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14・治安が悪い場所には一人でいかない方がいいって話

「死ねやおらぁ!!」


「んっだぁ!! っすっぞってっめ!!」


「いいぞーぶっ殺せー!! ナイフのにいちゃんに二百だー!!」


「オレは黒眼鏡のいかついあんちゃんに五百!! いけーッ!!」


ものすごい治安の悪い場所に来てしまった。

入口をくぐって数分で乱闘騒ぎ、スリ、詐欺、ヤバそうな薬、漂う臭いだけで酔いそうなほどの酒の臭い、ある意味とんでなく賑やかで活気に満ち溢れた場所だ。

ここは魔王国と人間の国との緩衝地帯クリーメンにひっそりと存在するどこの国にも属していない空白の領域、オークカイザーさんが人間の国に行く手段もあるだろうと言っていた罪人が作りあげた自由と退廃の街リベルタ―。  


「ここ、俺たちがいていい場所ではないのでは?」


『うへぇ、ここ邪気と邪念が渦巻いてて反吐がでるもんねぇ。クズの掃き溜め、いや人間のゴミクソが集まったゲロカス以下の汚泥の博覧会も同じもん』


「ずいぶんと口が悪い神様だなおい」


リベルタ―に近づくにつれ、マレッサの不機嫌さは度を増していた。

ここリベルタ―にはマレッサを、というか神を信仰している者はほぼ皆無らしく、人間の欲望が魔王国の魔力と相まって、べたべたとまとわりついてきて鬱陶しい事この上ないとの事。


「あらあらぁん。マレッサちゃん、自分に縁も所縁もない土地だから信仰が薄くてつらいのねぇん。緋色ちゃん、ちゃんと信仰してあげるのよぉん」


「分かったよデイジー叔父さん。マレッサは凄く凄いぞ、なんというか凄さがこう、なんか凄い」


こんな実に適当な誉め言葉でもマレッサは喜び有頂天になって発光するのだから、いつか騙されて痛い目に合いそうで心配になる。

オークの森を後にした俺たちはとりあえずマレッサピエーに戻る為に行動する事にした。

召喚されたあの場でオラシオは元の世界に戻れない事はない、と言ってた。

言い回しが少しきになるが、戻れるのだとしてもその条件が分からない事にはどうする事もできない。

デイジー叔父さんなら一瞬で戻れそうだけれど、今は力を使いすぎており、加減が出来ないらしい。

高速移動しようものならブレーキのタイミングをミスって城やその城下町を吹き飛ばしかねないとかなんとか。

仮に俺を抱えて高速移動したら、そのスピードに耐えられず俺の身体が爆発四散する可能性もあると真顔で言われた時は背筋が凍る思いだった。

そんな訳で今はデイジー叔父さんの回復も考慮して徒歩で移動して、このリベルタ―の街まで来たのだ。

リベルタ―の門をくぐった途端に目に入った乱闘騒ぎで驚いたが、それは序の口でしかなかった。

乱闘騒ぎに気を取られていた隙にオークの秘宝入りの布袋をスられており、デイジー叔父さんは俺がスられた瞬間にスリ返していたそうだ。

デイジー叔父さんがいなかったらどうなっていた事か。

更に人間の国への行き方を比較的まっとうそうな人に聞き込みをしていたら、人間の国に行けるルートを教えると言われ、親切な人だなーと思って路地裏についていったら、なんか絶対カタギじゃない感じのやべぇ人らに取り囲まれていた。

その時はデイジー叔父さんの懇切丁寧な肉体言語(おはなし)で難を逃れる事が出来たのだが、その様子を見ていた別の人が急に近寄ってきて、いい薬あるんだけど買わない? 安くしとくよ? と馴れ馴れしくベタベタと俺を触ってきた。

