139・戦いは苛烈にって話
「スライム形態のナルカは魅惑のプルプルボディで手触りもしっとりとして滑らかで病みつきになるもちもちお肌だ!! その黒い色は姉であり母であるパルカの羽と同じでとても神秘的で幻想的な美しさ!! 動きも可愛らしいぞ!! ご飯を食べてる時に少し透けてる体の中で物が消化されていく様子と音にはそこはかとない心地よさがあるぞ!! あと、スライム形態と人の姿の時に若干喋り方が違うのもギャップがあっていいぞ!! 時々マジックバッグの中の食べ物をつまみ食いしてて、それがバレてないと思ってる所も迂闊でカワイイ!! 人の姿のナルカはキュートでプリチーだ、長く美しい黒髪は吸い込まれる様な魅力でいっぱいだ、きっとどんな髪型でも似合うぞ!! 着ている黒いワンピースもシンプルながらとてもナルカに似合ってる!! それにとっても強いぞ!! 原初の呪いをその身に受け入れる優しさもある!! ナルカは世界で一番可愛くて強くて優しい死の精霊だ!!」
今まであまり褒めた事が無かった気がしたので、頑張って心から褒め言葉を早口でまくし立ててみた。
「きゃッほぉおおおおおおおお!! なんかしゅごい、頭変になるコレ!!」
凄まじく迸る黒いオーラを全身にみなぎらせて、ナルカがなんとも字面的に危ない事を口走っている。
ちょっと頑張ってほめ過ぎたのかもしれない。
『やってみたらとは言ったもんけど、これちょっとやべぇもん。ナルカに捧げられた信仰が凄すぎて許容量越えて体から溢れてるもん。ナルカ、それを無理に抑えようとしたら体ぶっ壊れるもんよそのまま一気に放出するもん』
「すまんナルカ、ちょっと頑張り過ぎたみたいだ!! 無理しなくていいからな!!」
「やー!! せっかく人間さんから貰ったんだもん!! 全部あちしの!!」
溢れ出る力をナルカは無理に体に押し留めようとしているようだ。
マレッサが言うには無理に抑えると体が壊れるらしいから、無理なんかしてほしくないのだが。
『あーもー、姉で母に似て結構頑固もんねぇ、仕方ないもん。ナルカ、無理に体の中に押し留めちゃダメもん。スライムから人の姿になったようにその在り方を拡張するもん。わっち達は神体っていう姿になったり、羽を生やしたりって感じもん』
言っても聞かないと思ったのか、マレッサは溢れる力をコントロールする方法をアドバイスした。
そんなアドバイスでどうにかなるモノなのだろうか?
俺が困惑しているとフィーニスが若干驚いた顔でナルカを見ているのに気付いた。
「なに……それ、あり得ないでしょ……。体から溢れる程の力ですって? あのザコおにーさんがなんかキモイ事言った途端にあのダサ精霊の力が増した、なんなのあのザコおにーさん?」
『アンタには関係ない事よ!! とっとと死んでなさい!!』
「ッ!?」
パルカが黒いオーラを込めた拳をフィーニスの腹に叩き込むと、その痛みと衝撃にフィーニスの顔が苦痛に歪む。
「グゥッ!? 神の端末のくせに、フィーニスちゃんのお腹を殴るなんてぇえええええッ!!」
怒り狂ったフィーニスは背中から新たに炎の腕を二本生やし、咄嗟に離れようとしたパルカの肩を掴んで、元々の両腕でパルカに殴りかかった。
『あら、怒っちゃったかしら? もう少し手加減してあげた方が良かったわね』
ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて、パルカは余裕でフィーニスの攻撃を防ぎながら四本の腕を黒い光線で弾き飛ばして、がら空きの胴体にバスケットボール大の黒い球体を押し当てる。
瞬間、ボンッと言う破裂音がして、フィーニスの胴体が消し飛ぶ。
