか漫画だと。

気付けば、ナルカに生えていたスライム状の羽はかなり小さくなっており、パルカも三つ目の烏の姿に戻っていた。

烏の状態に戻ってもパルカの羽が傷だらけになっており、なんとも痛ましい。


『で、人間。まだ?』


「え? 何のことだ?」


パルカがいきなり俺の頭の上に乗って、頭の上から俺の顔を覗き込んできた。

まだ、とは何の事だろう?


『ナルカは褒めたでしょ!! 私様も褒めなさいよ!! ほら、はよ!!』


あぁ、そう言えば褒めるって言ったな。

もうフィーニスを倒したなら、たぶん必要ないような気もするのだが、そう言ってもパルカは納得しないだろう。

早く傷を治してほしいし、さっさと褒めて治療に専念してもらおう。


「下でも褒めたばかりだし、ちょっと短めでいいか? 褒めたらすぐにその傷治してくれよ、心配でしょうがないから」


『えー、仕方ないわね』


「じゃ……。強いパルカもカッコよかったぞ!! 見惚れるくらいだった、烏のパルカもカワイイが人の姿のパルカはキリっとしてて凛々しくて美しさと気高さを両立してる麗しい女神様だぞ!!」


『んほ、うんうんいいわよ、いいわよ。少し物足りないけど、傷を癒す程度の神力は賄えたわ』


パルカはそう言って傷だらけの羽を再生させた。

軽く羽ばたいて、再生した羽の具合を確かめている。

傷の癒えた羽を見て、俺はホッとした。


「ふぅーん、やっぱそのキモいおにーさんが何かしてたんだ」


土煙の奥からフィーニスの声が響いてきた。


『まだ、生きてたのね。死をかなり叩き込んだつもりだったのだけれど。しぶといわね』


強気なパルカだが、少し焦っているのを感じた。

今の状態ではさっきの様な攻撃は無理だろう。

短めと言わずもっとガッツリ褒めておくべきだったか。


「この姿、割と気に入ってたのよ。ちょっと前にエレメンタル・イーターが取り込んだ人間の器。お前ら如きに別の姿になる必要ないと思ってたけど、そこのキモおにーさんのせいであまりなりたくない姿になる羽目になったじゃない。虫みたいに潰すだけじゃ、済まさないから」


突然、土煙の中から爬虫類の様な鱗のある数メートルはあろうかという巨大な腕が姿を現した。


『ッ!? あの腕、竜の腕もん!? パルカ、やべぇもん!!』


『なんで精霊王が竜の腕なんて生やすのよ、おかしいでしょ!?』


「あはははははッ!! ビックリした!? フィーニスちゃんはエレメンタル・イーターの中に居たのよ!! 精霊の力だけじゃなくて竜の因子も取り込んでる!! 神の敵、反逆者としての竜の攻撃はお前らには致命的でしょ!!」


そう叫びながらフィーニスの巨大な竜の腕がパルカだけでなく俺もろとも叩きつぶさんと凄まじい勢いで振り下ろされてきた。


『竜の何かしらはあると思ってたもんけど、まさか実体としての竜の体を持ってるとは思わなかったもん!! 暴食の権能の機能で竜を取り込んでたもんか!? 草魔法バンブージャベリン!!』


咄嗟にマレッサが魔法を使って、地面から大量の竹を生やし竜の腕を攻撃するが、ほんの数瞬押し留めるのがやっとだった。

しかし、そのほんのわずかな時間でパルカは俺を魔法で浮かばせて、振り下ろされている竜の腕の攻撃範囲から逃げ出した。


「ありがとうマレッサ、パルカ助かった!?」


『まだもんよ、ヒイロ!! ナルカも援護するもん!! わっちとパルカは竜と相性が悪いもん!!』


「わかった!! 姉母様と人間さんに何してんだすっぽんぽん子!!」


俺たちが立っていた場所を掌で押し潰した竜の腕をフィーニスはそのまま横薙ぎに振るい、追撃をしてきていた。

ナルカは俺とパルカに迫る竜の腕に体当たりをして、その勢いを止めようとしたが、質量が違い過ぎたのか、ナルカは竜の腕に弾き飛ばされてしまう。


「ぎゃんっ!?」


「ナルカッ!!」


弾き飛ばされたナルカは岩を破壊し、木を何本もへし折ってようやく止まった。


「ぐうううう!? このクソださ精霊!! 生意気な事しやがってぇええええ!!」


フィーニスの怒気を孕んだ声に何事かあったのかと目をやると、ナルカが体当たりをした竜の腕から黒い煙があがり、ズブズブとなんとも言えない音をたてて腐り落ちている最中だった。


『マレッサの魔法でわずかに負った傷に死の呪いをねじ込んだのね。無茶するわね、まったく』


どうやらナルカはあの体当たりの瞬間に死の呪いが込められたスライム状の体をわずかにあった傷口から腕の中に注入していたようだ。


『ナルカの事を気にするのは後にするもん!! 竜の腕が腐り落ちたとは言え、まだフィーニスは健在もんよ!!』


そう言って、マレッサは緑の光を放って、人の姿になった。

ただ、パルカと同じくその背中には羽はない。


「はぁ!? 竜の腕が腐り落ちたからなんだってのよ!! フィーニスちゃんが持つのは竜の因子よ!! 竜の腕なんて、いくらでも作り出せるのよ!! あぁ、もう面倒だわ、煩わしい!! 神の走狗どもがこのフィーニスちゃんが精霊王なんていう存在で終わる器だと思ってんじゃないわよ!! もっとよ、もっと!! 圧倒的に徹底的にアイツらを叩き潰してやるんだから!!」


土煙を吹き飛ばし、フィーニスが姿を現す。

怒りに満ちたその瞳からは宝石の様な輝きが消え失せ、代わりに爬虫類の様な瞳に変わっていた。

そして、ボコボコと体が筋肉質に変化し、大きなっていく。

肌に爬虫類の鱗が生え、だんだんとその姿を俺が見覚えのある姿に変えていく。

見覚えがあると言っても直接見た事がある訳じゃあない、それはゲームとか漫画の中で見た事があるってだけだ。

フィーニスはニ十メートルはあろうかという大きなドラゴンに変貌していた。


「この姿、称して精霊竜王フィーニス!! これなら神の端末どももクソださ精霊も、そこのデカいおかしな人間も相手じゃない!! 何もかも全て、このフィーニスちゃんが叩き潰してやるよぉおおおおおおお!!」


叫ぶフィーニスに呼応するかのように、凄まじい風が吹き荒れて雷雲が空を覆った。

雷が狂ったようにあちこちに落ちて、豪雨が降り注ぐ。

俺は目を開けているのもやっとと言った状態で、なんとかパルカを抱きしめているのがやっとだった。

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