結構ですと、断ったらあっさり何処かへ行ってくれたので安心していたら、またオークの秘宝の入った布袋をスられていたらしい。

デイジー叔父さんが気を付けなさいと言ってまたもスリ返していた布袋を渡してくれた。


「……もうデイジー叔父さんが持ってた方がいいんじゃないかな、これ」


「フフ、そうかもしれないわねぇん。じゃあ、預かっておくわぁん」


デイジー叔父さんに布袋を渡そうとした瞬間、物陰から何かが飛び出してきて俺に勢いよくぶつかってきた。


「どこに目付けてんだよ、マヌケ野郎!!」


ぶつかった事を謝りもせずにダーッと走り去る子供の背中が見えた気がしたが、あっと言う間に路地裏の更に奥に入っていき、姿を見失ってしまった。


「油断大敵ってやつかしらねぇん。例え小さな子供でも油断はしない方がいいわねぇん」


そう言ってデイジー叔父さんはオークの秘宝が入った布袋を掌に乗せ、ため息をついた。

どうやら、渡す瞬間にあの子供にスられていたらしい。

何ここ、治安悪すぎじゃない!?

この短時間で三回もスられてたんだけど!?


「オークカイザーさんは人間の国から逃げてきた犯罪者が作った集落っていってたけど、とんでもない所だなぁ……」


先行きに不安しかないが、日も暮れてきた事もあって俺たちは宿を探す事にした。

しかし、先立つものがない以上、どうにかしてお金を稼がなければならない。

オークカイザーさんに貰ったオークの秘宝、売るなら今なのだろうが、どうにも気が咎める。

オークカイザーさんは好きにしろと言っていたが、秘宝と言われている以上きっとオークにとって大切な物のはずだ。

出来れば、これを売るのは本当にどうにもできなくなった時の最後の手段にしておきたい。


「とはいえ、余り長居はしたくない場所だしなぁ。なんとかお金と情報を集めないとマレッサピエーに行く前に飢え死にしそうだよ」


思えば、この異世界に召喚されてからあのメイドさん、セルピエンテと言っただろうか、からパンと果実水、オークカイザーさんからもブドの果実水を貰っただけで、きちんとした食事はしていない。

宿と食事に情報、どれも得るにしてもお金が必要だろう。

……ついさっき最後の手段にしておきたいと思っておきながら、オークの秘宝を売るべきかと思案してしまう。

まぁ、売らないけど。


「デイジー叔父さん、オークの秘宝を売る以外に何かいい考えはある?」


「ん~、そうねぇ。郷に入っては郷に従えっていうわよねぇん」


「盗みとか暴力はダメだよデイジー叔父さん」


「あらやだぁん、あたくしは専守防衛がモットーの善良な一般市民よぉん。それに意味もなく、むやみやたらと力を誇示したりしないわぁん。あたくしが言いたいのは、ここのやり方で稼ぐって事よぉん」


「ここのやり方?」


そう言うと、デイジー叔父さんは布袋からオークの秘宝を取り出した。

それは透明感のある黄褐色の宝石のように見える物だった。

デイジー叔父さんの掌に乗っているから少し小さく見えるが、なかなかの大きさだ。


「ん~素敵、うっとりするわぁん。こっちじゃあなんていうのか分からないけれど琥珀、アンバーっていう古代の樹木の樹液が化石化したものよぉん。それに、神聖な魔力も感じるわぁん」


『その布袋自体に魔力隠しの魔法が仕込まれてたみたいもんね。取り出されるまで気づかなかったもんけど、それ自体がえげつない代物もん。そっちではそういう名前みたいもんけど、こっちでは太陽の涙石と呼ばれているもん。この大きさ、売れば豪邸どころかマレッサピエーにある小さな都市を丸ごと買ってもお釣りがくるレベルの金が手に入るもん』


小さいとはいえ都市が丸ごと買えるって凄すぎてもう実感がわかない。

国家予算レベルの代物をオークカイザーさんはポンと渡してくれたのか……。

そして、デイジー叔父さんはそんなとんでもない代物を一体どうするつもりなのだろう。


「景品にするのよぉん」

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