話し合いで解決出来たならよかったのだが、とどうしようもない事を考えてしまい、それは命を賭けて戦っているパルカやナルカへの侮辱だと気づいて頭を振る。
相手が殺しに来ている以上、この結果はどうしようもないのだと無理矢理に自分を納得させる。
「ガハッ!? ――なぁんて、ね」
『ッ!?』
消し飛んだ胴体を一瞬で再生させ、更に四本の腕でパルカの肩と腕を掴み、動きを封じた。
「あははははは!! 精霊王であるフィーニスちゃんがその程度の死で、死に尽くす訳ないってのッ!!」
フィーニスの胴体が胸元から下腹部にかけて縦に裂けていき、その内部に巨大な目玉が見えた。
その目玉が赤く不気味に光ったかと思った刹那、とんでもない爆発が起きて、衝撃波で吹き飛ばされそうになった。
デイジー叔父さんが俺を掴んでくれて、なんとか助かった。
俺はともかく、あんな至近距離で爆発に巻き込まれたパルカが心配だ。
「パルカ、大丈夫かッ!?」
「落ち着きなさいヒイロちゃん。間一髪って所でナルカちゃんが助けに入ったわぁん。でも全くの無傷って訳でもないわぁん」
デイジー叔父さんの言葉に俺はホッとしたが、もくもくと上がる土煙の量からしてかなりの大規模な爆発だった事は明白だ。
無事だが無傷ではない、その言葉に俺は少し不安になる。
その時、一気に風が吹き荒れて土煙が晴れていく。
山肌は大きくえぐれてクレーターの様になっており、そのクレーターの中心にフィーニスが立っていた。
肩を上下させて荒い息をしているフィーニスの体のあちこちが吹き飛んでおり、さっきの爆発は自分にもダメージのある自爆攻撃だった事が分かった。
すぐさま体を修復し、見た目は元通りになっていたが恐らくダメージは残っているだろう。
「あぁああああああッ!! くそ、くそ、くそッ!! この精霊王に、このフィーニスちゃんにこんな痛い思いさせるなんて、ただの神の端末とクソださ精霊の癖にぃいいいいいいい!!」
激しい怒りをあらわにしながら、フィーニスは地響きを伴う凄まじい地団駄を踏んで地面を踏み砕く。
そして、キッと空中を睨みつけた。
その視線の先に目をやると、そこには二つの影、パルカとナルカが居た。
パルカは体のあちこちに傷があり、しかも右腕の肘から先が無くなっており、血が溢れている。
ナルカがパルカの傷口にスライム状のモノをくっつけて傷を塞いでいるのが見えた。
ナルカの背中には黒いスライム状の羽が二対生えている。
俺の信仰で得た力をなんとか自分の物にしたようだ。
『ありがとうナルカ、助かったわ。精霊の体の自由さを失念していたわね』
「なんとかなって良かったー。人間さんの信仰が凄すぎてなんとか制御するのに手間取っちゃった。今も結構制御する事に力を割いてるから、さっきみたいに凄く早く動いて姉母様を守るなんて細かい事は出来ないかも」
『構わないわ。私様の事は気にせずアレに攻撃していなさい。今のアナタの攻撃なら、アレも簡単には防げないから』
「うん、わかったー!!」
どこかまだ余裕のあるパルカと力の制御に難儀しているナルカを見て、フィーニスはあからさまにいら立っているのが分かった。
腕の炎は激しく燃え上がり、側に浮いているドーナツ状の物体の動きが荒々しくなり、肌に刻まれている紋様が淡く光っている。
「あぁ、ムカつく。今日は最後の精霊王たるフィーニスちゃんがようやくこの世界に生まれた日だっていうのに、なんなのアンタたち。たかが神の端末とただの精霊一匹の癖に、おとなしく虫のように死んでなさいよ」
フィーニスの感情の高ぶりに呼応するかのように、大地が揺れ動き地鳴りが響き渡る。
パルカたちもフィーニスも戦意は衰えていない、まだ戦いは終わらない。




